第11話
「「――忍者だ!!」」
ソウジンの話を聞き終えたレッドとロビンから出てきた第一声がそれだった。
打ち合わせていたのかと思うほど2人の声はぴったりと揃っており、それが可笑しくてソウジンはついふっと笑みを溢してしまう。
とはいえ、忍者という形容は言い得て妙であり、寧ろソウジンの行動から忍者をイメージしない方が珍しいくらいだ。
サイズと扱い方はともかくとして、二振りの手裏剣を巧みに使いこなし、煙玉で姿をくらまして遭遇した敵から無傷で逃走し、挙げ句の果てにいざという場面で変わり身の術同然のことをやってのけていたのだから。
もし日本好きの外国人が攻略中のソウジンを目の当たりにしたら「ワーオ! ユージャパニーズニンジャ!!」などと大はしゃぎで歓喜していたことだろう。
無論、ソウジンとしては狙ってやっていたわけでなく、限られたステータスと資金でどうすれば攻略できるかを考えた結果こうなっただけであって、いわば偶然の産物でしかない。
今、2人に忍者と言われて、確かにそうかも、とようやく自覚したくらいである。
しかし、そのことを知らない第三者からすれば、忍者を意識しているように見えてもなんら不思議なことではなかった。
「それにしても、手裏剣で来たこともそうだけどさ、パラメータを均等振りにしてたのもまさかまさかだったよねー!」
「ああ、だな! でも逆にそういう構成にしてたから、上手くハマったのかもしれないな。今回に関しては、INTとRESは死にステと化してたけど。流石、センウタが目をつけただけはあるな」
「え、そうなの?」
いつの間にかちょこんと話の輪に加わっていたセンウタに視線を移す。
始まりの街で見かけてから今に至るまでずっと無言を貫いていた彼女だったが、ここで初めて口を開く。
「……うん、そう」
表情を変えることなく、短く一言だけ。
鈴の音を転がしたような透き通った声だった。
途端、胸の奥がきゅっと締めつけられ、耳の中で何度も反響するような感覚に襲われるも、「おーい」とロビンの声ですぐに我を取り戻す。
慌てて振り向くと、ロビンが微笑ましいものを見るように、にまにまと目を細めていた。
「あ……ごめん、どうかした?」
「ううん、ちょっとぼうっとしてたみたいだから。気にしないで」
「うん……分かった」
笑みを崩さずそう答えるロビンにソウジンは首を傾げながらも、そういえばと、ふと思い浮かんだ疑問にレッドにぶつける。
「ねえ、レッド。今度は俺から一つ聞いていい?」
「おう、いいぜ。どんとこい!」
「ありがとう。じゃあ……俺が聞くのもどうかと思うんだけど、どうして入団テストをしようと思ったの? 今後を見据えて人数を増やしたいって言ってたのは憶えているけど、それだったらわざわざ始めたばっかの人じゃなくてもよかったような……」
ラウンドテーブルは始めたてのプレイヤーでさえその名が知られているほどの有名ギルドと聞いている。
未だにその凄さを完全に理解できたわけではないが、であれば即戦力となる人材をスカウトして引き入れることはそう難しいことではないはずだ。
だから、ソウジンの疑問も最もだった。
「あっはっは! 確かにソウジンがそれを聞くか。けどまあ……そうだな、そこら辺も含めてちゃんと話しておくか」
高笑いしたかと思えば、一転レッドはきりっと表情を引き締めた。
「ソウジンはこのゲームの目的って知ってるか?」
「……目的? それってパッケージの裏に書いてた売り文句とか、説明書に書いていた世界観説明のこと?」
訊ねると、そうだ、とレッドの首肯が返ってくる。
ドラテにおける大目的――それは一言で言ってしまえば”世界の探求”。
様々な出会いと別れを繰り返し、数多なクエストを攻略しながら広大な世界ベズレヴィアを自由に冒険しよう、というのがプレイヤー共通の目的だ。
まあ現状、ソウジンはその大目的を現在進行形で放り投げているわけだが、そこは一旦置いておくことにしよう。
「このゲームをやっていると、子供のお遣いからエネミーの討伐までマジで色んなクエストと遭遇するわけなんだけど、発売してから1年半が経つっていうのにタイトルにまつわるクエスト……要するにドラゴンの名称の入ったクエストは一度たりとも見つかってないんだ」
「へえ、そうなんだ。……それと入団テストとどういう関係があるの?」
「――見つけたんだよ、ドラゴンに関連するクエストをな。ただ……そいつには受注条件があって、俺たちだとその条件を満たせなかった。レベル上限がかけられてたんだ」
まさかやり込んだが故の弊害が出てくるとは思ってもいなかった、とレッドは苦笑混じりに肩を竦めていた。
「一応レベルダウンすることもできなくはないんだが、そこまでメリットがあるわけでもないからずっと頭を悩ませていたわけよ」
ここでようやく点と点が繋がった。
「そっか……だからレベルがまだ低い、始めたてのプレイヤーを募集しようとしたんだ」
「そういうことだ。でも、上限レベルは30とそこまで低いわけじゃないから、必ずしも始めたてである必要もなかったんだけどな」
「それじゃあ……どうして?」
再度訊ねてみると、レッドは一呼吸置いてから、ころりと無邪気な笑顔に切り替えて続きを口にする。
「まあ色々理由はなくはないんだけど……どうせだったら面白そうな新人に託した方が楽しくなりそうだったから。これが一番の理由だ」
そして、レッドはメニュー画面を開いて少しすると、ソウジンの元に一通のメッセージが届く。
差出人はレッド、件名は[ギルド招待]と書かれていた。
メッセージを開いて内容を確認すると[レッドさんがあなたをギルド『ラウンドテーブル』に招待しています]と記載された定型文と[はい]、[いいえ]の2つのボタンが表示されていた。
「今の話を聞いて、それでも俺たちと一緒にやりたいと思ってくれてるなら喜んで歓迎させてもらうよ。どうする?」
レッドから改めての問いかけにソウジンは、迷うことなく[はい]をタップして答えるのだった。
「うん、こちらこそよろしくお願いします」
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