【勇者視点】勇者パーティーの失敗続き③ ベリー脱退

 勇者パーティーが宿泊する宿屋で、勇者ブレイブは怒りに震えていた。

「ウインが英雄だと!!、そんなわけねえだろ!」

 ブレイブの怒りは収まらず、新聞をびりびりと引き裂いた。 

 

 ウインは魔の森に入って死んだはずだ!!

 そうだ!マスゴミのいつものフェイクニュースに決まっている!!


「落ち着け、そんなに取り乱していると小者に見えるぞ」

 ガーディーは馬鹿にしたように鼻で笑う。

「なんだと!」

 こうしていつもの罵りあいが始まった。


 だが今回は女性陣にも飛び火した。

「大体ほかのメンバーも情けない!もっと俺に追いつくように頑張ってくれ!」

「私は役に立ってるわよ!何言ってるのよ。頭がおかしいんじゃないの?」

 マリーも参戦する。

 マリー・ガーディー・ブレイブの性格は違っても共通している部分があった。

 それは自分に甘く他人に厳しい事だ。

 


 シーとマインは黙ったままうつむいく。

 ベリーはため息をついて何も言い返さず黙る。

 ブレイブ・マリー・ガーディーの罵りあいはしばらく続いた。





 ◇




【ベリー視点】

 ベリーは街に出てから笑顔になった。

 ウイン、やっと見つけた。生きてたんだ。

「ふふふ」


 ベリーはさらに笑顔になる。

 マインとシーには、パーティーから出ていく話し合いをしてあった。

 後はこの国を出ていくだけ。

 私が抜けた後は、マインとシーも勇者パーティーを抜ける。


 ベリーは、装備品を全て新調し、今の装備を急いでクリーニングに出した。

 その間にベリー後援会への手紙を書く。


 何度も書き直して、5枚目でやっと完成。

「ブレイブたちの事をちょっと悪く書いたけど、この位は良いよね!」

 この手紙には、マインとシーを守る狙いもあった。





 ベリーは、ベリー後援会の拠点へとたどり着く。

「返却したいものがあってきました」

「べ、ベリー!す、少しお待ちください」

「ごめんなさい。急ぎの用事があるの。すぐ行かなきゃ」


「しかし、でも、くっ!分かりました」

 男は涙を浮かべていた。

「さ、最後に一つだけ、握手してください!」

「う、うん」


 ベリーは差し出した男の手を優しく握った。

 ベリーは逃げるようにその場を後にする。




 ◇




【グレン視点】

 ここはベリー後援会の拠点

 ベリー後援会の会長グレンが指揮を執る形で会議が執り行われた。


「これからベリー会議を執り行う。今回は緊急事態だ。心して聞いて欲しい」


 会議室がざわついた。


「グレン会長!次に支給するベリーの装備、特にスカートの丈以上に大事な話題があるのですか!!」

 ベリーの装備一式はベリー後援会から支給される。

 会議では基本的に優先度の高い議題から話し合いをしていく。


 ベリーのスカートの丈をミリ単位で調整し、ベリーから受け取り拒否されず、なおかつ出来るだけ短い丈にするというのがいつもの最優先議題であった。


「今回は緊急事態だ!みんなにも共有したい!3日前ベリーから手紙とともに装備一式を返却された!」


 更に周りが騒がしくなる。

「みんな落ち着いてくれ!静かにして聞いて欲しい。ベリーが勇者パーティーを脱退して、隣国のアーサー王国へと旅立った」


「会長!どういうことですか!」

「俺たちのベリーはどうなってしまうのですか!」

「今後の対策は!」

「ベリーはもうこの国に居ないのですか!」



 静まらない声をグレンは一喝した。

「静まれーーーい!!」

 会議室に静寂が戻る。


「その為の会議だ。まずは皆と手紙の情報を共有したい」

 グレンは指を鳴らす。

 すると、ベリーが後援会に送った手紙の写しが全員に配られた。


「これはベリーが装備を返却すると同時に我々に送った手紙の内容だ。みんなに見て欲しい。」




ベリーの手紙

__________________________________

 後援会の皆さん。

 いつもお世話になっております。


 突然ですが、私は勇者パーティーを抜けてアーサー王国へと旅立ちます。

 理由は、勇者パーティーのブレイブ・ガーディー・マリーと一緒に冒険していくのに耐えられなくなったからです。

 これを読んだ方は、国を出ることに疑問を持たれたかもしれません。

 ですが、私が勇者パーティー脱退の申請書をギルドに提出しようとしても受け取ってもらえなかったのです。勇者ブレイブにも脱退を認めてもらえませんでした。


 皆様にお願いがあります。

 それは、今勇者パーティーに残っているシーやマインのことです。


 彼女たちがこのまま勇者パーティーに居たら、無実の罪でひどい目に合った元勇者パーティーのウインと同じ運命を辿ると思っています。


 もし、彼女たちがひどい目に合いそうになったら、助けて欲しいのです。


 誠に勝手なお願いではありますが、どうかよろしくお願いします。


 最後に、皆様には、装備の支給、資金の援助、ご声援、多大なご尽力を賜り,感謝しております。

 本当にありがとうございました。


 ベリーより

_________________________________



会議室はざわついた。

グレンは辛抱強く待った。

みんなに手紙の内容を理解してもらい、感情を整理してもらいたかったからだ。







 グレンは手をパンと叩いた。

「これより会議を再開する!」


 グレンは一回深呼吸した後話を始める。

「俺の意見から聞いて欲しい。勇者パーティーへの資金援助はもう無しにしたいと思っている」

「そうだな。ベリーが居ないんだ!」

「勇者たちの助けをする意味は無い!」



「反対意見は無いようだな。もう一つの考えだが、これは俺の恨みに過ぎない。みんなには断ってもらっても、後援会を抜けてもらっても良いと思っている。だが、協力してもらえるなら、勇者パーティーの悪事を暴きたい!勇者たちの卑劣な行いの情報を集めてマスコミにリークしたいと考えている!」


「俺、協力するよ!」

「会長!手伝います。」

 こうしてベリー後援会は勇者パーティーを調べ始めた。


・ベリーの脱退の真実

・マインとシーが勇者パーティーに入ってから笑顔が消えた件

・ベリー後援会によるマスコミへのリーク情報の精査

・ブレイブたちの日ごろの行いの悪さの裏どり



 調査は順調に進んでいた。

 ベリー後援会会員の職業は多様で、清掃員から冒険者、マスコミギルドまで多くの人材が揃う。

 噂話をまとめるだけで素早く情報が集まるのだ。


 勇者ブレイブたちは知らない。自分たちがじわじわと追い詰められていることに。

 当然、シーとマインもベリーと話をしたことで、脱退の準備を進めていた。








 ベリーの亡命後、勇者パーティーは、ギルドに呼び出された。

 ギルド員は淡々と話を始める。

「勇者パーティーの冒険者ランクは現在Aですね」


「そうだな。」

「このままではBランクに降格です」

「なんだと!それはおかしい!この俺がBランクだと!!何かの間違いだ!」


「最近依頼の未達成、期限の遅延などが連続で起こっています。当然の措置です」


「シー、マイン、お前たちがしっかりしていればこんなことにはならなかったんだ!!!どうしてくれるんだ!」

言い返してこないシーとマインにブレイブは怒りをぶつけた。


 シーとマインは大きく目を見開いて顔を見合わせた。


「シーさんとマインさんをパーティーから脱退させますか?構いませんよ?お二人なら、すぐにほかのパーティーに加入できるでしょう」

「そんなことは言っていない!」


「そうですか。シーさん、マインさん。脱退したくなったらいつでも脱退申請書を出してくださいね?脱退する権利は法律で保障されていますから」

「勝手に話を進めるな!」


「私はただ、ギルドのルールをお話ししただけです」

「お前と話をしても時間の無駄だ!」

 ブレイブは怒りながら勇者パーティーとともにギルドを出て行った。


 ギルド員とブレイドのやり取りを観察している者が居た。

 ベリー後援会の会員である。

「あれがブレイブか、なるほど、確かに厄介な男だ」


 ギルド員はおびえた様子で話を始めた。

「ぎ、ギルドとしてはきちんとした対応をさせていただきますので、ギルドへの制裁は無しにしていただきたいです」


「大丈夫だ。まともな対応を続ける限り、ギルドに制裁はしない」


「あ、ありがとうございます。」

 冒険者ギルドはベリー後援会に睨まれてから態度が急変した。

 ベリー後援会にごまかしの証拠をつかまれ、マスコミにリークされれば自分達がどういう目に合うかわかっているのだ。


 デイブックの組織はとにかく国民の敵意を恐れる。国民の目は厳しく、寛容さに欠けるためだ。

 冒険者ギルドも例外ではなかった。


 冒険者ギルドは、とにかくトラブルを嫌う。

 今まではトラブルをウインやベリーに押し付け、ベリー後援会に目を付けられそうになるとベリー後援会の考えにすり寄る。


 こうして厄介ごとを回避し続けるのが冒険者ギルドの体質だ。


 もし、ベリーがもっと苛烈な性格であったなら、もっと早く勇者パーティーの横暴は明るみになり、事態はは良化していただろう。


 悪に対してまともな対応は効果が無い。

 悪には悪をぶつけるしかない。

 剣で殺しに来る相手に話し合いや説教が無駄なように、カウンターとして相手を殺すような悪意が必要だったのだ。

 ベリーの行動は今まで上品すぎた。


 冒険者ギルド内の誰がベリー後援会の一員であるか分からない。ギルドは危機を感じて素早い対応に出た。

 ベリー脱退の責任をすべて勇者パーティーに押し付け、マスコミギルドにも、これ以上勇者パーティーを優遇できない事を報告し、自らの組織のガードを固めた。


 もちろん、勇者パーティーの横暴は前から把握していた。

 冒険者ギルド内にも勇者達を良く思わない者が多く存在した。

 噴火する前のマグマのように溜まった鬱憤うっぷんを吐き出させる為、勇者パーティーのつるし上げは都合の良い事態でもあった。


 ベリー後援会は敵に回したら厄介な存在だ。

 年齢層は学生から老人まで幅広い。

 業種もマスコミから冒険者まで様々だった。


 多様性による組織としての強さと狂信的なしつこさ、凶暴さ、粘り強さを持っている。

 冒険者ギルドがあっさりとベリー後援会にすり寄ったことで、調査の対象は勇者パーティーに絞られていった。


 勇者パーティーを優遇していたマスコミギルドも冒険者ギルドの言い分をある程度認めた。


 マスコミギルドはこの国で一番の権力を持ってはいたが、全力で勇者パーティーを守るほどの重要性を感じていなかったのだ。

 それよりもベリー後援会という、しつこい集団との敵対を避けたのだ。


 相手にめんどくさいと思わせる事でベリー後援会の言い分は通っていく。

 ブレイブ達は今後どんどん追い詰められていく。

 追い詰められる原因を作ったのは勇者パーティー自身であった。


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