第15話 幼馴染と衣替え。
(肌寒くなってきたわ……。そろそろ子供たちの掛け布団を厚手のものに変えないとね。)
ガチャリとリネン庫を開けたセダムは、しばし呆然と立ち尽くした。
白いドーム状の部屋、天井にぶら下がった丸い形の照明、その下に配置されたテーブル――そこは、以前ラルス、アズキと共に閉じ込められた正にあの部屋であった。
(もしかして……また? )
一歩足を踏み入れた彼女の背後で、扉が光と共に姿を消す。
(消えた……。どういう仕組みなのかしら……? )
思案に暮れるセダムの背後から、扉の開く音が響く。
ルスキニア「じゃあ私が勝ったら、お手、おかわり、3回回ってワン!やってや。」
ミルヴァス「意味が分からない。そんなことして何になる。」
ルスキニア「私が楽しい。」
ミルヴァス「アホか。蝿にたかられろ。」
とんちきな話をしながら入ってきたのは、ルスキニアとミルヴァスであった。
ミルヴァス「……セダムさん? 」
ルスキニア「ありゃ、こん部屋は……。」
セダムは2人に向かって慌ただしく手話をし始める。
セダム「2人とも、この部屋はね……」
ルスキニア「ラッキー! 休憩タイムー! 」
ミルヴァス「一応任務だろう。真面目にやれ。」
セダム「……もしかして、来たことあるの? 」
ミルヴァス「ええ、何度か。」
ルスキニア「私もです。なっかなか楽しかで、次呼ばれんの楽しみにしちょったですよ。」
セダム「そうだったのね。私はこの間初めて閉じ込められたわ。確かに楽しかった。」
(席に着く3人)
ルスキニア「さ、今日のおやつは何じゃろねー。」
ミルヴァス「そっちがメインじゃないだろ……。」
セダム「あ、何か出てきたわ。」
(3人分のティーセット、魚のジャーキー、チョコレートケーキ、ピクルスが現れる)
ミルヴァス「……何だこの品揃えは。」
ルスキニア「セダムさん、先選んでください。」
セダム「いいの? じゃあ……これをもらうわ。」
(ピクルスを取るセダム)
ルスキニア「おっしじゃあ後はじゃんけんな。」
ミルヴァス「仕方ないな。」
(負けるミルヴァス)
ルスキニア「タッハー! 最初の手でチョキ出す癖、変わっとらんじゃね。雑ー魚。」
ミルヴァス「鬱陶しい自覚、あるか? 」
セダム(ルスキニアはいくつになっても煽り癖が直らないわね……。)
ルスキニア「ほんなら、私はこれもらうじゃ。」
(魚のジャーキーを取るルスキニア)
ミルヴァス「仕方ないな……。」
(チョコレートケーキを取るミルヴァス)
セダム(この子、甘いものが嫌いだったはず……。)
セダム「ミルヴァス、交換しましょ。」
ミルヴァス「いえ、食べられないわけではないので……。」
(フォークでケーキを口に運ぶミルヴァス)
ミルヴァス「……甘い。」
ルスキニア「しっぶい顔して。ほれ、特別出血大サービス。」
(ジャーキーを1cmちぎって渡すルスキニア)
ミルヴァス「ありがとう。」
(ちぎられた方ではなく元のジャーキーをぶんどるミルヴァス)
ルスキニア「ちょっと!? アホなことせんでな! 」
ミルヴァス「からかう方が悪い。」
(ピクルスをかじりながら2人を眺めているセダム)
セダム(ほんと、相変わらずね……。)
セダム「2人とも喧嘩はダメよ。仲良く分けて食べなさい。」
ルスキニア「セダムさん……私らもう29ですよ? そげん子供みたいに扱わんでください。」
ミルヴァス「29にもなって子供のようなことをしているからだろ。」
セダム「自分のことを棚に上げないの。」
ルスキニア「ところで、今日のお題は何なん? 」
(チョコレートケーキを手づかみで頬張り、「うっま」と声を上げるルスキニア)
ミルヴァス「出てこないな。」
(ちぎったジャーキーを口に入れるミルヴァス)
セダム(結局交換するのね。仲がいいのか悪いのか……。)
セダム「2人はこの部屋、結構閉じ込められてるの? 」
ミルヴァス「私はもう5回ほど。」
ルスキニア「そんなに!? ずるいわぁ。」
ミルヴァス「別にずるいとかはないだろ……。お前はどうなんだ? 」
ルスキニア「私は今日で3回目じゃね。」
セダム「私は今日で2回目よ。前はラルスと師長と一緒だった。」
ルスキニア「随分ゆるかメンバーですね。」
ミルヴァス「何気に師長も結構ここに来ていそうだな。」
(紅茶に口をつけようとしてやめるミルヴァス)
ミルヴァス「以前補佐官と師長と閉じ込められた時は、3人で料理をしてそれを食べるという課題だった。」
ルスキニア「そげんパターンもあんの!? 」
セダム「3人で……何を作ったの? 」
ミルヴァス「私が野菜スープ、補佐官がパンを、師長が魚を……。」
セダム「アズキさんは料理が出来ないはずだけど……。」
ミルヴァス「魚を捌いて焼くだけなら、出来ていました。素手だったのが気になりましたが……。」
ルスキニア「素手!? こわっ! 」
ミルヴァス「看護師は手洗いに気を付けているので問題はないそうだ。」
セダム「いつも思うけど、そういう問題ではないのよね……。」
(ピクルスをかじるセダム)
セダム「セネシアさんも……すごいわね。パンは結構時間がかかるでしょうに……。」
ミルヴァス「最初はほうれん草のキッシュと言っていましたが、私と師長が提案したメニューを聞いてバランスが悪いと……。」
ルスキニア「バランス気にしちょる場合やなかやろ……。」
(紅茶を飲むルスキニア)
セダム「でも、セネシアさんらしいわ。」
ミルヴァス「師長も私も早々に作り終わってしまったので、後半はほぼパン生地の発酵を3人で見ていましたね。」
(飲んでいた紅茶を吹き出しそうになるセダム)
セダム「ごめん、何やってるの? 」
ルスキニア「タハッ! 想像すっと笑えてくるじゃね。」
(チョコレートケーキを食べるルスキニア)
ルスキニア「ここ、色んな話させられますけど、セダムさんの時は何聞かれたんです? 」
セダム「別に普通のことよ? 趣味とか、最近買ったものとか、後なんだったかしらね……。」
(ハッとして顔を覆うセダム)
セダム「あと……好きな、タイプ……とか、聞かれたわ。」
ルスキニア「はえー、何て答えたんです? 」
(ブンブンと手を振るセダム)
セダム「いやだわ、聞かないでちょうだい! 」
ミルヴァス「そんなことまで聞かれますか……。ますますこの任務の意図が分かりませんね。」
(紅茶を飲もうとしてやめるミルヴァス)
ルスキニア「まあ、よかやない。喋っとるだけで任務達成なんて楽なことこの上なか。」
ミルヴァス「……そうだな。」
(ジャーキーを食べるミルヴァス)
セダム「え、ちなみに2人はどんな人がタイプなの……? 」
ミルヴァス「何故聞くんですか……。」
セダム「気になるじゃない。」
ルスキニア「えー? 人には聞くんなら自分も答えてくださいよぉ。」
セダム「私のは別にいいの。ほら、話して話して。」
(ミルヴァスを指さすルスキニア)
ルスキニア「こん人はねぇ、髪が長うて胸のある女が好きですよ。」
(さされた指を叩き落とすミルヴァス)
ミルヴァス「何で言うんだ。」
ルスキニア「え、だってセダムさんが聞きたい言うから。」
ミルヴァス「お前だってあれだろ。目が大きくて、きゃ、きゃるきゃる?した女が好きだろ。」
ルスキニア「きゃるんきゃるん! ちゃんと覚えてな。」
ミルヴァス「知るか。鳥につつかれろ。」
(ジャーキーをかじるミルヴァス)
セダム「2人とも、相変わらず欲望に正直ね……。」
ルスキニア「んで? セダムさんはどげん人がタイプなんです? 」
(口元に人差し指を立てるセダム)
セダム「秘密! 」
ミルヴァス(後でラルスに聞いてみよう。)
ミルヴァス「ところで、お題が一向に出てこないな。」
(紅茶をほんの少しすするミルヴァス)
ルスキニア「そうじゃね。担当がお題出し忘れたで任務遂行ダメでしたーとか、笑えん? 」
ミルヴァス「そうなったら、この3人でずっとここにいなければならないのか……困るな。」
(紅茶を飲むセダム)
セダム「ていうか、担当とかいるの? 」
ミルヴァス「全く分かりません。」
(紅茶をまたほんの少しすするミルヴァス)
ミルヴァス「補佐官も、この部屋のことはご存知なかったようですしね……。」
セダム「セネシアさんも……。ほんと、不思議な任務よね。」
ルスキニア「ま、急ぐもんでもなか。ゆるゆるしもんそ。」
(チョコレートケーキを齧るルスキニア)
セダム「そういえば最近、ルクスの子たちが元気ないわね。何かあった? 」
(カップをソーサーに置くミルヴァス)
ミルヴァス「ちょっとしたトラブルです。今それぞれから話を聞いているところですね。」
ルスキニア「何? ケンカ? 」
ミルヴァス「そんなところだ。」
ルスキニア「へーえ、ケンカできっくらい仲良くなったんね。」
(紅茶を飲むルスキニア)
セダム「解決できそうなの? 」
ミルヴァス「そのうち殴り合いでもさせようかと……。」
セダム「何言ってるの! ダメよそんなの! 」
(カップを勢いよくソーサーに置くセダム)
ミルヴァス「……ダメですか。対話が難しいなら後は殴り合いしかないかと……。」
セダム「もう、あなたはどうしていつもそう乱暴なの……。」
ルスキニア「ちょっとぐらい乱暴な方が子供はよう育ちますよ? 」
セダム「それはあなたたちの話でしょ? 今の子供たちは繊細なのよ? 」
ルスキニア「あっらぁ? まるで私らが繊細じゃなかったとでも言うちょるみたいですね? 」
(手をばたつかせるセダム)
セダム「いや、そういう意味じゃなくて……。」
ミルヴァス「絡むな。繊細じゃなかったのは事実だろう。」
(咀嚼していたジャーキーを飲み込むミルヴァス)
ミルヴァス「殴り合いでなければいいんですね? 考えてみます。」
セダム「うん……多分私が言ってることちゃんと伝わってない。」
ルスキニア「まあまあ、よかやないですか。」
(大口を開けて残ったチョコレートケーキをひとくちでいくルスキニア)
ルスキニア「ん……食べ終わってしまったわ。」
(紅茶をすするルスキニア)
セダム「いつ見ても食べっぷりがいいわね。」
ルスキニア「食べんと体もちませんでね。」
セダム「それもそうだけど、ルスキニアは豪快なのに食べ方がきれいよね。口の周りも全然汚れないし。見てて気持ちがいいわ。」
ルスキニア「そりゃあ叩き込まれましたからねぇ。徹底的に。な? 」
ミルヴァス「だな。」
(ゆっくり紅茶を飲むミルヴァス)
ルスキニア「そういえばさ、全然話違うんじゃけど、前にアルデアとルキオラと3人で閉じ込められたんよ。そん時さ、アルデアから聞いたことがあるんよ。」
ミルヴァス「何を聞いたんだ? 」
(ミルヴァスの肩を抱き、至近距離で見つめるルスキニア)
ルスキニア「あんた、私が人の財布で高いもんばっか飲み食いしたち愚痴ったそうじゃない。」
(目をそらすミルヴァス)
ミルヴァス「……心当たりがないな。」
セダム「実際、そうなの? 」
ルスキニア「まあ、そうなんですけどね。」
(前に流した髪を指でくるくるするルスキニア)
ルスキニア「困っじゃ。あんまり学生に私の悪い話振りまかれっと。」
ルスキニア「学生憧れのクールエレガントなオトナお姉さん像が壊れたやどうしてくれんの? 」
(無表情でルスキニアを押し退けるミルヴァス)
ミルヴァス「無理があり過ぎるぞ。」
(頷くセダム)
セダム「そうね。それは無理だわ。」
ルスキニア「何ですかセダムさんまで! 」
セダム「どちらかと言うとルスキニアは豪快やんちゃなヤンキーお姉さんよ。」
ミルヴァス「その通りだ。お前はガサツ大雑把な脳筋ゴリラだ。」
セダム「そこまで言ってないけど!? 」
ルスキニア「せめてお姉さんは付けって! 失礼な人じゃねほんっと……。」
セダム(お姉さんがついていればいいの!? )
(腕組みをして少し考えるミルヴァス)
ミルヴァス「……ゴリラお姉さんか? お姉さんゴリラか? 」
セダム「どっちも失礼よ! 」
ルスキニア「じゃあゴリラお姉さんで! 」
(指パッチンするルスキニア)
ミルヴァス「了解。今度からそう言っておく。」
セダム「言わなくていいからね!? 」
(思い出し笑いをするルスキニア)
ルスキニア「ぶはっ! そういやそん時さ、そげんこと言う人には後で関節技でもかけとくわー言うたや、アルデア何て言ったと思う? 」
(紅茶を口に含むセダム)
セダム「そんなことダメですよとか? 」
ルスキニア「関節技ってどういう技ですか? 私もかけてみたいです! じゃって。」
(紅茶を吹き出すセダム)
セダム「それは……それはダメよ……。」
ミルヴァス「天然が過ぎるな……。」
(残ったジャーキーを口に入れるミルヴァス)
ルスキニア「っちゅうわけで、後でアルデアと一緒に関節技かけに行っから。せいぜいいい声で鳴いてや。」
ミルヴァス「アルデアはともかく、何でお前にまでかけられないといけないんだ。」
セダム「ともかくじゃないのよ……。」
ルスキニア「うーん、趣味? 」
【たくさん話してくれてありがとう。また来てね。】
ルスキニア「え? こいで終わり? 」
ミルヴァス「結局お題出てこなかったな。」
セダム「こんなので……良かったのかしら……? 」
ルスキニア「まあ、よかことにしましょ。」
(冷めた紅茶を飲み干すミルヴァス)
ミルヴァス「授業に行かなければ……。」
ルスキニア「私も。今日もみっちりしごいちゃるわ。」
セダム「私は布団の衣替えをしないとだわ。お互い頑張りましょ。」
扉をくぐる3人
ミルヴァス(布団の衣替えって何だ? )
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