俺の彼女は死刑囚
氷雨ユータ
1st AID 死は出会いを告げる
死刑執行
イジメを受けている。
その言葉に今、どんな信憑性があるだろうか。イジメ問題は重く取り扱われなければならないと大人は言う。けれど、本当に重く取り扱っているのだろうか。もしその言葉に誠実ならば、俺―――
全ての学校がそうとは言わない。誠実な学校もあるだろう。しかしこの高校は糞だ。間違いなく隠蔽体質だ。これまでに何度相談してきた。八回だ。八回も担任に相談した。直接校長に言った事もある。何なら大声を散らしながら全ての生徒及び先生に言った事もある。それなのに、
『それはイジメじゃない』だの。
『何かにつけてイジメと喚かれたら他の生徒にも迷惑』だの。
『そっちにも問題があるんじゃないか』だの。
酷い言い草だ。イジメを受けてるからそれを言っているだけなのに。何が悪い。もし俺に非があるとすれば、先に家族に相談しなかった事だろうか。先に学校で暴れたがばかりに虚言癖を持っているとさえ言われてしまった。そのせいでいざ相談してもハイハイと受け流されてしまうばかりで、正しく現代のオオカミ少年だ。
「俺達のがイジメだとぉ~? てめえまた先生にチクろうとしやがったな!」
「ぐッ……!」
いっそ死んでやらなければ分からないらしい。今日も今日とて俺は男子三人組からリンチを受けていた。因みにその理由は『チクろうとしたから』及び『今日返されたテストの点数が赤点だったから』。そんな理由でサンドバッグにされる俺の気持ちなんて彼等は全く考えもしないのだろう。共感性が無いからお前等はいつまでも国語が赤点なのだ。
分かるか? シュウヤ、ケイスケ、ミズキ。
俺をイジメる暇があるならさっさと勉強しろ。勉強漬けになってくたばれ。今すぐ。
「何だよその目は。また便器に顔ツッコまれてえか? んッ?」
「や、止めてください……」
「ああん?」
「止めて…………許して…………」
「俺達が何でお前の命令を受けなきゃいけねえんだよ! 生意気だなこの……野郎!」
ケイスケはサッカー部所属だが、俺をサッカーボールと間違えて蹴る辺り視力が悪いらしい。さっさと退部してくたばれ。サッカーボールで脳挫傷を起こして入院しろ。
「二度とチクらないって約束するなら、やめてやってもいいぜ」
ミズキはクラスの男子のリーダー格みたいな存在だ。こいつが居なければクラスが纏まらないが、こんなクラスは学級崩壊して然るべきなのでさっさとくたばれ。
「約束します……だから……やめてください…………」
「でもよお、こいつ九回目だぜチクったの」
「あ、そっか。じゃあこの話無しな」
シュウヤ。イジメから助けてやった恩をもう忘れたか。イジメに加担しなきゃまたイジメられる理屈は分からなくも無いが、バットで殴るのはどう考えても過剰だ。くたばれ。
―――早く終わらねえかなあ。
心の中で悪態を吐きつつも、結局現実は怯えるばかり。学校に立てこもったテロリストを制圧する脳内中学生を百倍くらい情けなくしたら俺だ。イジメられ続けて……忘れた。どうでもいい。自分の精神が悪い方向に歪みつつあることを理解するも、心の何処かで全てに諦めている自分が居た。
慣れとは恐ろしいもので、段々サンドバッグにされても仕方ないと思える様になってきた。その為に生まれて来たのではないか。もしかしなくてもこれはサンドバッグになってあげているという善行なのではないか。
死ななければかすり傷とは言ったもので、こんな状態に置かれても尚―――いや、慣れてしまったからこそ、死ぬのが怖い。何度も自殺出来るならまだしも人生は一度きり。死ねばそこで終わりだ。自殺の瞬間が頭を過る時、自然と涙が出てくる。
―――どうせ死ぬなら、こいつらも道連れしたいしな。
例えばこの廃工場で道連れに出来たなら、どれだけ幸せだろうか。
「おい、こいつ笑ってるぞ」
「うわ……気持ち悪」
いつの間にか俺の左手には拳銃が握られていた。躊躇いなく三人の頭を照準し、発砲する。鉛の弾は頭蓋を貫通し直ちに三人を殺すだろう。飛び散った脳漿と血液を枕に彼等は永遠の眠りに着く。俺をイジメた事を後悔する暇も無く…………
なんて。指鉄砲を向けながら言っても説得力はないか。
「やあもしもし。そこに誰かいるよね? 居るならちょっと、助けてほしいんだけど」
廃工場に響く清らかな声。埃と煤だらけの場所には似合わない。
「え?」
「何だ?」
「……こわ」
困惑する三人を他所に立ち上がる。時間をかけて嬲られた身体が悲鳴をあげているが、死ぬまではかすり傷。そう考えたら身体もスッと動く様になった。悲しいスキルと言われれば返す言葉も無いが、イジメられすぎて俺は物音に敏感になってしまった。その精度はこれからイジメられるという予知さえ出来る程だ。
声のした場所は廃工場の奥。かつては物置として使用されていたと思わしき扉だ。遠目から様子を見る三人をよそに躊躇なくそこを開けると
中に居たのは血塗れの拘束衣に身を包んだ女性だった。
「ああ、どうも」
SMプレイの一環か何かにしては、ちょっと度が過ぎている。その過度な拘束によって強調された胸に目が行きそうになるが、今の俺は蛇に睨まれた蛙そのもの。女性に見つめられてから、俺の身体は全く動かなくなってしまった。
「君、随分ボロボロだね」
「………………イジメられてたんです。あそこの三人に」
「良かったら助けてあげようか」
「え?」
どう見ても助けられるべきなのは目の前の女性なのだが…………。それにしてもこの女性、何者だ? こんな場所に監禁されている時点でまともじゃないのは分かっている。しかしながら初めて差し伸べられた救助の手を振りほどける程、俺は絶望していなかった。今後どんな目に遭っても良い。どんな不幸が来ても良い。この状況から抜け出したい。
俺の考えが伝わったのか、女性はニッコリと笑って体の前で拘束された腕に力を入れた。
「これ、外してよ」
「え?」
「外して」
その腕は余った袖の部分で結ばれており、その上からベルトが掛けられて縛られている。
「お、おい! 柳馬! やめろって!」
「そいつ絶対やべえよ!」
「ちょっと俺通報するわ」
三人の声は聞こえない。俺は危険を承知で女性に近づき、ベルトを急いで外していく。
「通報されるのはまずいなあ。ねえ君、あの三人の名前をフルネームで教えてくれる?」
「フルネーム? 阿藤秀冶、花ケ崎圭介、新田瑞希ですけど」
「……有難う。お礼に、君の名前は聞かないでおこう」
「は?」
何を言ってるのか分からない。ベルトを外しきったので次は袖だ。複雑に結ばれているが袖は袖。こんなに太い結び目なら一瞬で解ける。
「―――有難う。これなら十分だ」
腕の拘束を解いたと同時に、俺は顔は彼女の乳房に押し付けられた。単に抱き締められたとも言う。
「では約束通り助けてあげよう―――スリー、ツー、ワン」
グチャッ!
背後から聞こえた骨肉を磨り潰した様な音。そして聞こえなくなった三人の声。「いいよ」と言われ振り返ると、そこにあったのは首から上が破裂した三人―――だった死体。
「―――ッ!」
やってしまった事の大きさは取り返しがつかなくなってからでしか気付けない。悪魔を解き放ってしまったと悟った時にはもう遅い。
「私の名前は
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