288話 不在の証明
それで、……どこまで話したっけ?
――”悪魔島”に上陸して、”ゾンビ”撃退し、街を救ったところまでです。
ああ、そうそう。そうだった。それで、次の日の朝ね。
目が覚めるとあたし、村の人から天然由来の朝ご飯をご馳走になって……。結構、美味しかったわ。
案外、”悪魔島”の暮らしも悪くないな、って。
――ちょっと待って下さい。その食事に、”
え? ……ええっとー………確か、不参加だったかな。
彼、あたしが目覚めると、すぐにどこかへ行っちゃってさ。
「まだ助けていない人がいる」
って。
本物のタフガイってきっと、ああいう男を言うのよね。彼、昨夜はナニした後だったし……ほとんど寝てないはずなのにさ。
それであたし、彼がどっちの方面に向かったか街の人に聞いたんだけど、誰もそんな人、見てないし、顔も知らないって言うんだ。
――誰も? ……彼とあなたは、一緒にゾンビと戦ったのでしょう?
うん。といっても、彼も”サモナー”だからね。ゾンビと戦った時も、直接戦ったわけじゃない。
島の皆が見ていたのは、有名なチーフ”サモナー”であるあたしのことだけだったとしても、不思議なことじゃないわ。
――…………。
まあ、あたしだって子供じゃないからね。
彼とはそれっきりってことになったって構わない、くらいに割り切ってた。
でも、……街の人たちを救助した後も、あたしが”悪魔島”に残ったのは、きっと彼にもう一度会いたかったからだと思う。
――彼とは、再会できましたか?
ん? もちろんできたよ。
あたしは、”カガク”系モンスターの使い手だからね。”カガク”系は、情報のやり取りが早いでしょ? すぐに目撃情報が届いたわ。
彼はその時、たまたま連中の巣に紛れ込んだ三人家族を救うために、たった一人で”ゾンビ”と戦っていたの。
それも、手持ちはたったの二匹!
さっき話したワトスンと、……あと、ナントカってやつだけ。
――ほう。勇敢ですね。
うん。
あの時の彼ったら、現チャンピオンの、……スカーレットを彷彿とさせたわ。
といっても、線の細いスカーレットとは似ても似つかなかったけれどね。
――スカーレットは、若年層の間では絶大な人気がありますからね。彼と”
そうね。
あたしも、彼とは数年前には一度、手合わせしたことがあるけど。手も足も出なかった。
……ってまあ、そんな話はともかく。
とにかくあたしは、飛行可能なタイプの”カガク”系モンスターを使って、三人を救出したの。
彼らを改めて港に送り届けた後、……あたしは、彼の元に駆けた。
そして、……そうね。彼の胸に飛び込んで、ぎゅってしたの。
ああ、ラブロマンス要素は不要なんだっけ?
――別にもう、構いませんよ。どうぞご勝手に。
そんで、こう言ったの。
「あなたを愛しています。一緒になってください」
ってさ。
結局あたし、昨夜のことが忘れられなくって、――主に、ぴっちぴちのパンツの上からでもくっきりとその形がわかるアレが。
だから、思い切って告白してみたってわけ。
でも彼、哀しげに微笑んで、
「悪いが、それはできない。ぼくには、世界を救う使命があるんだ」
って。
まあ、そんだけ。
彼はそのまま、つむじ風のようにいなくなって、それから会ってない。
なんでも、悪者に狙われてるから、ひとところに留まるわけにはいかないんだって。……まー、つまり。あたしたちは結ばれる宿命にはなかったの。
哀しい恋物語ってことよね。
――ふーむ。……なるほど。よく……わかりました。
ん。
――もう、大丈夫です。本日は、どうもありがとうございました。
えっ。これだけでいいの?
――はい。……ああいや。最後にもう一つ、よろしいですか?
どうぞ。
――実を言うと、事前にこちらで、いくつか調査したのですが、その”
は?
――それに、他にもいくつか、おかしな点が見受けられます。例えばその方は、『港で人々を救って回った』とおっしゃいますが、どこにもその、”
……………。
――一応、ジムの受付嬢からも裏付けを取らせていただきました。話によるとやはり、あなたが”悪魔島”に飛び立ったあと、わざわざ救援に向かうような奇特な”サモナー”は現れなかった、と。
……ふうん。
つまり、あなたはこういいたいわけ?
”
全部あたしの、口から出任せ、と。
――いいえ。そこまでは。……ただ、若くして成功した”サモナー”が、よく溺れてしまうものがあって。最近、社会問題になっていますよね。
ああ、……はあはあ。
ドラッグのこと言ってる?
――はい。”チュウチュウネズミ”のことです。あなたが昨夜飲んだ”睡眠剤”とは、それのことではないですか?
いや、正確な名前は知らんし、違うけど。
ってか、さすがのあたしも、ラリって幻覚見えるような状態で、現場入りなんてしないよ。
――とは、いえ。残念ながら。実際、当日のタイムスケジュールを確認しましたが、どう考えても、その辺の無名”サモナー”一人がこなせる仕事量ではない。そんな男が実在するのであれば、もっと話題になっていてもおかしくないのに、です。
あら、そう。
――まだ、根拠はあります。”
まあ、言われてみればね。
――私もすでに、現場の報告は受けています。”ゾンビ”。人間を、知恵のないモンスターに変えてしまう病気。明日朝には、センセーショナルなニュースが世界中を賑わすでしょう。
……まあね。
――最初の墜落も、案外あなたが指示をミスしたせいかもしれませんね。実際、その辺りに《風系魔法》を使うようなモンスターの存在も確認されていませんし。
どうかな。
――別に私は、あなたを責めるつもりはありませんよ? ただ一つ言えるのは、あなたはまともじゃない状態で、この世の地獄に降り立った。……その結果、ありもしない、”理想のヒーロー”を作り上げた。どうです?
うーん。……どーかなー?
――失礼ですが、《ブック》を見せていただくことはできますか?
…………………。
ダメよ。それは要するに、あたしの手札を全部晒すことになるから。
――いいえ、違います。あなたは、見せたくないんじゃなくて、見せられないんだ。ご自分の契約モンスターなんでしょ? ……その、”ワトスン”とやらは。あなたはきっと、手持ちのモンスターを”
あなたがそう思いたいなら、そう思っていれば良いわ。
――いえ。そう思っているのは決して、私だけではありません。あなたが話す”
…………………。
でも、事実として”彼”はいたのよ。
そこにいて、あたしを助けてくれた。”
信じていれば、いつだって駆けつけてくれるのよ?
――いずれにせよ、このことはやがて、公表されるでしょう。私の仕事先は、あなたのおしゃるとおりの”ゴシップ系”ですが、これは公式のインタビューですから。……では、✕✕✕✕さん。精神鑑定とカウンセリングを受ける準備をしておいてください。
…………………。
――悪く思わないで下さい。これは民意なのです。我々は、あなたたち強力な”サモナー”を信頼すると同時に、恐れてもいるのですからね。
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