第8話 とんでもない物を見つけてきた
マナと名付けた二匹目の従魔を登録した次の日の朝が来た。
昨夜はコルと同じように床に厚めの布を敷いたら、マナも気に入ってくれたようでそこに寝そべってくれた。これで二匹の家の中での眠る場所も決まったな。
マナもコルと同じように少食なようで肉は一つしか食べなかった。
それでさえも一応食べてみたという感じであっさりしたものだ。
よくそれで二匹とも身体を維持出来るものだと疑問に思うのだが、魔獣ということもあり何かしらあるのだろう。
俺としては金もかからず嬉しいのであまり深くは考えないでおくけどな。
なんてったって初めて魔獣を従魔にしたのだから不明な点もあるし、コイツらのこともそのうちわかってくるだろうさ。
さて、今日の予定だが…
まだ薬草買い取り優遇期間は継続中なので稼げるうちに稼いでおきたい。
俺の採取した薬草も上級回復薬に加工され、どこかの需要のある場所に卸されるのだろう。たまにギルドで聞く情報では大陸のあちこちで諍いや争いが絶えないらしいからな。今回もどこかで大量に注文が出たのだと思う。加工された上級回復薬はこの国に限らず商人達によって他の国や地域へも運ばれるのだ。
出かける準備をして二匹の従魔達に声をかける。
「コル、マナ、そろそろ出かけるぞ」
俺の呼びかけに反応したコルとマナはその場から起き上がり、俺の脇の定位置に寄ってきて俺を見上げる。二匹とも既に出かける準備は出来てるようだな。
「よし、行くぞ」
二匹の従魔を引き連れ家を出た俺は街の外に向けて歩いて行く。
まだ朝早い時間なので街中を出歩いている人はほとんどない。
今日は昨日の場所とは違って以前から目をつけていた別の場所に行くつもりだ。
そこは初めて行く場所だが、地形的に薬草などが多く群生していそうな条件が揃っている場所なのだ。もし、見込みが外れて空振りになってもそこからそう遠くない場所に俺だけが知る薬草の小群生地があるのでカバー出来るだろう。
街の門を抜けて今日の目的地に向かってひたすら歩いて行く。
空を見ると雲が多めだが風の雰囲気や肌に触れる空気の感じでは雨が降るような天気ではない。
道すがら出会う人もなく、コルもマナも俺の横で金色と銀色の滑らかな毛並みを見せながら軽やかな足取りで付き従っている。
「おまえら頼むぞ」
しかし、従魔にしてみたのはいいがコイツらは強いのか弱いのか主人の俺でもわからないんだよな。俺のスキルに使役や鑑定などがあればコイツらのスキルもたぶんわかるのだろうが、底辺の俺にはそんなものはないから漠然と二匹がそこそこ強ければいいなくらいに思ってる。
『『ワゥッ!』』
フフフ、二匹とも俺の気持ちを知ってか知らずか返事は元気だな。
街道を暫く歩き、途中から目星をつけた場所へと林の中を分け入っていく。
確か前に薬草採取の途中で出会って話したことがある木こりおっさんの情報ではこの林を抜けた先にちょっとした草原が広がってるはずだ。
地面から生えている雑草を払い、足元に注意しながら林の中を分け入り歩いていくと、次第に周りの木々が少なくなり草原が広がってきた。もっと奥に行くとまた林になっていて、ここらへん一体だけが木々のない草原のようだ。
辺り一面には俺の求めていた薬草がそこかしこに群生していて、それはちょっとした宝の山に見えてくる。情報は確かだった。ありがとう木こりのおっさん。
今日も薬草をたくさん摘んで稼げそうだ。
「コル、マナ。俺はこれから薬草を摘むからおまえらは自由にしていていいぞ。もし何かあったらすぐに俺に知らせてくれ」
コルとマナは薬草採取が出来ないからな。
遊びながらでもこの周囲をパトロールしてくれたらいいや。
俺に指示された二匹はそれぞれ思い思いの方向へ駆けていく。
二匹を見送って暫くは俺一人で集中して薬草採取だ。
いつものように丁寧に薬草を摘んでいく。
時間もかかるし面倒だが、品質の良いまま採取するとしないでは買い取りの価格がまるで違ってくる。冒険者の中にはそれを面倒臭がって適当に摘む者が多く、せっかく採取してきたのに傷物が多くて買い叩かれてしまう場合が多いのだ。
そういう理由もあって薬草採取は人気がなく、地味だが重要な依頼であるにも関わらず駆け出しの初心者か俺みたいな底辺の専業仕事みたいなポジションになっていた。
なので、ある程度強くなってランクが上がった冒険者や傭兵からは、冒険者の経験年数が結構ありながら薬草採取を主な生業とする者は蔑まれる傾向にある。特に俺に絡んでくるガンツなどがそれらの典型的な例だ。
そんな風に考え事をしながらでも薬草採取の手は抜かず、せっせと摘んでいたら結構な時間が経過していたようだ。額に吹き出た汗を手で拭いながら座り込んで手を上に伸ばして大きく息を吸い込んで深呼吸をする。
ふと空を見上げると、雲の合間からいつの間にか太陽が顔を出し俺のいる草原に暖かな日差しが降り注いでいた。微かに遠くから鳥のさえずる声が聞こえ、風で揺れる草がさわさわと踊っている。
周りを見渡して見ると、見える範囲ではコルとマナの姿がないようだ。
薬草採取に集中してたからあまり気にならなかったが、あいつらどこまでパトロールに行ったのだろうか。
とりあえず、二匹を呼んでみるか。
「おーい、コル、マナ。こっちへ戻って来い!」
二匹に聞こえるように呼びかけて暫く待ってみる。
静かに耳を澄ますと、別々の方向からガサガサと草を掻き分けて走ってくる音が聞こえてきた。一応だが、別の魔獣の可能性もゼロではないので剣を鞘から出して握りしめておく。
やがて見覚えのある金色がかったコルの毛並みと、銀色のマナの毛並みの二匹が同時に俺の前に現れた。安心した俺は身体の力を抜く。
「おまえら、返事くらいしてくれてもいいだろ。ちょっとだけ身構えたぞ」
そう言いつつ二匹の姿を確認すると、二匹とも赤い玉を口に咥えていたのだった。
何だ、口に玉を咥えていたから返事が出来なかったのか。
えっ、待てよ、二匹が咥えてるあの玉ってもしかして!
そう、俺の記憶に間違いがなければあの玉は宝玉だ。
二匹ともなんてとんでもない物を見つけて来たんだよ!
俺は近寄ってくるコルとマナを見ながら想定外の事態に呆然と立ち尽くすしかなかった。
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