第23話帰省5 夏祭り

『お待たせ』

「あ、うん」

俺は悶々としながらベットに座って待っていたので、気の利いた返しも何もできなかった。

『何か期待してた?残念、おじいちゃんたちいるから無理ですー』

「いや、別にそんなことないけど」

『うそだー』

「嘘じゃねぇし」

『ちょっとむきになってんじゃん』

「…そんなことない」

図星を突かれて少し言葉が詰まったがバレてはいないはず…うん、たぶん。

神仁は誤魔化す様に携帯をいじりだす。

数秒後、玲は俺の服を少し引っ張って……


『…続きはあとで…ね?』

「んっ…え!?」

すぐさま反応しようとしたが、唇に手を当てられ反論できない

『我慢してたみたいだし、可哀想だったから』

「……うっせ」

『まだ少し早いけど行こっか』

「あぁ」



『おじいちゃん!おばあちゃん!行ってくるね!』

「行ってきまーす」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「了解」


会場までは歩きで10分程なので、歩きで行こうと思ったのだが、玲のわがままで、自転車で行くことになった。

「また、俺が汗かくじゃん」

『頑張ってこぐ!扇いであげるから』

「へいへい」

玲は自転車の荷台に横向きに座り、扇子を扇ぎながら片腕で器用にバランスを取って乗っている。

五分もたたないうちに、会場である河川敷付近まで来た。河川敷内の公園の駐輪場に、自転車を置いて会場に向かう。

『もうひといっぱいだね~』

「もう屋台も始まってるしあと一時間もすればもっと来るだろうな」

この祭りは地元の祭りではあるのだが、県内でも大きい祭りなので、付近の駅ではこの日だけ、山手線並みに増便するのだ。

『佳奈とかいるかな~』

「だれそれ」

『この前会った子だよ~英梨も一緒だったよね』

「あー最後の方に会った二人組か」

『二人とも大学進学したみたいだけど、帰ってきてるかは知らないし、あったら面白いかもね!少しあってみたくなっちゃったなー』

「会えるといいな」

『うん!あ!綿あめ発見!』

「あ~忘れてたと思ってた」

『忘れるわけないじゃん、おじさん!これちょうだい!』

「はいよ、500円ね」

『伸仁ご馳走様~』

「はい、500円で」

「お兄ちゃん毎度あり」

この中で綿あめを食べ始めるにはいささか人口密度が高い。

しかし玲は器用に綿あめを食べている。流石というべきか、アホと言うべきか、考えたのちに余計なことは言わないでおこうと思い、開きかけた口を閉じた。

『そういえば!高校の時に祭りに友達と来た時に花火が綺麗に見えるところ見つけたんだー』

「へー、そこまでどのくらいかかるの?」

『歩いて15分ぐらいかな?』

「今何時だろ…あー花火始まるまでまだあと結構あるな」

『じゃあ食べ物とか買ってそこ行こ!』

「分かった」

『じゃあまずは…たこ焼き!』

「了解」

『おじさん!たこ焼き一つ!』

「はいよ!600円ね」

「1000円で」

「はい!兄ちゃんお釣400円ね」

「ありがとうございます」


『次はフルーツ飴と、焼きそばと、えーっと…』

どんだけ食うつもりなのかはわからないが、玲の胃袋からして、主食となるものは、半分残しておれに渡してくるだろう。

「どうせお前食いきれないんだから、主食系はあと一つにしておけよ」

『はーい』

結局玲はたこ焼き、焼きそばと、いかにも屋台飯というようなものを選択していた。

『イチゴ飴おいしぃ~』

玲の言う場所に移動しながら彼女は購入したイチゴ飴を頬張っていた。

中は普通のイチゴなので少しバランスを崩しただけで落っこちそうになる。

『危なっ!』

「フルーツ飴って食べずらい上に串から外れやすいもんな…」

昔おれも食べたくてお母さんに買ってもらってすぐに落として泣いた記憶がある。それからはフルーツ飴を見ても食べたいと思わなくなった気がする。

『そーだよねー!目を離すとすぐにおっこちそうになるんだよねー、それが少し面倒ではあるけどおいしいからついつい買っちゃうんだよね』

「分からなくはないけど…」


そんな話をしながら玲の案内で目的の丘にたどり着いた。

もともとこの地域には古墳が沢山あるのでこの丘も古墳ではないかと思うのだが、玲の言う通り河川敷側の見晴らしは最高だった。 

俺と玲のほかにも先客がいたのだがどれもカップルで、人目を忍んで来たようだった。

2組カップルが居たのだが二組とも高校生らしく、夏休み前に付き合い始めたのだろう、少し初心なところが見えるカップルたちで少し可愛らしかった。

着いてから五分ほどで一発目の花火が上がり始めた。

雲一つない夜空に咲く儚い花。

命を燃やして咲いては人に最高に綺麗な状態で見てもらおうとする花火に私は自分を少し重ねてしまい、感傷にふける。

法的には何の問題もない関係、けどまだ親には話せない。この最高に楽しくて色濃い日々が突然終わるのが怖いから。周りの反応で別れることはしたくない、けど家族全員が理解してくれるとは限らないこの関係と少し重ねてしまう。地元ということもあり余計に変なことを考えてしまう。

『花火、綺麗だね…』

彼とのつながりを感じたくて手を握る。

彼は何も言わずに手を握り返してくれて、それだけで満たされていく感覚になるのだから、恋は盲目という言葉はあながち間違いではないのだろう。

(こんなことで満たされるなんて、ばかだなぁ)

そうは思いつつもやはりこの甘さに毒されてしまう。毒だと分かっていても自ら突っ込んでいってしまう。

そうして一時間あった花火はフィナーレを迎える。

「この前夏祭り来た時さ…」

フィナーレを締めくくる花火を見ながら彼は私に声をかける。

『この前の花火大会がどうしたの?』

「いや、俺花火の種類で枝垂桜が一番好きなんだけど、ふと枝垂桜の意味を調べてみたことがあるんだ。優美、純潔、淡泊、ごまかし、円熟した美人って意味があるんだって」

『私熟してないよー』

「いや円熟って言うのは熟れるって意味じゃなくて人格とかまあ色々高みに登り切ったことを指すらしい」

『じゃあ私だね!』

「いや別にまだ円熟してないだろ」

『しーくんひどいっ』

「まあ、毎年今の玲が一番と思ってるのは事実だけど」

『ばかっ』

「ハイハイ」

数年越しに気持ちを伝えられたような錯覚に陥り、言いたいことの言い合える女性が横にいることが、何気ない会話ができることが奇跡のように感じ、ふと彼女の肩に頭を預ける。

『え?なにー?あまえんぼさんになっちゃったのかなー?』

冗談めかした様子で彼女は俺にささやきかけながら頭を腿に移動させ、髪の毛を空いてくれる。

心地よく眠れそうな感情と相反する反抗期の息子を必死に抑え込もうと両足をくねらせる。

(こんな時間がもっと続けばいいのに…)

そう思ってしまう私は強欲なのだろうか。

少し指の通りずらい髪の毛をなでながら玲は物思いにふける。

「もう花火も終わったし帰るか」

『うん…』

「どうした?腹痛くなったか?」

『そんな食べてないしっ』

「じゃあチャリで帰るか」

『少し遠回りしようよ…』

この甘い猛毒に毒されたい私はそう彼に提案した。

「なあここ絶対家から離れて行ってないか?」

『遠回りなんだしいいじゃん』

「まあいいけど」

丘から降り10分程歩くと大きい通りから少しそれた道に入った。

「なぁ…ここホテル街な気がするんだけど…玲さん?」

『しーくんは、やなの…?』

「い、嫌とかじゃないけど」

(そりゃ迷わず入りますけども!)

『ねぇねぇしーくん!部屋はタブレットで選ぶんだって!』

「う、うん」

『はっ早く部屋決めて入っちゃおっか』

「お、おう」

(少し初心な反応をされると、こう、なんか、そそられるものが…。)

『思ったけど、どの部屋も意外と普通なんだね…』

「まあそうだろうな」  

『私てっきり回転ベットとかあるのかと』

「お、おう。多分少ないと思うぞ」

『じゃあ私お風呂みてくる』

「じゃあ俺もベットルーム見てくる」

えっとテレビは御察しの通りだろうし、引き出しには…メモ帳とペン、下は…ぴ、ぴんくっ!!

『しーくんどうしたの?』

「わああああっ」

『え?なに?どしたの?』

「い、いや別に」

『はいダウト!引き出しになにかあったのかなぁ~?』

「べっ別に俺が買ったわけじゃなくてっ!試供品でおいてあっただけだから!」

『うん、使う?』

「だからっ!」

「うん?」

『だからその…大人のおもちゃって言うのをしーくんが使いたいなら…だってここは…えっちしにくるところでしょ?』

そう言って彼女は唇を重ねてきた。

不意打ちなので、身長差を埋める様に背伸びする玲は、凄く可愛らしくて、煽情的だった。

俺はわざと唇を啄む軽いキスにとどめた。

『ねぇ、わざとでしょ…途中でやめないで、もっと乱暴でいいから…』

数秒前からかってやろうと軽いキスをした俺をぶん殴ってやりたい。

釣り糸の様に細い俺の理性の糸を無理やり引きちぎったのだから。

俺は呼吸を忘れて必死に玲を求めた。

息を吸わせる暇を与えず、深く、強く、そして優しく。

玲から、ギブアップと胸を叩かれる。

『…っん…っは、は』

少し我に戻って玲を見つめると、乱れたつややかな髪の毛と上気した顔で上目遣いで俺を見てくる。少しはだけた浴衣も相まってとても色っぽく見えた。

「なぁ玲、さっきのおもちゃ」

『…っ!』

『当てるだけでいいの?』

「いいと思うけど、さすがに浴衣は汚したらまずいから脱ぐか」

まだ、さっきの余韻があるのか、玲はぼーっと帯を外そうとしている。

少し嗜虐心に目覚めた俺は電源を入れてみる。

『~~~~っ!』

その場で倒れ込んだ玲に少しびっくりして彼女に肩を貸す。

「大丈夫か?」

『ばかっ!しーくんのばかっ』

「はいはい」

俺は解けかかった帯を悪代官よろしく思い切り放り捨て浴衣を脱がす。

「もう一段行ってみる?」

『えっ?むりむっん~~~~~!』

『しっしーくんっベットっベットいこっ』

『ふみゃあああっ』

「べっベット行くから!」

『はぁはぁっはぁ』

「んっよいしょっと、ちょっと振動がやばいかもっ」

『あ、ふぁあああ』

以下略

「こんななのか…たまにはこういうのも…」

「って玲もう寝てるし…あっ家族になんて連絡しよう…」


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