【魔王視点】戦う臆病者
日が暮れ、屋敷の中で魔王は安堵していた。
エムルは遠くに追いやった。
内政はやっと安定し、ゆとりが出来た。
ウインに任せておけばエムルを……多少はおとなしくさせられる。
私とセイラが魔物狩りに出かけられるようになれば国内の魔物は減っていくだろう。
ダウンしたオガもそろそろ回復するころだ。
「大変です!」
「エムルか!またエムルか!」
「いえ、今回だけは違います!名前持ちです!名前持ちの魔物が現れました!魔王様を倒すと叫んでいます!」
「すぐに向かう!港に居るウインに至急支援要請を送れ!」
「分かりました!」
街の外れにはガイコツがローブを着た魔物が軍の兵士に囲まれている。
「皆、もっと離れろ!」
指示を受けた兵士が離れていく。
「私を倒しに来たようだな」
「その通り。我の名はメツ!この国の魔王を倒しに来た」
「お引き取り願いたいものだな」
「それは無理だ。魔王を倒し、この国を混乱に陥れる。未来はすでに決まっているのだ」
「決闘がお望みか?」
「勘違いしてもらっては困る。決闘ではない。我がお前を一方的に蹂躙するのだ!魔王を倒した後はこの国にいる魔族と人間すべてを殺す!骨の弾丸!」
メツの指先から骨が飛んでくる。
1発の威力は強くは無いが10本の手から絶えず骨が飛んでくる。
避けきれない。
「ふははははは!じわじわと弱って死んでいくがいい!」
「ぐう、ハイファイア!」
メツに向かって中級魔法を撃ち出し、骨の弾丸ごと燃やし尽くす。
「ふははは!その程度で倒せると思うな!!」
攻撃は効いている。
だが相性が悪い。
魔法使いは多数の雑魚との戦闘には向いているがボス1体との戦いには向かない。
しかもメツは大人の人間と同じ程度の身長だ。
攻撃範囲の広い上級魔法の相性も悪い。
炎が効くなら中級魔法を連発しつつ、回復魔法で体力を回復させれば押し切れる。
なん十発もハイファイアを当てて、傷を回復魔法で回復させた。
「そろそろ、終わりにしよう」
メツは炎の魔法で左腕は焼け落ち、全身がボロボロになっていた。
「ふむ、それがお前の限界か?」
「何を言っている?追い詰められているのはお前の方だ」
「ふむ、倒してみるがいい」
「ハイファイア!ハイファイア!ハイファイア!ハイファイア!」
メツが崩れ落ち、動かなくなった。
「か、勝ったか!」
「魔王様がメツを破った!」
「我らの勝利だ!」
歓声が響く。
だが、嫌な魔力を感じた。
街の外を見ると、3体のメツがこちらに歩いてくる。
兵の顔が笑顔から恐怖に染まる。
「どうした?魔王?調子が悪いのか?そうそう、言い忘れていたが、私は1体だけではない。では、小休憩は終わりにして、蹂躙を再開しよう。くくく、くくくく!その顔が見たかった!その絶望したようなその顔!分かるか!最初から4体で戦うことも出来た!だが希望を与えてから絶望に突き落とすために1体はワザと負けてやったのだ!」
そこに青竜に変身したセイラが現れる。
1体のメツにとびかかり噛みついたまま空中に上がり、地面に落としてコールドブレスを連射した。
残り2体のメツが骨の弾丸を飛ばすが、ハイファイアで残り2体を焼いていく。
セイラがコールドブレスの連射で1体のメツを倒すと残った2体のメツが同時に声を発する。
「くくくく!気が変わった。魔王をじわじわとなぶり殺しにする。スケルトンの相手をさせてやろう。我は後ろで高みの見物をさせてもらう」
2体のメツが後退していった。
「た、大変です!スケルトンの軍団がここに迫ってきます!」
万を超えるスケルトンの軍勢がこの地に迫って来る。
まずい!そろそろセイラの竜化が解ける!私の魔力は残り少ない。
「スキルでブラックホールの魔法を使う!衝撃に備えよ!」
魔王は1回だけ次に使う魔法の消費魔力を無しで魔法を使うことが出来る。
矢を打ってくるスケルトン部隊の矢面に立ち、矢を受けながらブラックホールを使う。
前方にブラックホールが発生し、暴風が発生する。
セイラが私を咥えて奥に撤退した。
私は動けなくなり、ベッドで横になる。
兵士が前に出て戦うが分が悪い。
私は動けなくなり、竜化が解かれたセイラが前で戦う。
セイラは長くはもたないだろう。
私を殺しに来るか。
私が外に出れば、私を追ってくる。
皆は体勢を立て直すことが出来る。
……覚悟を決めた。
「オガを、呼んでくれ」
オガが部屋に入って来る。
オガは恐怖で震えていた。
「オガ、私を担いでこの街から離れて欲しい。出来るのはオガしかいない」
「そ、そんな事をしたら!魔王様が死んでしまうだよ!」
「だが、このままではみんな死ぬ。ウインへの救援要請は送ったが、港まで距離が遠い。このままではみんな死ぬ」
オガは震えていた。
「外を見て欲しい。今、兵士が戦って、少しずつ人が死んでいる。目をそらさず見てくれ」
オガは戦場を見て震える。
「今すぐ私を街から連れ出せば、皆助かる。だが、このままでは皆死ぬだろう。オガが動けば助かる!だが動かなければ皆死ぬのだ!!」
オガは逃げるように叫んで部屋を後にした。
「……」
私はマジックポーションを飲んだ。
オガを信じる。
オガは臆病だが、優しい。
人を守る為なら、オガはやってくれる。
「ふー!ふー!おらがやるだよ!!おらがああ!」
オガは私を右腕の大楯にロープで固定した。
「すまない!ある程度逃げたら、私を、捨ててくれ」
オガは私を運んで急いで外に出た。
「こっちだあああああ!こっちに魔王様がいるだよおお!」
オガはスケルトンを引き付けるようにして走って逃げる。
スケルトンの大軍がオガを追うように移動する。
「オガ!最後の魔法を使う少しだけ止まってくれ。魔法を使い終わったら私を捨てろ!命令だ!」
私は大楯に固定されたままスケルトンに手をかざす。
「フレア!」
私は意識を失っていく。
オガの声が聞こえる。
「お、おらがああ!おらが魔王様を守るだよおお!」
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