4: ヴィクトリアとアレクサンドラ
会う度にであった。より一層魅せられてしまう。そう、まさに驚くばかりであった。
私自身も、そうであったか・・・・・・とは想えぬ。
確かに私自身も代々の美貌を引き継ぐを得た。それに会う人会う人が私に似ておると言う。
これほどであったか・・・・・・とはとても想えぬ。
これは・・・・・モノが違うのではないか。
美しさ・・・・・・というものに留まらぬ。
私の魂を魅惑する何か。この世ならずのもの。愚かしいことであるが、人にあらざる者とさえ想える。そんなことはありえぬとは分かっておる。何せ、私の姪に他ならぬ。
まあ、それは良い。
何より、その者が私のかたわらにおるのだ。
白き陶器の如き肌に、さらりと肩へとかかるつややかな金髪。
何より瞳だ。私は夫の瞳は美しい、かつては確かにそう信じ込んだが。やはり神様はえこひいきされておる。そう、結論づけるしかなかった。
その瞳は、時に澄み渡った空の青であり、時に深い海の青である。更にその気の強さが瞳ににじみ出れば、そこに魅惑されざるを得ぬ不可思議な
この者の魂の形は、私と大きく異なるのだろう。だからこそ、そのまとう美が仮に私と同じだとしても、その受ける印象は大きく異なるのではないか。もちろん、その姿を見慣れぬ者なら、そのうわべにだまされて、似ているなどと言うのかもしれぬ。
しかし、魂の形こそが、その印象に結実するのではないか?
それもあって、かつて私がよく着ていた赤のドレスをこの者に与え、それを着させようとしておるのだが。それをまとって、なお印象が異なれば、私の考えが正しいとなろう。
ところが、この者はすんなりとは言うことをきかぬ。そして薄黄色などの色の薄いドレスばかり着ておった。いずれもナターシャ叔母上が生前好んだ色であった。ただそのことを教えていない。そうしたならば、二度と私のドレスを着ないだろうから。
そうして私はその魂を言葉で愛でた。そう、私はこの者に私と夫との色事を伝えた。この者は頬を赤らめ聞いておった。
悪い話をしているとは想わぬ。私の如く、いきなり閨でそれを知るよりはずっといい。男とはどんなものか、多少なりとも知っておった方がいい。仮に私が間違っておるとしても、後にそれを自らの経験と照らし合わせて、ただせばいい。
例えば、私はその手を握って話をする。例えば、後ろから抱きついて、その未だ細い体をかき抱く。時に子供の如くむずかるが、私が幼児の如く駄駄をこねると、私の好きにさせてくれる。
本当は優しい子だ。アレクサンドラ。そのいちいちを聞かずとも良く分かる。いかに怨嗟と嫉妬の中で生きて来たか。己を保つための気ぐらいの高さだ。
私には心を許せ。
同じ身の上だ。
私がいかに夫に愛されておるかの話をする。アレクサンドラの手は汗ばみ、心拍が高くなる。その心は
それを楽しめと私は教える。
相手が愛ゆえに示す表情・仕草・言葉・感情、何であれ良いから、己のものをそれに重ねよ、そしてそれを相手に返せと教えた。
アレクサンドラは良く分からぬという顔をしておった。だから次の如くの例を出して、度々説明した。相手がサプライズで何かしてくれたり、プレゼントしてくれたら、とても喜んでみせよと。これがまず手始めだと。
実際、私の言ったことが分からなくとも、だまされたと想ってやっておれば、いずれは分かる。
お前はさとい子だ。だが時にあまりにさかしらに過ぎて、眼前のことを見落としかねぬ。
まあ、それは良い。
私の息子と結婚すれば、今まで以上に多くの時をともに過ごすことになる。徐々に徐々になして行けば良い。
しかし、何という美しさだ。
何という気高き魂だ。
私はきっと、夫が私に向けるのと同じとろんとした顔で、お前を見ておるのだろう。それでもお前は私の心に気付かぬか。こうして後ろから抱きしめておると、ついついその
お前は私の心に自らが生じさせておる千々なる乱れに気付いておるか? そしてそれをこそ私が楽しんでおることを。お前も私の手の汗ばみを知り、私の鼓動を背中に感じておろう。なら、その心はやはり乱れておろう。
私の言葉はまだお前に届かぬかもしれぬ。ただ言葉をのせた声は、お前に私の魂の何ほどかを伝えよう。その無声の息吹は、私の
「コラ。アレクサンドラ。笑うな」
「だって、伯母上。耳に息を吹きかけないでください。くすぐったいわ」
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