テンションマックス 憧れのハイ・エンド
独り言のようにつぶやくと、シズクは小さくうなずいた。
「話してくれて、ありがとうございます。」
「暗い話でごめんね…。」
シズクは困ったように少し笑うと、ふぁあと大きなあくびをした。
「じゃ、俺疲れたんで、水槽に戻りま~す。」
あくびがちょっとだけわざとらしく見えたが、たぶん気を使って一人にしようとしてくれたんだろうか…。私もさっさとシャワー浴びて、眠ることにした。
・・・・・
・・・・
・・
翌日。
講義中それとなく教室を見渡してみたが、伊澄はどこにもいない。まぁ、元々生徒にはサボられ率高い系だけども……昨日の今日だし、ちょっと話しておきたいな…
ってかまてよ、そもそもあの子、この講義取ってたっけ…途中からナチュラルに参加してた気がするんだが、どうやってカリキュラムねじ込んだのかしら……と悶々していたら、授業がいつにもましてフンワリした内容になってしまった。
鳴り響くチャイムと同時に『次回小テストでーーーす』と叫び終え、多分聞こえていない学生たちと同時に教室を後にする。
今日の講義はこれで最後だから、家に帰ってテストでも作るか。
……にしても、伊澄大丈夫かな…まぁ、彼も忙しいのだろうしな、うぅむ…
以上の『にしても、』以下を3回ほど繰り返した後、ようやく私はスマホを取り出した。
「ライン………してみちゃったりなんかしちゃったりして…。」
あくまで『教師としてでなく一個人』として、あくまで『生徒としてでなく一個人』としての伊澄に昨日ごめんな的メッセージを送信するか否か悩んだ挙句に出た独り言がキモすぎて、我ながらゾワッとする。へっ、こんな変態教師的行動、上の人にでも知られたら一発解雇だぜえへへへへ…
などと今度はしっかり『内心で』呟き歩いていると、大学近くのパーキングに見覚えのあるレ〇サスが停まっている。そしてそのすぐそばに、これまた見覚えのある人物がうずくまっていた。近寄るごとにそれは確信に…間違いない、伊澄だ。
「ちょっ、伊澄君、こんなとこで何…ってかうわ酒くさっ!」
流れるようにディスってしまったが、うずくまる伊澄からは明らかに『基準値以上』な香りがただよっていた。
「あ、先生………ちょっと俺…バイトで…」
「おう??」
伊澄の声は蚊が鳴くように小さく、私はおうおう?としゃがんで耳を近づけた。
「……水と間違えて…日本酒飲んでしまって………」
「Oh……??」
この伊澄が、水と間違えて昼からキメてしまったというのか、しかもバ先で…。あまつさえお酒強そうなのに…。私はなすすべなくして伊澄のレ〇サスをただ見つめた。シルバーのレ〇サスも、心なしか心配そうに輝いている。
「店長にはもう帰れって言われたんですけど………運転無理で……」
「でしょうねぇ。私が交通安全運動中の警察だったらすでに検挙したいレベルで酒臭いよ!!」
「…もしかして、先生免許持ってたりしませんか……」
うっ、この流れってもしかして…
「一応もってるけどさ…前回運転したの教習所のセダンっきりだよ……?当時新車でもそれ今、10年落ちだよ!?」
「ごめん、マジで、う…うちまでお願い………」
言いながら伊澄は無責任にキーを解除し、助手席に乗り込んでしまった。私は思わず頭を抱える。
いや、まってまって!はるか昔に忘れ去った運転テクで、病人乗せたレ〇サス運転とか……
え…まってまってまっ…私がレ〇サスを運転…とか………?
思いがけずやってきた人生のミラクルハイライトシーンに、私の胸は不謹慎にも高鳴り始めた。お恥ずかしながら私は、人生一度はレ〇サスを所有ならずとも運転してみたいと思っていた貧乏人・前田マキなのである…この先に待つのは最早、アメージング・エクスペリエンスのみッ……もうペーパー歴など関係ねぇ!!俺に従え伊澄のレ〇サスゥゥゥッ!!(ブゥーン……)
・・・
道中『フホォ』『ヒャハァ』その他限りない奇声を発しつつ、でかいカーナビモニター&高音質ステレオによる道案内の甲斐もあってかどうにか我々は無事、伊澄の自宅である高層マンションへ到着したのだった…。
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