第172話 ドレス
「ではどのドレスにするか早速選びましょう。その後も前回と同じとはいえお嬢様にいくつかしてもらうことはありますからね。覚悟しておいて下さい。」
「分かったわ…」
パーティは参加する側の方が楽よね…。自分で主催するなんて考えるだけで大変だわ…。
そしてルナが一足先にクローゼットへと向かうと、イサベルが私の前に立ち、輝かしい瞳でこちらを見つめる。
「リティシア様!リティシア様に似合うドレスと宝石をお選び致しますので期待していてくださいね!」
「分かったわ…」
「リティシア様!絶対成功させましょうね!」
「分かったわ…」
「公女様が同じ
アーグレンにそうつっこまれて適当な返事を返してしまっていたことに気づく。しかし言われた本人であるイサベルはにこにこしていて全く気にしていない様子であった。
そしてイサベルも「先に行ってお待ちしていますね!」と一礼するとルナに続いて出ていってしまう。
残された私は今からやるべきことを色々と想像してみる。
…まさかとは思うけど招待状を一枚一枚手書きするなんてことはないわよね…?
コピーとか印刷とかは…いやそんな技術ないか…。私は一体何枚書く羽目になるのかしら…。
お母様とお父様も手伝ってくれるでしょうけどこれは私のパーティだから基本は私が書くんでしょうね。凄く困る。
小説の主要人物はもう既に出てきているし他の貴族は知らない上に興味もないから正直来なくてもいいのよね…。でも私はリティシアだもんね…。はぁ。仕方ないか。
私は考えないように軽く首を振ると、アーグレンに声をかける。
「アーグレン」
「はい。どうなさいましたか?」
突然私に呼ばれたアーグレンは不思議そうにこちらを見つめてくる。そして私は真顔でこんなことを呟いてみる。
「イサベルって…可愛いわよね」
その予想外すぎる言葉にアーグレンは面食らったような表情をする。驚きのあまり声が出ないようであったが、彼はなんとか言葉を発した。
「…はい?私にはよく分かりませんけど…公女様からはそう見えるのですか?」
「そうよ。女の目から見ても可愛いんだもの…ねぇアーグレン、これだけは忘れないで。ぜっったいに好きになっちゃダメよ。分かった?」
「その予定は元からございませんが…分かりました。」
何言ってんだこいつみたいに思われたかもしれないが仕方ない。これだけは言っておかなければ。
アーグレン、貴方を親友に好きな人を取られた可哀想な騎士団長にはしたくないのよ。
どうか好きにならないでね。
…まぁイサベルを見ても何も思ってなさそうだからわざわざ言う必要はあったのかって疑問なところだけどね。
私は微妙な表情をするアーグレンと共にルナとイサベルの待つ場所へと向かった。
クローゼットを開くと、ただでさえ多いドレスに更に新着ドレスが追加されていた。本来は色ごとに分類されているのだが、何故か分かりやすく別の場所に保管されていた。
そう、これを着ろと言わんばかりの場所に…。
「うわぁ、ドレスがこんなに沢山…!」
イサベルは目を輝かせて隅々までドレスを見ていたが、私はとてもそんな気分にはなれなかった。
こんなに絶対いらないでしょっていうつっこみをしてくれるまともな人間はここにはいない訳?
「殿下が公女様にプレゼントしたドレスは青色…ですか?」
アーグレンはアレクシスが私に贈ったドレスを眺めると少し不思議そうに問いかけてくる。私はすぐに頷いた。
「正確には青と水色ね。私がこの色がいいって言ったら買ってくれたの。でも指定しなければお店のドレス全部買い占める勢いだったわよ。こんなに本当はいらないのに…」
「なるほど…。きっと殿下は…リティシア様が喜ぶ姿を見たかったんだと思いますよ」
イサベルもルナも何度も頷いているが、私はなんとも言えない気分になる。
そうね…でも楽しかった思い出はその人が私の元を去れば悲しい思い出に変わる。
結末が分かっているのに喜ぶ程、私はバカな女じゃないわ。
折角くれたんだからパーティではこの中のどれかを着ようとは思うけど…これからアレクがイサベルにこんなのとは比にならないくらいのプレゼントをすると思うと素直に喜べないわよね。
「そうね。折角くれたんだしこの中から選ぶことにするわ。イサベルとルナはどれがいいと思う?」
「私は断然これです。リティシア様によくお似合いになると思いますよ!」
イサベルが手に取ったドレスは、レースが各所に飾られている少し大人しめなドレスであった。続いてルナも答える。
「私もイサベルさんと同意見です」
「アーグレンは?」
「…私はドレスのことはよく分かりませんが、お二人が選ばれたドレスは公女様によくお似合いになると思います」
困ったようにしながらもアーグレンは自分の意見を述べる。じゃぁ皆似合うって言ってくれるしこれにしようかな。
「じゃぁそうね。私はこれにするわ。次はイサベルね」
「えっ?」
「お嬢様…?」
ルナは私の発言に驚いて固まり、イサベルはよく理解できずに目を見開いている。
「…さぁイサベル、貴女も好きなドレスを選びなさい」
このパーティの主役は私じゃない。
貴女よ、主人公イサベル。
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