揺れる大倫理観THE MORNING2 サドゥンリーマリッジを阻止せよ!

・・・



暖かい感触、窓から射す朝日で目が覚める。眼前には、見慣れた青年の寝顔……



「……。」



ああ、ついに超えたか天城越え。もとい、男女の一線越えくらくら燃える我が倫理。脳内真っ白状態で体を起こしかけるが、伊澄の腕がしっかり胴体に巻きついていて離れない。




えーっと、なぜ、こうなった…?




昨夜ベッドの上で言葉を交わした所までは覚えているが、そこからの記憶はぷっつりと途切れていた。



通常ならば、『原因なんて100パー伊澄だろ』と片付けるところだが、明確な記憶はないにせよ昨夜飲酒してる経緯を鑑みればむしろ『私から』襲った可能性が高い。記憶がないのも防衛本能なのかも……ってか、




普通にやべぇじゃん、学生襲ったアラサー非正規とか…ヘタ打ちゃ告訴じゃん




社会的な終わりを悟り静かにうなだれた私の横で、被害者学生(仮)※イケメンが目を覚ます。



「おはようございます…昨日自分が何したか覚えてます?」


「おは…って開口一番傷口に塩塗らんでや…!!分かってる、分かってるよ大体ね…自慢じゃないけど、酔うと大体惨状巻き起こすからね私…主にセクハラ的な観点で……!」



しかし伊澄は至極あっさりと言い放つ。



「セクハラなんかされてないですよ。ここに寝てるのも、俺が勝手にしてるだけです。」


「え…えっ、そうなの??」


「ただ…。」


「た、『ただ』?」



伊澄は不穏に頬を染めた。



「『共に生きる事』の安心感とか…、『この人を守りたい』みたいな庇護欲を理解わからせられました。なんで、責任とって籍入れて下さい。」


「まってそれセクハラ告訴より重いんだが…?」


「え、普通にいい話じゃないですか??家付き車付きですし。さらに何と、俺も付きます。」



「……(絶句)。」



これまで見たこともないレベルで瞳を輝かせたドヤ顔だよ……。脳内の情報処理が追いつかなすぎて、私はト〇ストーリーの〇ッディのような顔になった。



いや、何があったのか不安すぎるむしろ普通に襲っててくれ昨日の自分。逆に何をしたらそうなるのか気になりすぎるよ昨日の二人。

とにかく伊澄がちょっといかれている雰囲気をひしひしと感じるので、彼が正気に戻るまで逃げさせていただくことに決意する。



「いやーまだ役所開いてないしさ…ってそうじゃなく、えっとぉー、先生まだまだ遊び足りないお年頃?なので……!」



伊澄が不穏に微笑み『?』と首を傾げる…と同時に私は、一旦持ち帰って善処するワーッ!!と叫び力ずくで彼の腕から脱出を図った。が、今度は腕をしっかり掴まれベッドに連れ戻されてしまう。



「どわっ!?」


「待って下さい。…このまま俺と、もう一眠りしませんか?」



伊澄は上目遣いに私を見つめつつ言い放つ……ぐっ可愛い…!悔しいけれど、めちゃめちゃ可愛い……ッ、普段無愛想だから分かりづらいけど元々君はとても可愛い顔なんだぜ…そして今この瞬間君は、それを分かった上でフル活用してやがるんだな……



二日酔いの眠気と人肌のベッドの心地良さも相まって、それは想像を絶する魅力に満ちていた。が、このまま伊澄の独壇場に持ち込まれるのはなんかシャクだ。何よりしがない社会人には、平日の朝っぱらからのんびりしている暇はない。



私は反撃の意を込め腕を外すと、そのまま彼の手をしっかり両手で包み込む。



「…え?」



予想通り動揺を見せた伊澄にここぞとばかりの慈愛スマイルを向け、さらにそのまま耳元に顔を近づけてやる。



「…しません。『大人』には仕事があるので。」


「っ……。昨日、散々泣いてたくせに。」



さすがにそれくらいは覚えていた。そんな私に、伊澄がそっと寄り添ってくれていたことも。



「…実を言うと君のおかげで、ちょっと吹っ切れた。ありがとね。」



伊澄の顔が一瞬で赤くなり、思いっきり目を逸らされてしまう。



ちょっといじめすぎたかな…と苦笑しながらドアへ向かって歩き出すと、背後から伊澄の声が追いかけてくる。



「俺にも、泣きたい時あります。その時は…頼ってもいい?」



振り向くが、向こうを向いたままの顔は見えない。内心湧き上がる喜びを押さえつつ、私は言った。



「いつでもどうぞ?」



伊澄はふん。と小さく笑うと、シャワーとか使ってっていいですよ。と小声で言ったが、さすがに遠慮しておいた。


正直、高級タワマンのお風呂を使ってみたい気は大いにする。とはいえあれだけ大見得切ったのだから、ここで帰らなくては尊厳に関わるではないか。

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