第35話 念願叶って可愛い従魔と心が通じ合う

 買い物が終わって宿に帰り、合格発表までの宿の宿泊滞在費を払った後で自分の部屋に戻ってきた。発表まではやる事がなくて暇になりそうなので、何か予定を立てた方がいいのかな。


 とりあえず、買ってきた鎧を磨いておこう。バッグから鎧とその付属品、そして布と洗い液を取り出す。この洗い液は薬草から抽出したもので服や物の酷い汚れを落とせるのだ。


 改めて眺めて見ると本当にこの鎧や付属品は汚いな。ずっと長い間、蔵の中で放ったらかしにしてたと見えて色艶が全くない。手持ちの布に洗い液を染み込ませてせっせと磨いていく。


「ゴシゴシゴシ、ゴーシゴシ。フンフンフンフン、ゴーシゴシ。磨きのコツは無の境地。ゴシゴシゴシ、ゴーシゴシ。ゴシゴシゴシ、ゴーシゴシ」


 あー、いっけね。思わず磨き歌を口ずさんでしまった。従魔が俺の歌を聴きながら変な踊りまでしているぞ。コルとマナよ。俺の歌に合わせて変な踊りを踊るんじゃありません!


 真心を込めて磨いた甲斐があり、くすんで汚れていた鎧だけでなく付属品のガントレットや膝当ても黒々艶々とした本来の輝きを取り戻した。


「磨いて綺麗になったこの鎧と付属品は漆黒と呼ぶのが相応しい色だな」


 新品じゃなく中古なので細かい傷はあるけど、こうして見ると意外と美しい。見た目がダークな漆黒なので惚れ惚れとまではいかないが、実用的な美しさというか機能美を感じさせてくれる。これは案外良い買い物だったのかもしれん。


 もう一つ買ってきた鉄の筒も取り出してみる。全体が錆びついていてガラクタと言われても納得の品物だ。蓋を取ろうと真上に引っ張ってみるが、固着してるのかぴったりとくっついてる。


 ささっと表面だけ拭いてコルとマナの遊び道具にするか。さっき使用した布で表面をかるく拭き上げると錆が落ちてそこそこ綺麗になった。


「ほら、コルとマナ。これで遊んでおいで」


 筒を床に置くと、二匹は前足でコロコロと転がしながら遊び始めた。おー、二匹とも転がすのが上手い。筒はあんな遊び方も出来るんだな。


 まあ、コルとマナが遊んでいるうちに磨いた鎧と付属品を改めてもう一度装備してみるか。俺の命を守る物だから体に馴染ませておかないとな。


 今更ながら気がついたけど、俺っていつも黒系のズボンを履いてるからこの黒い鎧を着るとほぼ全身が黒になるのだった。辛うじてブーツは焦げ茶色だけど、暗くなったらそんなに黒と変わらないもんな。全身の色使いとか元々今まで気にしてなかったしどうでもいいか。どうせなら全身黒で統一してみるのもいいかもな。あとで皆にも意見を聞いてみよう。


 その場で何も持たずに剣を振る動作や体術などの色々な動作をしてみるが、動きは阻害されないし大丈夫そうだな。一通り動きをチェックしてみたけどこれといって不具合や問題はなさそうだ。


 ガントレットや膝当ては打撃効果としても役に立ちそうだし、この硬さなら刃の攻撃も受け止められそうだ。こうして身に付けてみると安心感が湧いてくるぞ。


 コルとマナにもこの勇姿を見せてあげようと振り向くと、俺が遊び道具として渡した鉄の筒の両端をお互いに噛み咥えながら引っ張り合いをしていたところだった。綱引きみたいな動きが滑稽で微笑ましいな。


 そんな風に思いながら、二匹に声をかけるのも忘れて筒の引っ張り合いに見とれていたら、錆びついて固着していた蓋がポロッと外れて二匹は両側の壁に向かって勢いよく吹っ飛んでいった。ドンと音を立てて壁に向かってぶつかった二匹が心配だ。


「コル、マナ、大丈夫か!?」


 俺は心配のあまり、部屋の両側の壁際にいる二匹を交互に見ながら叫んだ。二匹とも首を振りながらその場で立ち上がったのでどうやら大丈夫みたいだ。全く心配させやがって。


 二匹の無事を確認して一安心した俺は部屋を見ながら何かの違和感を感じた。あれー、どこかで見たような物が床に何個も転がってるぞ。どこからどう見ても光り輝いている玉のように見えるな。そこには蓋の開いた鉄の筒の中から転がり出た玉が何個もキラキラと光り輝いていた。


「えええっっ!」


 あれってどう見ても宝玉だよな!? 何の変哲もない錆びた鉄の筒の中に入っていたのが宝玉だったなんて、そんなの夢にも思っていなかったからすぐに言葉が出てこないよ。


 転がっている玉には金色のものある。確か金色の玉は何かの称号だったよな。とりあえず、床に転がっている鉄の筒と宝玉を拾わないと。筒の中から出てきた玉は全部で八個あった。そのうち金色の玉が二つで残りは赤い玉。一度にこんな多くの玉をこんな間近で見るなんて予期してない上に初めてだから心臓がドキドキしてきた。


 どんな称号やスキルが封印されているのか確かめずにはいられない。

 早速二つの金色の玉を両手に掴んで持ち上げてそのうちの一つを胸に当ててみた。


『この玉の力、称号【従魔と心通わす者】の力をお主は欲するか? 答えよ』


 おお、まさかの従魔関連の称号だ! 有り得ない程の幸運に俺の心臓は更にドキドキしてきた。落ち着け俺。


 何々、この称号の効果は主人と従魔のお互いの心と心をより一層強く結びつけ、知能の高い従魔とは念話によって意思疎通が出来る場合がある。そして、主人と従魔が心を通わす事により、従魔の主人への信頼度が最大値になり能力も上昇する。


 こんな偶然ってあるのかよ。従魔持ちの俺にぴったりの称号じゃないか。この称号の効果で今でも強いうちの子達がもっと強くなるんだな。これは当然受け入れるしかない。


「はい、この玉の力が欲しいです」


 いつものように玉が俺の体に吸収されていく。もう称号の効果が発揮されてるはずだが、これといった特徴のある変化がないからよくわからないな。


『姉ちゃん、主様があの玉の力を吸収したみたいだよ』

『エリオ様が強くなるのは私達にとっても嬉しいね。でも、どんな力を吸収したのかしら?』


 何だこの声?

 俺の頭に直接聞こえてきたぞ。どこから声がしてるんだ? 部屋を見渡しても俺とコルとマナしかいないぞ。そういえば、この称号は知能の高い従魔とは念話で意思疎通が出来るんだっけ。


 だとしたら……

 俺は心の中でコルとマナに向けて念じるように語りかけてみた。


『コル、マナ、おまえ達の主人のエリオだ。俺の声が聞こえるか?』


『あれ? 姉ちゃん、主様は喋ってないのになぜか主様の声が聞こえるよ』

『本当だ。私もエリオ様の声が聞こえたんだけど…どうしてかしら?』


 やっぱりそうだ。

 やった!この二匹の従魔と念話で意思疎通が出来るようになってるぞ! これはコルとマナの主人の俺としては飛び上がるほど嬉しい。だって、従魔と念話とはいえ言葉で意思疎通が出来るなんて普通じゃ考えられないよ。


『コル、マナ。俺の念話が聞こえてるんだな。聞こえていたら右の前足を上げてくれ』


 俺の指示に従って二匹は右の前足を同時に上げた。従魔達も俺と念話で会話が出来るのに気がついたようで大はしゃぎしている。ああ。俺だって涙が出そうなくらい嬉しいぞ。


『コル、マナ。俺の従魔になってくれてありがとう。これからもよろしくな!』


『主様。僕は主様が大好きです!』

『エリオ様。どうか弟と私をよろしくお願いします!』


 コルとマナが俺に飛びついて来るのを体全体で受け止める。二匹をギュッと抱きしめた俺はとても幸せな気分だ。


 今まではどうしても会話が出来なかったので俺という主人に使役される従魔という関係を超えられなかったが、これからは名実ともに俺の家族そのものと言えよう。もの凄い充実感が俺の心を満たしているぞ。


 ふふ、感動の余韻に浸るのも良いが忘れずに残りの玉も確認しないとな。


『コル、マナ。ちょっと待ってろ。他の玉も確認しなくちゃいけないからな』


『はい、主様』

『そうですねエリオ様』


 もう一つの手に持っている金色の玉を胸に当ててみる。


『この玉の力、称号【魔法の探求者】の力をお主は欲するか? 答えよ』


 おお、こっちも凄いのが来た! えーと、武の達人と同じように持っている魔法のレベルを四つ底上げしてくれるのか。ただ、こちらは武の達人とは違って持っていない魔法には効果がないみたいだ。でも、聖魔法のレベルが四つ底上げされるのは大きいな。


 この玉の力も吸収しておこう。


「はい、この玉の力が欲しいです」


 たぶん、大昔の人が鉄の筒に宝玉を入れて保管していて、そのまま使わずに長い間死蔵されていたのか知らないが、たぶん家が途絶えてしまってガラクタとして処分されあの店で二束三文の値段で売られていたのだろう。俺にとってはそのおかげでとんでもない幸運が舞い込んできたな。


 そして、残っている六つの赤い玉も確認してみると…


『槍術9』『槍術8』『火魔法8』『土魔法8』『風魔法8』『土魔法7』


 と、どれもが高レベルで貴重な超レア玉ばかりだった。こんな奇跡ってあるんだな。真面目な話、幸運すぎて恐ろしくなってくる。でも、素直にその幸運を受け入れようと思う。俺はその宝玉の中から『槍術9』と『土魔法8』の力を追加で続けて吸収した。そして残りの玉は色々と考えた結果、リタやミリアム、ロドリゴにあげて使ってもらうつもりだ。喜んでくれるかな。


 貴重なレアの武術の宝玉も勿論嬉しいが、何よりもコルとマナとの念話が可能になってお互いの意思が言葉で通じ合えるようになったのが俺にとって一番嬉しい出来事だったな。

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