第66話 隠れ家へ突入

 俺の足元に駆けてきたコルに念話で礼を言う。


『コル、ラモンさんを連れてきてくれてご苦労さん』


『これくらい何てことないです主様』


 少し遅れて到着したラモンさんが俺のそばに駆け寄ってきた。


「エリオ殿、早速ですが商会から金を脅し取っている連中の隠れ家はどこですか?」


 俺は一軒の家を指差しながら「ここです」と伝える。


「なるほど、ここが隠れ家ですか。ところでカウンに連絡は?」


「従魔のマナに行かせてます。そろそろ応援部隊を連れて到着する頃でしょう」


 ラモンさんに説明してその場で少し待っていると、別の方角からマナに先導された十人程の人影がこちらへ駆けて来るのが見えた。どうやらカウンさんと急遽集められた応援部隊のようだ。その中にはゴウシさんやソルンの姿も見える。


 こちらもマナが俺の足元に駆けて来たので労いの言葉をかけてやる。


『マナ、ご苦労さん。おまえのおかげでカウンさんを呼びにいく手間が省けて助かったよ』


『エリオ様、これくらい大した事ではありません。お気になさらずに』


 カウンさん達も俺のそばに駆け寄ってきたので軽く手を上げて挨拶をしておく。


「カウンさん、急に呼び出してすまない」


「兄者よ、何を水臭い事を言うのだ。それがしはいつ兄者から呼び出しがかかるかと首を長くして待っておりましたぞ。ゴウシと官舎にいた部隊員。そして必要かと思い、本部の監察官も連れて来ましたぞ」


 さすがカウンさん、機転が利くな。一応ではあるが、特別監察執行官の俺以外にも中立的立場の本部の監察官がいれば名目上隠れ家への踏み込みに正当性が持てるからな。


「エリオ第三部隊長。いや、特別監察執行官とお呼びした方がよろしいか。私は本部付きの監察官でガードナーと申します。この場ではエリオ殿の指示に従わせて頂きます。よろしくお願いいたします」


「ガードナー監察官、こちらこそよろしくお願いします」


「おいおい、エリオの兄貴よ。俺も忘れてもらっちゃ困るぜ。このゴウシが来たからには百人力ってもんだ」


「ああ、ゴウシさんが来てくれて心強いよ。兄貴分としてお礼を言う、ありがとう」


「へへ、エリオの兄貴の為なら何だってやってやらぁ」


 その他にも頼もしい第三部隊員の面々の顔が見える。

 ソルンは黙ったままだけど少し緊張気味かな?


 顔ぶれを見ながら何となく過剰戦力のような気がするが数は多い方がいいだろう。踏み込み時にドアを破壊してもいいが、集まった人の中に解錠の得意な者がいるという事なので、その部隊員に隠れ家のドアの解錠は任せるのをその場で決めた。


 建物の裏手側にも人員を回して、念の為にコルとマナも外に残して連中が逃げられないように周囲を固めた俺達は静かに建物の玄関ドアに近づいて解錠作業にかかる。簡単な種類の鍵だったらしく、見ていたらあっという間に解錠作業が終わった。


 後は俺が突入の命令を下すだけだ。

 解錠した部隊員がドアのノブに手をかけて開ける準備をする。

 俺は右手に短剣を持ち、左手でゆっくりカウントダウンを始める。


「突入!」


 部隊員によってドアが開けられた瞬間に俺達は武器を持ちながら一斉に建物内に突入していく。一番最初に突入した俺は前方に進みながら素早く建物内を見渡し、左側にある部屋から灯りが漏れているのを見つけ一気にその部屋に入っていく。そして後方からカウンさんとゴウシさんも俺に続きながらその部屋に突入していった。


 灯りが点いていた部屋はそこそこの広さがあり、真ん中に置かれたテーブルを囲むように男達が四人座っていて部屋に突入してきた俺達を驚いた顔をしながら見つめていた。


「その場から動くな! 動くと実力行使する!」


 俺がそう叫ぶと四人の男達は何が起こったのか理解出来ないという顔をして暫くの間硬直していたが、そのうちの一人が恐怖にかられたのか立ち上がって逃げようとする素振りを見せた。すると、その男へゴウシさんの鉄拳が炸裂する。


「グガァア!」


「おう、兄貴がその場から動くなって言ってるのに何でおまえはその言いつけを守らねえんだ?」


 ゴウシさんに殴られた男は顔を押さえながら元の場所に座らされる。

 あの鉄拳は強烈に痛そうだな。少なくとも俺は食らいたくない。


 とりあえず、連中の手足を縛り自由に動けないように拘束してもう一度椅子に座らせる。これから簡単な尋問をしないといけないからな。他の部屋も確認したがこの家に居たのは四人だけのようだ。縛ってる間に見張りの人間を残して外にいた部隊員も建物の中に入ってきた。コルとマナもまだ外で警戒中だ。


「逃げ出した者はいません」


「報告ご苦労」


 さて、俺が尾行したのは二人組だったがこの部屋には四人いる。残りの二人も仲間と見ていいだろう。まず、俺がモリソン商会から尾行してきた二人組にラモンさんと一緒に尋問を開始する。その間に他の部隊員は証拠探しだ。


「俺はコウト自治部隊第三部隊長で特別監察執行官のエリオだ。おまえ達が商会から脅迫を手段にして金を脅し取った容疑でここへ調査に来た。この期に及んで言い逃れなどをせずに素直に自分達がやった事を白状しろ」


「だ、第三部隊長の漆黒のエリオ。そしてカウンやゴウシまで……」


「最初の質問だ。今日、おまえ達はモリソン商会から金を脅し取ったよな?」


「な、何の事か知らねえ!」


 そこへ建物内で証拠探しをしていた部隊員が金の入った布袋を何個か持ってきた。その内の一つは見覚えがある。モリソン商会でこの二人組に渡した布袋は縛り口が赤くそめられていたからな。布袋が復数あるという事は他でも脅迫して金を脅し取っていたのだろうか。俺は縛り口が赤く染められた布袋を掴み男の前に置く。


「嘘をつくなよ。今部隊員が持ってきたこの布袋はモリソン商会の物だぞ。これはおまえ達がさっきモリソン商会から脅し取ってきた金貨の入った布袋だ!」


「し、知らねえ! モリソン商会なんて知らねえ!」


「まだシラを切るのか。仕方ないな」


 俺は布袋の縛り口を緩め、中に入っていた金貨を何枚か手に取り布袋から出してテーブルの上に置いた。


「ほら、よく見てみろ。この金貨の表面には小さな文字で何か書いてあるだろ。簡単には落ちないインクを使ってモリソン商会と書いてあるんだ。それにおまえ達がモリソン商会で金を脅し取っている現場を俺は隣の部屋から覗いて見ていたんだ。これでも言い逃れをする気か!」


 俺の言葉を聞いた男は肩をガックリと落としてようやく観念したようだ。


 部隊員による証拠探しも進み、脅迫して金を脅し取っていたと見られる商会のリストや、日付の入った帳簿らしき物も見つかった。後はこれらの証拠と被害者や関係者の証言を照らし合わせながら全容解明をしていかないとな。


 簡単な尋問や証拠集めも終わり、俺達は証拠となる物品を持って四人の男を部隊本部へ連行する為にその隠れ家を後にしたのだった。

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