第161話 そろそろ戻ろうか
クライス地方の統治はガウディ方式への統一化がほぼ済み、総代官として任命したソラシンも持ち前の内政能力を遺憾なく発揮してくれている。
住民達もガウディ家に慣れ親しんできたし、俺への信頼度も日に日に増してきて反抗の気配は全くない。そろそろクライス地方を離れて一先ずゴドールのグラベンに帰還しても良い頃合いだろう。ザイード軍のゴドール地方への侵略から端を発したこの一連の流れも、統治が上手く回りだして治安も安定したおかげで地域全体が落ち着いてきたしな。
『コル、マナ。そろそろグラベンに戻ろうと思っているのだが、おまえらも戻りたいか?』
『僕は主様が居ればどこに居ても構わないけど、リタさんやミリアムさん、そして主様の子供達にも久しぶりに会ってみたいのでグラベンの街に戻るのは賛成です』
『私も弟と同じくエリオ様の近くに居られたらどこに居ようとも問題ありません。ですが、エリオ様の無事を信じて送り出してくれたリタさんやミリアムさんに、グラベンの街に戻ってエリオ様の元気なお姿を見せてあげるのは私も賛成です。それにあの綺麗な山を久しぶりに観たいですからね』
『そうか、ならそろそろグラベンに戻ろうか。道中は頼むぞ』
『はい、僕はいつでも主様の行くところに付いていきます』
『私と弟は主人であるエリオ様を助けるのが仕事ですからね。エリオ様がグラベンの街へお戻りなされるのならお供をするのは当然です』
従魔達の希望も聞けたし統治者としての報告も必要だ。そろそろグラベンの街へ帰還する時期だろう。
翌日、俺はマルドの街に残っている武官と内政官を呼び出した。今現在このマルドに居るのは武官がゴウシさんにラッセル。そして新たに将軍になったコラウムにデポだな。
ジゲル将軍の第三軍団は既にエルン地方に向かったし、俺と兄弟分のカウン将軍率いる第一軍団は先に担当地域に赴任していった。このクライス地方に残っているのがここを担当する第二軍団のゴウシさん達だ。
あれ、今更ながら気がついたけどこのメンバーの顔ぶれは脳筋だらけのような。いや、さすがに脳筋と評するのは失礼かもしれないので言い方を変えるけど武闘派揃いだよな。とりあえず頭脳派のデポと参謀としてロメイを残すつもりなのでバランスは保たれているはずだ。ラモンさんもその才を認めるロメイが編成したのだから大丈夫だろう。ただ、武闘派の面々はなぜか俺に対する信頼度と忠誠度が人一倍大きいんだよ。それを暑苦しく感じる時もあるけど基本的にはありがたい事です。
俺はゴドールのグラベンへの帰還を告げる為にマルド城内の公館に総代官のソラシンを始めとした内政官達と武官のゴウシさん達を呼び出した。俺と一緒にグラベンに向かう予定のラモンさんやロドリゴ、ルネもこの場に揃ってる。
「皆、よく来てくれた。何かと忙しいだろうが集まってもらって感謝するよ」
俺の挨拶を聞いてまず一番先に口を開いたのは俺の弟分のゴウシさんだ。
「エリオの兄貴、水臭い事言うなよ。おいらと兄貴の仲じゃないか。おいらは兄貴とおいら達を慕ってくれる住民の為なら命なんて惜しくはねえ。ところでよ、おいら達に何か用があるのかい?」
「ああ、そうなんだ。このクライス地方の統治も軌道に乗ってきたので俺は一旦ゴドールのグラベンに戻ろうと思ってね。このクライス地方の担当になってこの地に残る人達にそれを報告する為に集まってもらったんだ」
「エリオの兄貴はグラベンに妻と子供が待ってるからな。長い間家を留守にしてると二人の子供に顔を忘れられてしまうもんな」
「ハハ、それもあるけどゴドール地方に帰還して街の人達にも統治者の立場で戦勝報告をしなくちゃいけないんだよ。同じ統治方法で運営される地域が新たに仲間に加わるからね。お互いの土地の人々の行き来も自由になるしクライス地方の魅力も紹介もしておきたい」
「吾輩も新たな赴任地がエルンからクライスに変更になり、つい先日エルンから家族を呼び寄せました。エリオ様も久しぶりにグラベンに戻って子供の相手をしてあげないといけませんな」
「ラッセルさん、このクライス地方の守りは頼むよ。それと、家族の話が出たけどコラウムとデポは二年の間は家族を人質として預かるので我慢してくれ」
「それは仕方ありません。俺も納得して人質として差し出したのですから」
「そうです。以前は敵対関係だったのを考えるとエリオ様からの信頼を私が勝ち取るには二年はむしろ短いくらいです。エリオ様、妻と子供をどうかよろしくお願いします」
「そう言ってもらえるとありがたい。おまえ達の家族は俺が責任を持ってグラベンで過ごさせるつもりだから安心してくれ。それと定期会合で招集された場合は家族と一緒に過ごさせてやるからな」
「お気遣いありがとうございます」
「エリオ様に心底認めてもらえるように地道に頑張りたいと思っています」
コラウムもデポも家族と別れるのは辛いだろうがこれは保険みたいなものだからな。一年間か二年間でどちらにするか悩んだが、ラモンさん達と話し合った結果二年間に決定したんだ。実は状況次第で期間を短縮するつもりだけどそれは本人達には告げていない。最初から余計な期待を抱かせたくないからな。
「エリオ様。クライス地方の代理統治を私に任せて頂きありがとうございます。身を粉にして頑張る覚悟でございます」
「ハハ、そんなに堅苦しい言い方はやめてくれよソラシン。ソラシンは俺が認めた優秀な内政官なんだからさ。謙虚で義理堅いのは承知してるけどもっと楽に喋ってもらいたいな」
「兄さんの言う通りっすよ。ソラシンさんは堅苦しいっすよ。もっと力を抜きましょうよ」
「申し訳ございません。エリオ様に何度も楽に喋れと言われていますが、性分としてこの話し方が身についておりますのでなかなか変えられないのですよ。ロドリゴ殿のように気軽な感じで喋りたいのですがね」
「ハハ、気にする事はない。それなら徐々に変えていけばいいさ」
堅苦しいのが玉に瑕だけど、ソラシンの能力と俺への忠誠は疑いようもないからな。性格的に正反対に見えるが意外とゴウシさんとも気が合うという不思議な関係だ。ゴウシさんは何か知りたい事があるとソラシンに聞きに行って教えてもらうらしい。
「それでは俺のグラベンへの帰還を皆は了承したという事でよろしいか?」
「「「応ッ!!!」」」
頼もしい配下達から大きな返事が返ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます