第82話 サゴイの街は色使いが面白い
差配人の居館を出てサゴイの街中に出て周囲を見渡してみる。
「さて、どこへ行こうかな」
お薦めの場所を聞いてくれば良かったかなと後悔しかけたが、行き先を決めずに行き当たりばったりも旅の醍醐味だと思い直した俺は適当に歩いてみる事にした。
しかし、この街は本当に色使いが面白い。
街に建っている多くの建物の壁の色がバラバラだ。これといった規則性もなく思い思いの色の建物が軒を連ねている。それだけでなく同じ壁の色でも建物によって屋根の形が違っていたり、玄関の扉や窓枠の色が違っていたりと必ずどこかしらが違っていて同じものはないようだ。
とりあえず、この街ではどんな物が売っているのか商店が多い場所へ行ってみるか。リタやミリアム達にもお土産を買ってくると約束したしな。忘れないうちに早めに買っておくのもありだろう。
何となく人が多くて賑やかな方へ行けばお目当ての場所へ辿り着けるような気がして勘を頼りにそれっぽい方向へ足を向けてみる。俺が向かうのはいかにも買い物に行くような雰囲気を纏った人達が歩いていく方向だ。
どうやら当たりだったみたいだ。俺が辿り着いたのはこの街の商店街みたいな場所で、通りの両側には色々なお店が建ち並んでいる。一匹だけでなく二匹の従魔連れの俺の姿が珍しいのかチラっと見てくる人はそれなりにいるが、犬型の魔獣で見た感じはそんなに怖くないので、その姿に安心するのかすぐに関心がなくなるようだ。
『手懐けた魔獣がコルとマナで良かったよ』
『主様、いきなりどうしたんですか?』
『私もエリオ様の従魔になれて幸せですよ』
まあ、これは俺の本音だ。種族名こそ幻狼犬族古代種というまるで世間に馴染みのない珍しい種類の魔獣だが、知能が高くて賢い上に宝玉を見つけてくれたりと俺に何度も幸運を運んで来てくれる。それだけでなく、強さも半端ないという全てを兼ね備えた自慢の従魔だからな。
店を眺めながら歩いていると香辛料などを扱う店があった。中へ入ってみるとコウトの街の値段よりも安かったので料理好きなリタ達の為に結構な量を購入した。店の親父に聞くとサゴイ周辺にはそれ専門で栽培や収集をしている業者がいるので値段がかなりお得らしい。
香辛料の店を出て暫く歩くと、陶磁器を扱っているお店が何軒か固まっている場所が目に入った。陶磁器はこの街で買おうとしていたお土産の本命だな。
一軒目の店に入ってみたが、店主に話を聞くと高級品を専門に扱ってるようで、値段を聞いたらかなりの高額だった。冷やかしのようになってしまったが初見だし店に入るまでわからないもんな。一軒目のお店の店主が言うには、一般的な家庭で使う陶磁器の食器類は三軒目のお店がいいらしいのでその店に行ってみる事にした。
三軒目の店に行って中に入ってみると、装飾や色付けは一軒目のお店の品物のように豪華ではなくそれほど凝ってはいないが、品の良さそうな食器類が並べてあったので自分で選んでみる事にした。
服装のセンスはまるでないけど、実用品や工芸品は結構見る目があるつもりだ。少しくすんだオリーブ色の食器セットと薄紫色を基調としたグラデーション模様のティーセットが良さそうだな。この二つのセットを購入しよう。
「こんちは。この二つの食器セットを買いたいのですが」
そう言うと、奥からこの店の店主が姿を現して俺の指差した食器セットとティーセットを箱に詰めてくれた。
「お客さん、結構センスがいいね。これはうちと契約している窯元の最新作で私も出来が良いと感じてた品物だ。値段の割には良い品物だから大事に使ってくださいよ」
ああ、良かった。俺の選択は間違ってなかったようだな。店主がそれらのセットを入れた箱には窯元の名前が書いてあるぞ。覚えておいて後でこの窯元の品物を見つけたら優先的に買ってみようかな。
とりあえず、リタとミリアムに渡すお土産は確保した。あと野郎どもにはサゴイの地酒と特産品のつまみでも買っていけばいいだろう。困った時の神頼みの言葉をもじった、困った時の酒頼みって言葉があるくらいだからな。
それらしいお店と酒屋でお土産用の品物を購入したので買い物の用事は済んだ。このままロイズさんの居館に戻ってもいいが、この街のギルドはどんな感じなのか少し覗いてから戻るとしよう。
酒屋でギルドの場所を聞き出したので迷わず行けそうだ。教えてもらった道順に従って歩いていくと大きな扉の上に紋章が掲げられているこの街のギルドが見えてきた。今日は特に用はないので前を素通りしていくが、半分開いている扉から中の様子が見えていて何人かの人影が確認出来た。
最近の俺はすっかり寄り付かなくなっているが、決められた額の会費を払っているので身分は一応継続している事になっている。どこへ行こうともカードは身分証に使用出来るからね。
『寄り道も済んだしロイズさんの居館に戻るけど、おまえ達は何か欲しい物はあるか?』
『そうですね。今のところ欲しい物はないです』
『私も特にありません』
うちの従魔は金が掛からなくて本当にありがたいよ。
さて、従魔達にも確認したので居館に戻ろう。
居館は大きくて目立つ建物なので迷う心配がないのはありがたいね。どこから見てもその姿はすぐにわかるもんな。案外その為にあんな奇抜な外観にしてるのではなかろうか。
居館に到着したのでここを出て行く前に渡されたカードを門番の人に見せると、確認が済んだ後は何の問題もなく中へ入れてもらえたな。一応、ロイズさんに戻った事を報告しておこう。
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