第56話 部隊員の反応
カウンさんとラモンさんとの話し合いも終わった。休暇明けという事で第三部隊の部隊員が勢揃いしてるので、部隊専用施設の大会議室で俺が部隊員に向かって挨拶をする予定だ。その挨拶の中に訓示や指導も入れていこうと思っている。いつも執務室にいるリタやミリアム達も今日は直接大会議室に行ってるはずだ。
そろそろ頃合いかと思い、カウンさんラモンさんと一緒に大会議室に向かって歩いて行く。今回はコルとマナは執務室でお留守番だ。大会議室に近づくに連れてざわざわと大勢の人の話す声が聞こえてきた。部隊員が揃っているようだな。
大会議室の前方付近にある扉から俺が部屋の中に入ると、その姿を見た部隊員達のざわめきがまるで波が引くように静まっていく。カウンさんとラモンさんを脇に残して壇上に上がった俺は大勢の部隊員に見つめられながら挨拶を始めた。
「皆さん、第三部隊長のエリオです。賊徒撃退後の休暇を挟み、またこうして部隊員が一堂に会する事が出来て部隊長の俺も嬉しく思っています。皆さんには賊徒との激戦の疲れを取って頂く目的で休暇が与えられましたが、ゆっくりと休めたでしょうか? 今日から再び勤務が再開しますが、皆さんとまた一緒に働ける事を俺も楽しみにしています」
ここで挨拶は一先ず区切る。
部隊員の皆から俺に向かって大きな拍手が送られてきた。一度同じ戦場で共に死線をくぐったからか、第三部隊は団結力があるように感じる。よく見ると大柄な体が一際目立つゴウシさんがエリオ兄貴ッ!と叫びながら最前列で一生懸命拍手をしてくれてるぞ。
拍手が収まるのを静かに待っているとようやく静寂が訪れた。
「さて、皆さんにお知らせする事があります。残念ながらこれは嬉しい知らせではありません。どの部隊なのかは不明ですが、我々自治部隊の誰かがこのコウトの街の住民に対して理不尽な暴力を振るっている大きな疑いがあります。俺自身も街の住民から話を聞いたのですが、その住民が嘘を言っているとは到底思えず事実であろうと確信しています。まさかこの第三部隊内にそのような不届きな人物がいるとは思いたくはないですが、もしそのような行為に心当たりがあるのなら、後で俺や副隊長、そして参謀に打ち明けてください。街や住民の安全を守る為に組織された部隊が、その街や住民に暴力や悪事を働くというのは本末転倒です。俺の部隊からはそんな人物を出したくありません。そういう訳でそのような事を防止する為に、部隊規則というものを作ろうと考えています。近々他の部隊とも協力して正式な部隊規則を作成するつもりですのでどうかよろしくお願いします。何か意見のある方はこの場で手を上げてください」
俺の言葉を受けて大会議室内は少しざわめいていたが、これといった反対意見はないようだ。傭兵稼業でも冒険者稼業でも規則があるからなのか、この話も何とか受け入れてくれそうだ。ならば、草案の作成をラモンさんに進めてもらおう。
「反対意見がないようなのでこのまま解散する事にします。この後はそれぞれの勤務に就いてください」
俺が解散を宣言すると、部隊員達は各々の職責を果たす為に大会議室を出ていった。俺も自分の職務をする為に部隊執務室へと向かう。一応釘は差しておいたから、それを無視して住民に暴力を振るおうとする隊員はいないと思いたい。
ただ、こればかりは他の部隊との兼ね合いもあるからな。部隊によって街や住民達に対する接し方に温度差というものが存在してるのは誰もが認めるところだ。第二部隊のタイン部隊長は実直で仕事ぶりも真面目なので部隊を纏め上げる能力は疑う余地がない。問題はカモン筆頭部隊長なんだよな。
執務室に戻ると先に到着していたカウンさん達が俺を出迎えてくれた。執務室の部屋内には秘書官のリタやミリアムも揃っていたので、俺の話を聞く側にいた彼女達に俺の挨拶や訓示の時に周りの部隊員の反応はどうだったのか聞いてみた。
「リタ、ミリアム。俺の話を聞いていた部隊員の反応はどうだった?」
「そうだね。部隊員の住民に対する暴力の話が出た時は皆驚いてたね。憤慨している人がほとんどだった。何となくだけどうちの部隊員には住民達への暴行犯はいないような気がするよ」
「私も周りの人達の反応を見てました。もしかしたら第三部隊にそういう人がいて何かしらの反応をする人がいるかもしれないって思ったものですから。でも、私の見る限り怪しい素振りをしてた人はいなかったように思います」
そういう感情を表に出さない狡猾な人がいる可能性も考えられるけど、二人の見た印象を聞くと俺は少し安心した。
「二人に限らず、皆も何か様子がおかしい隊員がいたら俺に報告してくれ。それとラモンさん。すぐに草案作りを頼むよ。出来上がったら他の部隊との話し合いも設定しておいてくれ」
「わかりました。エリオ殿」
◇◇◇
翌日、ラモンさんから部隊規則の草案が出来上がったと執務室で報告を受けた。あまり雁字搦めな規則を作っても、厳しすぎて隊員が逃げ出してしまっては元も子もないので基本の5ヵ条を策定してみたそうだ。
1・部隊の風紀を乱さない事(虐め、賭場などへの強制勧誘、詐欺や押し売りなど)
2・借りた金は期限までに返済する事(お金に関しての相談は承ります)
3・脅迫や恐喝で商人や住民から無理やりお金を借りたり脅し取らない事
4・一般人に対して強制的な凌辱や相手の弱みに付け込んだ不義密通をしない事
5・一方的に住民などに暴力を振るわない事(互いに同意した喧嘩や決闘、理由もなく襲われて正当防衛での返り討ちは対象外になる場合もある)
街の規則に被ってる部分もあるだろうがこんな感じかね。冒険者同士や傭兵同士だと規則があっても実際には結構アバウトだが、相手が力のない一般人や商人だと一方的になってしまうので何かしらの抑えがあった方がいいよね。普通にしていればまあ守れそうな規則ではないかな。大体のトラブルの原因って金銭問題や暴力、男女関係、賭け事や人を騙す詐欺だもんな。住民からの声も聞くつもりだし、破れば給金停止や強制除隊に加えて街の法が適用される。とんでもなく酷いケースには最悪極刑も適用されるだろう。告発も受け付ける事にしてある。
◇◇◇
たぶん不備もあるだろうけど当面はこれで良しとしよう。
カウンさんもこれでいいのではないかと言ってくれたしな。
「エリオ殿、統括官及び、第一と第二部隊の部隊長や幹部との話し合いを設定しておきました。場所は本部の統括官室です。今から向かいましょう」
そして、俺達は統括官室に話し合いに行く為に執務室を出たのだった。さて、他の部隊の反応はどうだろうか?
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