第174話 誕生日パーティへ

それから招待状を書いたり、人数分の食料を仕入れたり、屋敷中を飾り付けたりと使用人達も私も大忙しであった。


イサベルはドレスに宝石を完璧な比率で付けて少し目立ちにくいドレスが華やかなドレスへと変貌を遂げた。


そして私は「ありがとうイサベル。自分の分も飾り付けておきなさい」と伝えたのたがそれは拒否された。


こんな素敵なドレスをお貸し頂いた上にリティシア様の宝石までつけさせて頂くなんて申し訳ないということらしい。


まぁいいか。宝石なんてなくても彼女自身が宝石みたいなものだものね。


私は髪飾りもイサベルとお揃いのデザインのものを用意した。やるなら徹底的に。イサベルは公爵令嬢の盾があるとはっきり思わせるのよ。誰にも文句なんて言わせないわ。


ルナ自身も最初こそ不服そうであったがお嬢様がそれで満足ならと最終的に納得してくれた。


何故出会ったばかりのイサベルをそれ程大切にするのかという疑問が彼女の中にあるだろうが、彼女はまだ聞かないでくれている。いつか時が来れば…全てを話そう。


そういえば誕生日パーティーというからにはケーキを用意してくれるらしいが、それはお母様とお父様が担当した。楽しみにしておけと二人が意味深に笑っていたのがとても気になったが、一応楽しみにしておこう。


普段の仕事に加えパーティの準備に追われる使用人達は哀れな程忙しそうだったが、イサベルは相変わらず楽しそうに仕事をしていた。


私とお揃いのドレスを着れることが余程嬉しいのか、パーティ当日まで毎日「ありがとうございますリティシア様!」とお礼を言いに来た。もういいわよと伝えてもお礼を言いに来るので好きにさせておいた。


なんだかアレクシスと使用人の関係に似ているように思えた。


パーティ当日までの三週間、アレクシスと会うことは一切なかった。手紙すら書くことができない程仕事が急に忙しくなったらしい。


だがパーティには来てもらわなければ困る。招待状は特別仕様で送った。他の貴族達には堅苦しい文言で送ったのだが、彼にだけは「来ないと燃やす」と脅し文句を入れておいた。


…本来であれば王族侮辱罪だが彼ならば許してくれる。


その予想通り私の招待状の内容が公になることはなく、処刑日が設定されることはなかった。


従来になぞらえて考えると招待客が参加するか否かを予め聞いてそれで人数を把握するらしいが、私のパーティだけはそれを聞かないらしい。


それはつまり…強制参加を意味する。

ということで余程の事情がない限りほぼ全員が来るらしい。


…可哀想に今までどれだけの人間がリティシアに遊ばれてきたのかしら…しかも強制的参加って辛すぎる…。


そして気づけばパーティ当日の朝になっており、使用人達の忙しさはピークに達していた。


私は走り回る使用人達に申し訳なさを感じながらも自分の用意をする。


初めて転生したことに気づいた時はドレスの重さに驚いたものだが、ここまで来るとすっかり慣れてしまっていた。


慣れって怖いわ。このままだとドレス以外のものを着たときに逆に違和感を感じそう。


「お嬢様、今までもそうですが、今までよりももっとお美しいですよ」


ルナが私の髪を上手に巻くと得意気に微笑む。その隣でイサベルは別の侍女に髪やドレスのセットをしてもらっていた。


「あ、あのリティシア様、私本当にここまでしてもらっていいのでしょうか?これはリティシア様のパーティなのに…」


鏡に映る見たこともない自分に驚きながらイサベルはそんなことを口にする。


ドレスを纏い、きちんと髪を整えた彼女の美しさに適う者などこの世にはいない。イサベルは間違いなくこのパーティの主役になれるだろう。


そして彼女はとても不安そうにこちらを見つめてくるので、私は安心させるように微笑む。


「それでいいのよ。これは私のパーティなんだから…誰にも文句は言わせないわ。」


私の笑みで少しは不安が取れたようだが、やはりこれから会うであろう沢山の貴族達を想像して緊張しているようであった。


貴族達はイサベルを一目見た途端に恋に落ちることだろう。だがそれは永遠に叶わぬ恋だ。だって彼女は王子と結ばれて皇后になるのだから。


このパーティで私の今までの努力が身を結ぶ。努力とは言っても大したことはしてないんだけどね。やったことと言えばできるだけアレクに冷たくしたことくらいかな…。


でももうそれも全部終わり。このパーティで私とアレクは他人になり、イサベルはこの世で王の次に最も位の高い皇后の座を手に入れる。そうして小説は元通り…。


私とアレクの出来事は全て闇へ葬り去られる。なかったことになるのよ。それでいい。それが正しいんだから。


「リティシア様、何故そのようなお顔をなさるのですか?やはりパーティが不安ですか…?」


イサベルは私の感情を察知し先程よりも不安げに表情を歪めてこちらの表情を伺ってくる。


私は彼女の言葉に敢えて笑ってみせる。


「私が不安?まさか…私が不安を感じたことなんて一度もないわ」


イサベルは、一層不安げにこちらを見つめるのだった。

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