第二章
第6話 翌日の朝
バーブノウンはヤイイリス村長とともに村に入り、村の中心へと向かうと、何やら盛り上がっている。
「フィーダちゃんいけー!」
「す、すごい! まだ負けてないぞ!」
バーブノウンとヤイイリス村長は顔を見合わせたあと、騒いでいる方へと向かう。
するとそこには大量の食料が積まれ、バクバク頬張るフィーダと今にも吐きそうな表情を見せる村人の姿が。
「あ、やっほーバーブ。バーブも早く一緒に食べようよ」
山盛りの食べ物を片手で持ちながらバーブノウンに向かって手を振るフィーダ。
「え、えっと……。それ全部フィーダが食べたの?」
「うん、美味しいからいっぱい食べちゃった」
「いっぱいって言う量じゃないよそれ……」
バーブノウンは新たなフィーダの恐ろしさを知った。
フィーダはかなりという言葉を飛び越えるくらいの大食いであること。
「おぅえ……。これはぜっ、たいに……勝てな、い……」
戦いに負けたガタイの良い村人は、大の字に倒れ込んでしまった。
カンカンカンカン! という鐘の音とともに、フィーダは勝利の拳を突き上げた。
2人の戦いに終止符が打たれると、さきほどよりさらに大盛り上がり。
女性・男性関係なく。
「ふぅ……。もうお腹いっぱいかな。ほら、早くバーブも村長も一緒に食べよう?」
「「う、うん……「う、うむ……」」
バーブノウンとヤイイリス村長は戸惑いを隠せないでいながらも夕食を食べた。
そして、あれだけ大量に食べたあとでも、フィーダは2人と一緒に食べ続けていたのだった。
◇◇◇
翌朝、早く起きたバーブノウンは目を擦りながらゆっくりと体を起こした。
建物がすべて燃えてしまったため、村の中心でみんな寝ている。
(フィーダは……どこか行っているのかな?)
バーブノウンの隣で寝ていたはずのフィーダの寝床は、もぬけの殻になっていた。
バーブノウンは靴を履くと近くの川へと向かった。
水が流れる音が近づくと、見えてきたのは細くてゆっくりと流れる澄んだ川が姿を現す。
バーブノウンは川沿いにしゃがむと、手で水を掬い上げ顔を洗った。
水はひんやりと冷たく、バーブノウンの目を覚ましてくれる。
(すごく気持ち良い……。よし、今日も頑張るぞ!)
そう意気込みを唱えていたときだった。
川を遡ったところから、バシャッと水が跳ねる音がした。
バーブノウンはその方向を見ると何かがいる。
目を凝らして見ると誰かがいるようだったが、遠すぎてはっきりとは見えなかった。
(まあ気にするほどじゃないか。さて、そろそろ戻ろうかな)
と視線を戻した瞬間、目の前に突然緑色が写った。
正体はゴブリンだった。
「うわぁ!?」
バーブノウンは反射的にゴブリンを殴った。
普通なら殴ったくらいではゴブリンはよろける程度。
しかし、
「キーーーーーーー!」
という断末魔とともに、ゴブリンは吹っ飛んで消えてしまった。
「あれ……? 僕ってこんな強かったっけ?」
殴っただけで消えてしまったゴブリンの姿を見て、バーブノウンは自分の手を見つめた。
ロレンスのパーティーにいた頃は、武器を使わないと倒せなかった。
殴っただけでなぜ倒してしまったのか、よくわからなかった。
「これは面白いのが見れたねぇ」
「フィ、フィーダ!?」
知らぬ間にフィーダはバーブノウンのところにいた。
フィーダの表情は普段通りだが、目が異常にキラキラさせている。
「バーブの魔力が体から滲み出ているからこそできる……。これはすごいよバーブ」
「え? 魔力が体から滲み出ている、とは?」
「魔力は体に蓄積できなくなり始めると放出しようとする。すると体の表面全体にコーティングされたような状態になるの」
「だから……さっきのでゴブリンを倒したんだね?」
「そういうこと、でもね……」
「――――?」
フィーダは何やら恥ずかしくなったようで、少し顔を赤らめながら視線をそらす。
「その前に、わたしが水を浴びてる姿をガッツリ見るというのは止めてほしいかな……」
「へ!? な、何の話してるの!?」
いきなりとんでもないことを言い出したフィーダの発言に、バーブノウンは焦りだす。
フィーダより、さらに顔が赤くなっていた。
「さっき思いっきり見てたじゃん。わたしが全身肌色になって水浴びしているところを遠くで……いやらしい目で」
「い!? あ、もしかして遠くに誰かいるなぁ……って思ってたんだけど、フィーダだったんだね! そう思ったんならごめんね? でも大丈夫。目を凝らして見たけど、全然わからなかったから!」
バーブノウンはちゃんとした事実をフィーダに伝えた、はずだった。
これで誤解が解ける、そう思ったのも束の間。
フィーダはジト目でバーブノウンを見つめている。
「目を凝らしてまで、わたしの裸を見たかってことってことでいい?」
「は!? ち、違うんだよフィーダ! それは誤解なんだって!」
バーブノウンは慌てて訂正を促すが、もう遅かった。
フィーダは表情を変えず、1歩ずつバーブノウンから退いていく。
「バーブってそんな人だったんだ。ちょっと、いや結構がっかり……」
「フィーダ! だから違うんだって!」
見られてしまったフィーダはバーブノウンの言葉なんて信じることなどできなかった。
目には涙を溜め、そして、
「バーブの変態! エッチ! 女の子全員に伝える!」
そう言って、うわあぁぁんと泣きながら村へと走っていった。
「フィーダァァァ!?」
フィーダの禁断のプライバシーを見てしまったバーブノウンの声が、川の流れる音とともに虚しく響き渡ったのだった。
◇◇◇
「あ、バーブノウンさんが帰ってきたわよ」
「近寄らないほうが良いわ。フィーダちゃんから聞いたでしょ?」
「そうね、早く帰りましょ」
バーブノウンを見かけた女性陣は、まるで虫を見るかのような表情を見せ、避けていくかのように立ち去っていった。
(――――終わった……)
そう嘆くバーブノウンだった。
そしてフィーダに声をかけても、まるで聞き耳を立てることも一切してくれず、無視され続けた。
バーブノウンは寝床で1人、密かに泣いていた。
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