Web小説作者の天国

 あるWeb小説の作者が死んだ。過労死だった。


 本業である会社勤めはブラック企業で、そこでのストレスを晴らすためにスマホで通勤中に書き始めたWeb小説が、つらい日々の唯一の励みだった。


 しかし寝る間も惜しんで書き、毎日五回も更新したのがいけなかったのか。


 ある日の朝、作者は満員電車の中で倒れて、それっきり帰らぬ人となったのだった。


 もう帰る必要もない。会社にも行かなくていい。


 だが、


 そんな作者の前に、天使が現れた。


 真っ白いシーツみたいなひらひらの服を着ていて、白い翼があり、頭には光る輪っかが浮いている。


「作者よ、あなたは生前よく頑張りました」


 天使は美しい顔で微笑んで、両腕をさしのべ、そう言った。


「これからは天国で過ごしましょう。そこでは、どんな作品もパッと軽率に思いつくだけで自動的に原稿になり、全てが傑作で、全てが自動的に更新され、通りすがりの天使が読んでイイネを押してくれますよ。あなたは何もしなくていいのです。よかったですね」


 作者が呆然と聞いていると、どこからか黒いモヤモヤとともに悪魔が現れて言った。


「いいやお前は地獄へ行くのだ。そこでは毎日、ノルマ2万字。そのうち1万5000字はボツだ。お前は苦しんで書き、アプリのエラーでデータは吹っ飛び、誤字脱字だらけで、クソリプが来る。更新は毎日5回だ。もう死んでいるから、眠ることも、食うこともできずに、永遠に書き続けるのだ」


 作者は震えながら悪魔の手をとった。


 Web小説作者の天国へ行くのだ。


 天使はポカーンとして言った。


「えっなんでだよ?」



――完――

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