第3話
自信満々にアプロは1歩前に出ると、足を大きく広げて力を入れる、そしてぎゅっと握った拳をただ、ただ真っ直ぐに突き出すだけで……。
「「うわあああああああああ!!」」
耳を塞ぎたくなるほど強い突風が巻き起こり、その場にいた者達は上空へと打ち上げられ蚊取り線香によって力尽きた虫のようにポタポタと落ちていく。
シーン……。
先ほどまで騒がしかった場所が一瞬で静かになり、ミスティアはその光景に言葉を失った。
「は、はわわわわっ……」
「ミスティア、ようやく思い出した」
そんな腰を抜かし尻餅をついていたミスティアに声をかけるアプロ。
「な、何がですか?」
「2年前、俺は孤独薬というのを商人から買った」
「こ、孤独薬?」
『孤独薬』その聞き慣れない言葉に首を傾げるミスティアを見て、アプロは説明を続ける。
「パーティを組まずに1人でいると、誰にも負けない最強の力を得られるという代物らしい……ハッキリ言ってそのときは効果が発揮されなかったから信じてなかったんだけどさ」
「え、ええ……?」
最強の力、その答えにどこかミスティアは納得がいかず、追加の質問をしようとしたその時、「うーん」と一斉に倒れていた者達が目を覚ましてしまった、また大勢で動くと人波に巻き込まれ面倒くさいと思ったアプロは大声で叫び、まず全員の足を止める。
「そのボスってヤツを倒すからみんな道を空けてくれ!」
起き上がった周囲はアプロの方を見ると「彼は何者なのか」と騒ぎは大きくなる、これでは埒が明かないと自分の身分をわかりやすく説明するアプロ。
「聞いてくれ、俺はあの円卓の騎士団のメンバーだ!!」
円卓の騎士団、この国で生活をする冒険者にとって知らない者達はおらず……。
「アフロ? アフロだって?」
「聞いた事もない名前だけど、円卓の騎士のメンバーなら大丈夫だな!!」
名前が違う、それに元円卓の騎士団なんだけどなと頭の中で呟いたアプロ、100人近くいた周囲の者達は納得して「円卓の騎士団にいたのなら弱いはずがない」懐から一斉にカードを取り出すと、まさかのアプロをパーティ登録するという行為に及んでしまった。
「あ、ちょっと待てお前ら」
バレット、ワスプ、ストライクイーグル……次々とパーティカードに名前が登録されてしまい、これはまずいとアプロは焦り顔を浮かべる。
それもそのはず、1人に近づけば近づくほど孤独薬の効果が最大限に発揮される……という事は組んだ人数が増えてしまえばアプロは最弱となってしまい、本人が気付いた時には遅くいつしか周りにいた冒険者達はアプロを英雄扱いのように取り囲んだ。
「よーし頼むぞ円卓の騎士団!!」
「ボスは任したぜ!!」
「それみんないくぞー!! わーっしょい!! わーっしょい!!」
そのまま担ぎ上げられ洞窟の入り口へと運ばれていくアプロ。
「あ、アプロさあああん!! ぐえっ!!」
ミスティアは必死に担がれていたアプロを下ろそうと手を伸ばすが、群衆の勢いが強くそのまま外へとはじき出されてしまい、遠ざかっていくミスティアの姿に叫んだアプロだったがその声は届く事はなく……。
「わーっしょい!! わーっしょい!!」
「救世主だ!! みんな道をあけろー!!」
流されるままダンジョンの入り口へと押しやられてしまい、雑に下ろされ抗議するアプロ。
「まさかお前ら、俺1人で戦えって言うんじゃないだろうな?」
「大丈夫だ安心しろ! 骨はひろっ……俺達がついている!!」
「今死ぬ前提で話してたよな」
「最悪貴方が死んだら逃げるだけよ!!」
「いや、見捨てるなよ」
「同じ冒険者だろ、ならもう俺達はもう仲間じゃないか! 仲間を信用出来ないってのか!?」
「……とても不安だな」
アプロの問いに周りの者達は親指を立てて応援する者や、自分が出来ない事を押しつける為にアプロに丸投げする者など責任感が一切ない発言を繰り返され、アプロは呆れながらも1つ1つ冷静にツッコミを入れていく。
その時――。
ドシンッ!
……ドシンッ!
洞穴の奥から、地面が揺れるほどの音が響いた。
「どこに行くんだ、人間共ヨ……?」
「「で、でたあああああ!!!!」」
さっきまでアプロを担いでいた者達は一斉に悲鳴をあげ、バタバタと一目散に逃げ始める、洞窟の入り口から声をかけた大男は人間の倍ぐらいの図体をしていた。
その者の見た目は牛の頭、身体は大男でありいかにも人間が進化したような、人の言葉を話す『知性のある魔物』という印象をアプロは受ける。
「頑張れリーダー!!」
「頼んだぜ、リーダーッ!!」
「おい!!」
その大きな巨体に怯えた冒険者達は、手を汚したくなく遠くからアプロに声援を送り続けた。
「なるほど……お前がこの冒険者達のリーダーか?」
「いや違う」
魔物の問いに手を軽く横に振りあっさりと否定するアプロ、しかし観客達はアプロがリーダーであるかのように声援を送り続け、牛の魔物は「やはり貴様がリーダーなのか」と言って納得した。
「俺は強き者を求める魔物ウルバヌス! さあ、死合おうではないか!!」
「仕方ないな……俺はアプロ、楽してみんなと仲良く暮らしたい冒険者だ」
思わずノリで返してしまったが内心ではこの状況は宜しくないと判断したアプロは、複数人が入ったパーティを解散させ最強の力に戻る為に懐からパーティカードを取り出そうとしたが――。
「……あれ? カードがないな」
人混みに巻き込まれた際に、パーティカードを紛失してしまっていた事に気付く。
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