第30話 推薦状を貰って次の目的地へ

 賊徒の討伐依頼が完了して俺達外部委託組の七人は、守備隊と一緒に街のギルドに戻ってきた。既に賊徒を討伐した知らせが届いていたのか、街の入り口では住民達が俺達を待ち構えていて大歓迎をしてくれた。ちょっとした凱旋気分を味わえたよ。


 討伐隊結成当初は守備隊の中に俺達に軽い敵意を持つ者や、胡散臭いと思う人達も存在していたようだが今はそんな感じはすっかり消えている。俺達の活躍を間近で見て考え方を改めたようだ。あと、怪我人の治療を積極的にやったのも守備隊が俺達に好意的になった理由の一つだろう。まあ、俺が供出した回復薬代はしっかり頂くけどね。


 夜も更けてきたが街の好意によりギルドの食堂で祝勝会という名前の簡易的な短い宴会が開かれるようだ。守備隊の人達の中には妻や子供、恋人、友人など、大事な存在を持つ者も多い。中にはこの戦いが終わったら好きな人に告白するんだとか、結婚を申し込むんだとか、強烈なフラグを引っ提げて参加した人もいるだろうしな。無事に帰って来れて良かったね。


 そんなこんなでざわざわとしてるギルド内。隅の方に固まって立っていた外部委託組の俺達の元に髭を生やした恰幅の良い人物が近づいてきた。


「私はこのギルドのギルド長を任されているブラスコと申します。あなたがエリオさんかな?」


「はい、そうですが」


「エルケナーから報告を受けましたが賊徒の首領を倒すなど大活躍だったようだね。外部委託組の代表はエリオさんになったと聞いたが、それで間違いないかね?」


「ええ……間違いないです」


「そうですか、後で論功行賞に伴い依頼報酬に加えて追加の報酬も渡す事になると思う。細かい詰めの話をしたいのでそちらの会計責任者を決めて欲しいんだ。こちらも報酬の配分やお金で揉めたくないしね」


 確かにお金で揉めるのは後味が悪いからね。誰に会計を任せようか。まあ、俺でもいいけどさ。


「エリオ殿、私がやりましょう。そういうのは得意ですからな」


 おお、ラモンさんが手を上げてくれたぞ。そういえば、雑事が得意って言ってたもんな。優秀な家宰のような雰囲気を醸し出してるし、ここはラモンさんにお願いしておくか。一応、信用はしてるけど誤魔化されないように俺もチェックするけどね。


「すみませんがお願いします」


 報酬のお金は明細として祝勝会の前に渡されるようだ。祝勝会は食べ物や飲み物の準備もあるので始まるまで少しだけ時間がかかるらしい。ラモンさんを残して一旦宿に戻って出直してこよう。着替えもしたいからな。


「じゃあ、一旦宿に帰って着替えたらまたすぐに来ましょう」


 ラモンさん以外の六人と二匹はギルドを後にしてすぐ近くの宿に帰り、それぞれの部屋に向かう。武装を解いて椅子に腰掛け一息入れてコルとマナを撫でながら物思いに耽る。短い間だったけど、外部委託組の人達と一緒に仲間として活動したのは俺にとって良い経験になった。なんせ、従魔の二匹はいるけど広い意味では今まで一人ぼっちだったもんな。


 ダムドの街のギルドでこちらから誘っても、馬鹿にされて仲間に入れてもらえなかった頃を思い出すと今の状況とは雲泥の差があるな。


 そろそろ時間なので、体を綺麗にして服を着替え準備を終えた後、従魔のコルとマナを連れベルマンさん達にも声をかけ、皆連れ立って祝勝会の会場のギルドに向かう。


 皆はカジュアルで楽な格好の服装をチョイスしたようだ。リタさんとミリアムさんの女性二人はどちらも膝上丈のスカートを履いている。今まではずっと緩いズボン姿しか見ていなかったので、二人のスラッとした長い生足が拝めるスカート姿は艶めかしく新鮮に映るね。


 俺の視線に気付いたリタさんが口を開く。


「エリオ。あたしのスカート姿もイケてるだろ。普段はスカートなんて滅多に履かないんだよ!」


「はは、リタさんもミリアムさんも綺麗な素足にスカートがとても良く似合ってるよ」


「エリオさん、姉貴がスカートを履いたのは気になっているエリオさんに自分の生足を見せつける為っすよ。エリオさんの気を引く為の姉貴なりのお色気作戦っす。僕は弟だから姉貴の考えは大体わかるっす」


「うるさい! ロドリゴは黙ってな!」


「ハイハイ」


「ガッハッハ。ミリアムも同じ理由か!」


「違います! そんな事ないです!」


「フッ、そう言いながら顔が真っ赤だぞ、ミリアム!」


 あのね。ベルマンさんもバルミロさんも若い女性をからかっては駄目ですよ。

 俺なんかに見せる為なんてないですって。全く困った人達だ。


 ほぼ時間通りにギルドに到着すると既に会場の準備は出来ていて、テーブルの上には用意された食べ物やジョッキに注がれた酒や果実水などの飲み物が所狭しと置いてあった。俺達に続いてこの街の人達も続々とギルドの中に入ってくる。街やギルドとの交渉が済んでギルドで待っていたラモンさんが俺達に気づいてこちらへ歩いてきた。


「エリオ殿、交渉が纏まりましたぞ。こちらが受け取れる各人の報酬の明細です。皆さんも確認してもらえますかな」


 一人ずつ報酬明細書が渡されたので俺の分を確認すると、最初の依頼契約額に加えて上乗せされた報酬額が書かれていた。思ったよりも多くて街側の誠意を感じる金額だ。これを後でギルドの受付に持っていけばお金を受け取れるらしい。そしてこの報酬明細書は、どこのギルドであっても共通でこれを提示すればお金が受け取れるシステムになっているそうだ。便利なものだな。


 皆を見てみると満足そうな顔をしてるから、このような依頼の報酬としては良い部類なんだろう。仕事が評価されて良かった。


「ラモンさん、交渉役お疲れ様でした。ありがとうございます」


「いえいえ、これも一種の戦いですから私もやりがいがあるってものです」


 そんな風に話をしていたら参加者全員が揃ったらしく、この街の長とギルド長から集まった人達に向けて挨拶があるらしい。


 さっき会ったギルド長の横に立っている白髪の老人がたぶんこの街の長なのだろう。その白髪の老人が話し始める。


「別の街を襲い、この街も襲おうとしていた賊徒を守備隊の人達と依頼を受けた方々が討伐してくれた事に心から御礼申し上げる。あなた達の働きでこの街が賊徒達の手から守られました。街を代表してこの街の長の私が皆様に感謝の意を捧げます」


 続いてギルド長からも挨拶があるらしい。


「この街からの依頼を引き受け、見事に賊徒達を討伐してくれた皆にギルド長の私からも感謝の言葉を申し上げたい。皆の働きでこの街が守られた。その御礼と言ってはなんだが、ささやかな宴の場を設けさせてもらった。各人目の前に置かれているジョッキを持ってくれ。それではこの街の勝利を祝して乾杯!」


『乾杯!』


 ジョッキに注がれた酒や果実水を飲みながら、出された料理を食べていく。コルとマナにも用意してもらったので俺のすぐ横で食べてるよ。そして、暫くわいわいと話しながら飲み食いをしていると、俺達の元にギルド長がやってきた。


「やあ、君達も大いに飲んで食べてるかい?」


「はい、おかげさまで存分に楽しんでます」


「ところで君達に提案があるのだが…少しだけ私の話を聞く気はないかね?」


 俺達はギルド長の言葉にお互いに顔を見合わせる。

 どんな提案なんだろう?


「実はね、コウトという街というか規模的には都市があるのだが、そこでは領内を守ってくれる人材を募集しているらしいんだよ。コウトは特別領の中心都市で領地としていた王族に連なる人物が居たのだが、領地には常駐せずに王都に住んでいたところをクーデターに遭い殺されたらしくてな。特別領に中央から派遣されていた代官や駐屯兵も王国の崩壊で統治する名目がなくなり、故郷の状況に不安を覚えて引き上げる者が多く、事実上解散してるそうだ。コウトは現在街の有力者と残った元駐屯兵の一部、そしてギルドの警備によって保たれているらしい。そして、コウトの街は君達のような強い者を求めているのだ。まだコウト周辺は穏やかで不穏な気配もなく平和らしいが、もしもの時に備えて今のうちに部隊を作るなどして出来る事をやっておきたいようだね。もし、この中の誰かがその募集に応募したい、もしくはコウトに行って話を聞いても良いと思うならば、私がこの街のギルド長として公式な推薦状を発行して君達に渡す用意があるのだがどうかね?」


 コウトでは部隊を結成してこれからの乱世に備えるのか。

 元々俺は噂に聞いた西の大国をこの目で見てみたくて旅をしてきたからな。

 でも、その西の大国は事実上崩壊して各地で争乱が起きている。

 たまたま寄ったこの街で賊徒の存在を知り、依頼を受け討伐をする機会を得た。


 今のところこれという目標がある訳でもないし、そのコウトという都市に行って部隊の話を聞いてもいいかもな。行ってみて良かったらその仕事を引き受けるのもありだろう。


「受けるかどうかは今の時点では確約出来ませんが、コウトに行ってその話を聞くのは興味があります。推薦状を書いて貰えるならよろしくお願いします」


「そうか、ありがとう。確か君はエリオさんだったね。他の人達はどうかな?」


「ガハハ、その話は面白そうだな」

「フッ、いっぱい稼げそうだな。腕が鳴る」


 ベルマンさんとバルミロさんが興味を持ったようだ。

 二人とも戦いの匂いがする場所の話を聞くと血が騒ぎそうだもんな。だとすると、リタさんロドリゴ姉弟やラモンさんとミリアムさん親子とは残念だけどここでお別れかな。そう思ってギルド長にこの三人でお願いしますと言おうとしたら。


「あたしも行く。行くに決まってるじゃん」

「私も行きます。お父さんいいでしょ?」


 リタさんとミリアムさんが私達も行くと手を上げた。

 君達はそれでいいの?


「エリオさん。姉貴はさっき宿に戻った時にエリオさんとこのまま別れるのは寂しいし、出来れば別れたくないと何度も言ってましたからね。そこらへんは姉貴の女としての気持ちを察してくださいっす。あっ、姉貴が行くなら当然弟の僕も付いていくっすよ」


「うるさいうるさい! ロドリゴは余計な事は言わなくていいんだよ!」


「ミリアム。本当にエリオ殿達とコウトに行くと決断したのなら私は親としておまえの意思を尊重するしかない。出来るだけおまえのやりたいようにさせようと思ってるからな。エリオ殿、私とミリアムもご一緒させてもらいますぞ」


「ありがとうお父さん」


 えっ、つまり全員コウトに行くという事でいいのか?

 俺は強制はしてないし問題ないよな。


「そういう訳でこの七人全員がコウトに行かせてもらいます。全員分の推薦状をお願いします」


「わかりました。あなた達の前途に幸運があることを私も願っています」


 そんなこんなで俺達は七人全員揃ってコウトに向かう事になった。

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