第109話 立ち話の行方
数日後、街中に隠れて残っていた青巾賊残党の掃討もようやく終わった。
青巾賊最大の拠点で首領が立て籠もっていたナダイの街を無事に制圧出来た事にとりあえず安堵しているが、まだエルン地方の全ての地域の平定が残っている。それに色々と処理しないといけないし街中の後片付けもしないとな。
作戦会議を開き今後の方針を決めた結果、第一軍と第三軍が引き続きエルン地方北部に残る青巾賊の残党討伐を担当して、第二軍がナダイの街周辺の警備と制圧済みの南部の巡回を担当する事になった。
このままエルン北部の制圧が完了すれば、この地方全体が平定される結果になるので以前のような平穏な状態がエルン地方にも戻ってくるはずだ。その為には住民達に早急に安心安全という土台を用意しないといけない。
俺達ゴドール軍が青巾賊からナダイの街を開放した事実はすぐに噂となって周辺地域に広まっているようで、街から避難していた住民達が続々とナダイへ帰還してきていた。書類仕事が一段落ついたので外に出て街中の広場で陣頭指揮を取っていたところ、俺や後片付けをしているゴドール軍に対して次々に声がかけられてくる。
「ゴドールの兵達よありがとう」
「青巾賊を倒してくれて感謝します」
「やっとナダイの街へ帰ってこれた。エリオ様ありがとう」
「ゴドールの人達のおかげでナダイの街が青巾賊から開放されたぞ」
「私は孫が何人もいる年齢だけど、エリオ様に私の全てを捧げたいくらいだわ」
ナダイの街へ戻ってきた住民達は口々に俺達に感謝の言葉をかけてくれる。お年寄りの人からの感謝の気持ちは嬉しいけど、俺に全てを捧げなくてもいいからね。
「相変わらず義兄さんは人気者っすね」
俺の元へ義弟のロドリゴが近づいてきて声をかけてきた。
「俺だけでなくロドリゴだってさっきは泣きながら感謝の言葉をかけてきた女の子にありがとうって言われてただろ」
「そうっすけど……義兄さんに比べたら僕なんて全然少ないっすよ」
「まあ、そう言うなって。感謝の気持ちは数じゃなくて、例えばそれが一人だったとしてもその人の想いの強さや深さが重要なんだよ。だから俺もロドリゴも同じようなものさ」
「そういうもんなんすかねぇ。でも、そう言われてみれば何となくわかる気がするっす。さすが義兄さんっす」
「それとロドリゴ。エルンの完全平定の完了見込みが一ヶ月後。そして、このナダイの街の復旧復興の道筋の計画が見通せるまで含めると暫くは滞在するつもりだから、誰か知らせたい人がいるなら早めに手紙を書いておけよ。確かおまえはグラベンに彼女がいたよな?」
「この地方に暫く滞在っすか。まあ、仕方ないっすね。彼女にはグラベンを出発する前にちょっと長くなるかもしれないって言ってあるっすけど。手紙を書いた方がいいっすかね?」
「あのな、書いた方がいいに決まってるだろ。相手はおまえの身を案じて待っているんだぞ。無事だと伝えて安心させてやれよ」
「あー、確かにそうっすね。後で手紙をかいておくっす。義兄さんもやっぱり姉貴やミリアムさんに手紙を書いたんっすか?」
「当たり前だろ。俺はナダイの街に突入したその日には、グラベンへの戦況報告を頼んだ伝令にリタ達への手紙を一緒に持たせたぞ。ゴドール軍はナダイの街を開放して俺を筆頭に我軍の主だった連中は皆無事だから心配はいらないって書いてな。ただでさえ子供がお腹の中にいるのだからリタ達に余計な心配はかけたくないだろ。出産時には二人のそばに居たいから、それまでに帰れるようにここでの仕事も早く一段落つくように頑張ってるんだ」
「義兄さんのそういう配慮や努力をするところが女にモテる秘訣なんすね。勉強になるっす。僕も見習わさせてもらうっす」
「エリオ様にロドリゴ殿。お二人で何を話されてたのですか?」
俺とロドリゴが会話をしてるとそこに後ろから声をかけてきた者がいた。後ろを振り返ってみると、そこには各自に振り分けられた仕事を終えてきたのか戦乙女の二つ名を持つルネが立っていた。どうでもいいけど二つ名が戦乙女なんて無茶苦茶格好いいよな。
「ルネ氏、お疲れ様っす。話っていうか、エリオ義兄さんは人気者で僕に比べたら断然女にモテまくるって話をしてたんすよ」
「あのな、ロドリゴ。そんな言い方だとルネに誤解されるだろ」
「それ、わかります。エリオ様には人を惹きつける魅力がありますから。モテるのも納得です」
「ほら、ルネ氏も僕と同じで義兄さんの事をそう見てるじゃないすか」
「いや、真面目な顔でロドリゴとルネにそう言われても困るんだが。そもそも、ルネも俺を仕える相手として客観的に魅力を感じてるだけで俺に好きとかそういう感情は起きないだろ?」
「私も………」
「どうしたルネ?」
何でそこでおもむろに言葉を切って顔を真赤にしながら無言になるんだ?
「ははーん、なるほど。義兄さんは相変わらず鈍感っすね」
「えっ、意味がわからないぞ」
「ルネ氏に僕から質問っす。ルネ氏はどういうタイプの男が好きっすか?」
「わ、私の好きなタイプ? そ、そうですね…歳が近く私よりも強くて魅力に溢れている殿方がタイプです」
「へー、ルネ氏より強くて魅力に溢れてる男っすか。僕が思うにその条件に当て嵌まる人で当然のごとく思い当たるのは…」
「ああ、思い当たっても具体的な名前とかは恥ずかしいから出さないで。過去に私に言い寄ってくる殿方は何人もいたが、私よりも弱いか、もしくは魅力を感じなかったのだ。だから私はここに来るまでそんな素敵な殿方に出会った事がなく、今まで生きていて殿方と交際した事すらないのです」
「エリオ義兄さん。やっぱり義兄さんは罪な男っす。後は姉貴とミリアムさん次第っすね。僕の予想だと優先順位さえ守ってくれたらたぶん姉貴達は認めてくれると思うっすよ。ルネ氏もその想いが本気なら頑張ってくださいっす」
「ロドリゴ殿、忝ない。恩に着ます」
おいおい、ロドリゴとルネは何を二人で納得してるんだ?
「それじゃ義兄さん。僕はそろそろ仕事に戻るっす」
「エリオ様。私も向こうの仕事を手伝いに行きます」
あー、二人して向こうに行っちゃったよ。さっきの二人の話は何だったんだろ?
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