第107話 ナダイの街へ突入

「これがナダイの街か」


 俺達ゴドール軍は驚異的な速さで快進撃を続け、とうとう青巾賊の支配する最大の拠点のナダイの街に到着した。ここを陥落させればほぼ我々のエルン平定戦勝利は確実だ。


 ナダイの街はこのエルン地方最大の規模を誇る街で領都でもあり人口も多かったのだが、青巾賊騒動の余波を受けてこの街への賊徒の接近を知った住民達のほとんどはナダイの街から避難しており、多くの者が家財道具と一緒にエルン南部と俺達のゴドール北部へと逃れている状況だ。


 街中の戦いが予想される中で、住民のほとんどが避難済みなのは安心材料と言える。これから我々が治める予定なのだから、出来るだけ住民達の被害を少なくしたいのは当然の思いだ。


 義勇軍として我々の軍に参加を希望してくる者の中にはこれらの避難民からの応募も多く、青巾賊に対して並々ならぬ怒りを覚えている者が少なからずいるようだ。


「街の中にいる青巾賊に降伏勧告の使者を派遣してくれ。回答期限は明日の朝までで、それまでに返事がない場合には総攻撃をかけるとね」


「エリオ殿。すぐに使者を立てて街に向かわせます」


「頼んだよラモンさん」


 以前のコウトの街の防衛戦の時は俺達が降伏勧告を受ける側だったが、今回は逆の立場になって相手に降伏を促す事になるなんてな。あの時は俺達の策が見事に嵌って油断した青巾賊を寡兵の俺達が壊滅させたっけ。今度は俺達が油断しないようにビシッと引き締めておかないといけない。


「兄者よ、内応者が南門を開けた後の街中への突入は我ら第一軍が受け持つ予定です。おそらく北門も同時に門が開かれてラッセルとゴウシの第二軍と第三軍が街中へ突入すれば程なくナダイの街は制圧されると思います。兄者はどっしりと構えて吉報をお待ちくだされ」


「ハハ、俺も本音を言うと戦いたくて仕方ないけどさ。今回は軍全体の総司令官だから後ろでどっしりと構えておくよ。その代わりと言ってはなんだが、ロドリゴと親衛隊の一部と新しく幹部に加わった三人を俺の直属の兵をつけてカウンさんに預ける。これらの者達を十分に働かせて戦功を稼がせてやってくれ」


「兄者よ、その願い承りました。ロドリゴも他の三人もいずれ劣らぬ剛の者なのでそれがしにとっても心強い」


「エリオ様、わしに手柄を稼ぐ機会を与えてくれて感謝しますぞ」

「エリオ様の期待に答えちゃうから楽しみにしておいて」

「ああ、エリオ様はなんてお優しいのだ。私の為に活躍する機会をくださるなんてその心配りに感動すら覚えます。今こそエリオ様の期待に答えるべく私の剣で青巾賊の賊徒達を剣の錆にしてくれよう」


「おいおい、ルネは俺を持ち上げすぎだぞ」


「そんな事はありませんエリオ様。私はエリオ様に生涯お仕えするつもりで仕官したのです。ナダイの街の攻略戦でエリオ様が直接戦う予定がなく、一緒に戦えないのがとても残念ですが、その分は私が活躍する事でエリオ様に恩返しをしたいと思ってます」


「ルネ。俺と一緒に戦えないのがそんなに残念なのか?」


「ええ、エリオ様の近くで戦ってみたいと思ってましたのでとても残念です」


「そうか……そうは言ってもな。なら、妥協して俺の代わりに二匹の従魔を連れて行っていいよ。俺だと思って従魔達と一緒に戦ってくれ。うん、それがいいだろう」


「義兄さんの従魔を貸してあげるなんて破格の待遇じゃないっすか! ルネ氏が羨ましいっすよ。義兄さんの従魔がそばにいれば百人力どころか千人力っすもんね。たぶん戦場で一番目立ちますよ」


「ロドリゴ殿、そうなのですか?」


「本当っすよ。ルネ氏はコルとマナが本気で戦ってるところをまだ見てないからわからないかも知れないけど、この二匹の強さといったら凄まじくて半端ないっすよ」


「ハハ、ロドリゴの言う通り俺の従魔は強いよ。この二匹がそばにいれば周りを気にせず安心して戦える。だからルネはコルとマナの二匹の従魔を俺だと思って一緒に戦ってくれ」


『コル、マナ。俺の代わりにルネと一緒に戦って彼女を守ってやってくれ』


『わかりました主様。一生懸命頑張ってきます』

『エリオ様と離れるのは寂しいですけど、エリオ様の頼みとあれば仕方ないですね』


「ありがとうございますエリオ様。コルちゃん、マナちゃん、私と一緒に戦ってくれないか? どうかよろしく頼む」


「「ワオン!」」


「いいってさ。それじゃ従魔はルネに預ける。この二匹は賢くて人の言葉が普通に理解出来るからルネの好きなように使ってくれ」


「はい、お預かりします」


 まあ、ルネも従魔達が実際に戦ってるところを見たら驚くだろう。俺だって最初は見た目とのギャップに驚いたもんな。とにかく何とか上手くまとまったようだな。


 ◇◇◇


 ナダイの街を占拠する青巾賊に降伏勧告の使者を送ったが、結局期限までは回答が得られずに呼びかけは物別れに終わってしまった。よし、ならば手筈通りに降伏勧告が駄目だった場合、街の中にいる内応者が強引に門を開けるはずだ。後は俺達が雪崩込んでナダイの街を占拠する青巾賊を討伐するだけだな。


「皆の者! いつでも出陣出来るように隊列を整えておけ!」


 俺の指示を受けたゴドール軍が隊列を整えて街中への突撃に備える。今か今かと待ち構える皆の顔に緊張が走っていく。


 そしてその時が来た。門の向こうで剣と剣がぶつかり合う音や怒声が聞こえた後、やがてその音も消えて静かになっていった。


 暫くの間を置いて「ゴゴゴ」と音を立てて門が大きく開いていく。

 門が完全に開いたのを見届けた俺は大きな声で号令を発したのだった。


「門は開いたぞ! 皆の者、前へ進め!」


「「「応ッ!!!」」」


 俺の号令を合図にナダイの街を占拠する青巾賊への総攻撃が始まった瞬間だった。

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