第3話 お誘い
侍女にすぐにお茶菓子を用意させると、自身の婚約者が何を考えているのかまるで知る様子のないアレクシスはこの性悪娘には勿体ない屈託のない笑みを見せる。
「そりゃ良かった。一ヶ月後に俺のとこでパーティがあるんだけどさ」
「…なんのパーティーなの?」
「そう言われると困るけど…まぁ毎年開かれる恒久の平和を祈って身分関係なく城が開放され一晩踊り明かす日さ。ここで出来たカップルが将来結婚したという話も少なくはない。」
「へぇ庶民も混ぜてダンスパーティーをやるって訳ね。…それに、どうして私が?」
「一緒に踊ろうぜっていうお誘いだよ。俺の婚約者だからって俺としか踊っちゃいけないなんてルールはないから、お前も好きなだけ楽しんでくれていいぜ。俺は俺で楽しむからさ。」
「でも貴方は知らない人と踊るダンスなんて好きじゃないでしょ?一体何で暇を潰すつもり?」
アレクシスはここで初めてダンスの話題を出すのだ。
原作ではここで冷たく断って婚約者の出ないパーティに出ては面目が立たないとなり、結局王子も欠席する羽目に。
しかし本当の理由はアレクシスは単に知らない女と踊るのが嫌なだけだったのだ。この事実はアレクシスの心情のみで語られた為、誰も知る事はない。
そう、誰も知らない情報を、私は今述べてしまったのだ。
「えーっと…どうして俺が知らない女と踊るダンスが好きじゃないって知ってるんだ?これは誰にも言ってない事なのに…」
「分かるわよ。だって私は貴方の婚約者だもの」
私の一番大好きなキャラクター、アレクシスにまさかこんな台詞が吐けるとは。初めて悪役令嬢に転生した利点を感じ始めた。
「上手く纏めたな…。というか…リティシア嬢が自ら俺の婚約者を名乗るなんて珍しいな?何か企んでるのか?」
そりゃそうよね。婚約者どころか奴隷みたいに思ってたんだから。自分より身分が高い相手だろうが関係ない。ただ自分が上でいたい。…改めて言うととんでもないやつだわ。
「ご冗談を。王子の貴方に対する企みなどございませんわ」
「なんかお前変だな?いつものお前ならもっと強気に言い返すだろ?」
「強気に言い返してほしかったのならごめんなさいね」
整った顔立ちのアレクシスを見つめてしまうと恐らくその美しさに表情筋が緩んでしまうので、腕を組みながらリティシアの部屋の無駄に高価な装飾を眺めながら言葉を返している。
…はぁ、大好きなキャラにこんな形で会うことになるなんてなぁ。
「どうした?」
ぼけっと思考を巡らせていたせいで彼が私の目前まで迫っていたことに気づかなかった。
「わぁっ」と悪役令嬢らしからぬ声と共に椅子から転げ落ちかけた私をアレクシスは慌てて支えてくれる。支えた力強い手から伝わってくる熱に一気に身体が熱くなってしまい、それを隠そうと手を口元に当てる。
大好きなキャラクター、アレクシスが幸せになるには…私リティシアが悪役令嬢を演じて主人公と結ばれる事しかないの…!その為に演技がバレてはいけない!
「ごめん、俺が話しかけても返事がなかったから…」
「だとしても突然女の前に現れるのが王家の教育な訳?信じられないわ」
「悪い...」と本当に申し訳なさそうに俯くアレクシスに心が猛烈に傷んだ。
心から謝りたい…。ただ理不尽に責めるのでは私のプライドが許さないからできる限り論理的に責めることにしよう...。うぅ、辛いわ。
アレクシスが顔を上げたので私は慌てて表情をキリッとさせる。悪役令嬢らしい顔ってこんな顔かな...。
「リティシア嬢?変な顔してどうしたんだ?そりゃ今のは俺が悪かったけどさ...そんな顔することないだろ?」
えっ私どんな顔してたのよ。元々悪役顔だから変に見えたのかしら...。慌ててもう一度よく考えて自分の思う真顔に戻すとどうやら正解だったようで、「あ、戻った」とアレクシスが笑う。やめて、その眩しい笑顔は私には勿体ないわ。
「話を戻すんだけどさ、リティシア嬢がパーティに出たいなら参加するよ。俺が知らない女性と踊るのが苦手だってのを知ってたのは驚きだけど、もしお前が出たいんだったら無理をする必要はないからな。」
なっ...どこまで優しいの?この王子は...。誰にも言ってない秘密のことを言い当てられたんだから怒ってもいいはずなのに...。
というかもっと疑問に思うべきだわ。本当にこの真実はアレクシスしか知らないんだから。それなのにリティシアを気遣う態度を見せるなんて...。
本当は大好きだーって叫びたい...でも私は前世では堅物...といっても見た目だけのイメージなんだけど。と呼ばれた女よ。こんな事で悪役令嬢の仮面を剥がすわけにはいかないわ。
一旦心を落ち着かせてから、口元だけ笑ってみせ、嫌味な笑みを浮かべる。今度こそ悪役令嬢に見えるはずだ。
「私が行かなければ貴方は婚約者なしのパーティに参加しなきゃいけなくなるものね。おまけに知らない女の人と踊るのが苦手なら尚更知ってる女を連れていきたいはずだわ。全く困った王子様ね」
こんな事が言いたい訳じゃないのに...でも駄目よ、心を鬼にして、これから現れるヒロインとくっつけてあげないと...。
アレクシスはここまで言えば流石に眉を顰めるだろうと思ったが、私の予想に反してじーっとこちらを見つめてくる。
目が合うと美男子オーラで口がにやけてしまうもしくは真っ赤になりそうなので慌てて目線を逸らす。イケメンって罪ね...。
「そうなんだよ。俺は困った王子だからさ。リティシア嬢が来てくれたら嬉しいんだけど。」
嫌味を華麗にスルーするこのスキル!微笑み!リティシアには勿体ないわ、本当に...。
あぁ、私がヒロイン(主人公)だったら良かったのに。ヒロインだったら...心置きなく色んなお話ができたのに。私ってこういうところは不運なのよね...。
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