第28話 街の近くで武装した連中を発見
その日の夜は賊徒の襲撃はなく、用意してもらった宿でゆっくり眠る事が出来た。昨夜は自分の部屋に戻ってから、ようやくコルとマナをブラッシングしながらいっぱい撫でられたのでモフ分補給もバッチリだ。
「コルとマナよ。おまえらの主人は俺なんだから忘れるなよ」
『『わう?』』
ちなみに宿の部屋割だが、俺には二匹の従魔がいるので俺一人で使用させてもらった。リタさんとロドリゴ君は姉弟なので同じ部屋。俺なんかが年頃の女の人と同じ部屋で眠る事になったら夜は悶々として寝られそうにない。ロドリゴ君いわく、姉のリタさんを女として見ていないらしいので全くそういう感情は起きないそうだ。
そして、ラモンさんとミリアムさんの関係だが親子なんだそうだ。何かの仕事に就く為に西の大国を目指していたのだが、クーデターが起きた影響でそれもなくなってしまった。今更戻るのも何だしどこかで仕事を探そうとしてこの街を訪れたら、街の守備の依頼の話を聞き当面の仕事として親子で受けたそうだ。ラモンさんはともかく、ミリアムさんも凄い度胸の持ち主だな。
うん、リタさんといい、ミリアムさんといい見た目の美しさに油断してはいかん。
起きて宿で用意された食事を済ませ、その後は装備を装着して皆と詰所となっているギルドに向かった。何かしら新しい情報が入っているかな?
俺達がギルドに入っていくと何やらざわついている。
どうしたんだろう、何か動きがあったのかな?
街の守備隊と話しているエルケナーさんの姿があったので、一応だが助っ人組リーダー役の俺が代表して聞いてみよう。
「おはようございますエルケナーさん。何か動きはありましたか?」
「おはよう。えーと、君はエリオさんだったね。実は偵察に出ていた私達の仲間がこの街の外でコソコソと様子を伺っていた数人の不審な連中を発見してね。その不審な連中はすぐにその場を後にしたのだが、こちらの偵察要員はその連中の後をつけて尾行する事に成功してね。ここからちょっと行った街道脇の森の中で野営してる武装した大勢の連中がいるのを確認したんだ。そいつらの特徴が頭に青い布を被っていてここらへんを荒らしている賊徒の特徴とぴったりなんだよ。偵察要員が連中の話している内容を盗み聞きしたら近日中にこの街を標的にして襲撃するのは決定事項らしい。それで、これからどうするかを君達も交えて話し合おうとしていたんだ」
とうとう賊徒がこの街の近くに現れたのか。
この街が次の襲撃予定になっているのは確実。
賊徒は襲った街の者を殺し、女は凌辱して金品や食料を奪っていくらしい。
襲われた街はまだ備えが出来ていなくてそこを突かれたという話だ。
だが、この街は兵こそいないが街の守備隊と雇われた俺達がいる。
頭に青い布を被った賊徒とやらをこのまま野放しには出来ないな。
「わかりました。ラモンさん、エルケナーさん達と話し合いを始めていいですか?」
昨日の宿での話し合いで副リーダーはラモンさんにお願いした。
一番歳上で冷静沈着そうだったからね。
「それでよろしいかと。では、今すぐ始めましょう」
すぐに俺達は街の守備隊達と一緒に話し合いを始めた。
エルケナーさんがまず一番に口を開く。
「賊徒がこの街を襲ってくるのは確実だ。で、我々はどうするべきだろうか?」
その質問に俺は手を上げて発言の許可をもらう。
「賊徒がこの街を襲ってくるのは確実です。ただ、このまま賊徒が攻めて来るのを指を咥えて待っていて、街の中に侵入されるのはリスクが高すぎます。こちらの戦力数では人が飛び越えられるような低い壁しかないこの街の周辺全部を守るのが難しいので賊徒の侵入を防げるとは思えません。ここは相手の潜伏場所も判明したので街に立て籠もらずこちらから先手を取って相手の不意を突き先制攻撃をしてみてはどうでしょうか?」
すると街の守備隊の一人が手を上げて許可をもらい発言を始めた。
「でも、街中の方が俺達も良く知ってるし、向こうが攻めて来てから迎え撃つという方法はどうだ?」
それも当然考えられる方法だ。だが、今回の場合は俺達が賊徒の潜伏先を先に見つけ有利な状況にあり、この街への襲撃の計画も事前に知った。街を攻撃されてからだと壁を越えられて何かの拍子に住民に被害が出る可能性が高い。住民を人質に取られる可能性もある。それに賊徒は既に別の街を襲い、その成功例に酔って勢いに乗っているとみていいだろう。向こうがまだ見つかっていないと思って油断している今のうちに先にこちらから攻撃した方がいいと俺は考えた。どちらを選ぶのかはこの守備隊の責任者のエルケナーさんだ。
俺と守備隊の人両方の意見を聞いた守備隊の責任者のエルケナーさんが悩んだ末に結論を下す。
「そうだな。今回はエリオさんの意見を採用しよう。先に潜伏先を見つけたし賊徒を街に近づけさせないで戦いたい。これが最終決定だ」
よし、これで後は賊徒を倒すだけだ。
「ねえ、エリオ。あんたが話している時に体からオーラが出ているように感じて何だかとても頼もしく感じたよ」
リタさん、急に何を言ってるんだ?
「僕もそんな印象を受けたっすよ」
ロドリゴ君まで…
うーん、もしかしてあの称号の効果とか?
よくわからん。
話し合いは終わり、俺達は時間を置いて日が落ちてきて薄暗くなり始めてきてから賊徒が潜む森へ向かう事になった。作戦はこうだ。守備隊の人達が後方から密かに回り込み大声を出しながら攻撃して敵を撹乱する。一ヶ所だけ隙を作りそこへ混乱して逃れて来る賊徒を俺達が待ち構えて撃退する。その網から漏れた賊徒を倒すのは俺の従魔のコルとマナの担当だ。
日が落ちてきて薄暗くなり始めた森の中を守備隊と一緒に進んで行く。奥の方に大勢の人の気配を確認した。よく見ると青い色の布が動くのが見える。そこからは回り込む守備隊と分かれて俺達はここで待機だ。
あとは作戦通りに奇襲で意図的に作る誘導目的の隙間から賊徒がこちらに向かってくるのを万全の体制で待つだけだ。守備隊との別れ際に双方で手を上げてお互いの健闘を祈った。
守備隊の姿が見えなくなり、その場に俺達だけが残される。
皆の顔を眺めると、引き締まった表情はしているものの緊張はしてなさそうだ。
「それじゃ皆さん。あとは賊徒が来るのを待つだけですが俺達も頑張りましょう」
無言で頷く助っ人雇われ組の仲間たち。
身を低くして待っていると、奥の方から大勢の人達が叫ぶ声が聞こえ、暫くした後青い布を頭に巻いた連中がこちらに向けて走ってくる姿が見えてきた。薄暗い中でも青い布は認識出来る。
その中の一人が一旦距離を置いて体勢を立て直せと叫んでいる。
ようやく俺達の出番が来たようだ。
俺は後ろにいる仲間達に手を上げ叫んだ。
「行くぞ! 攻撃開始!」
「「「オー!」」」『『ワウッ!』』
俺達と賊徒との戦いの火蓋が切って落とされた。
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