三章 WORLD1943 『復讐の結末』
63話 主人公役
(※ 筆者による前書き)
今回のお話は前回に引き続き、仲道狂太郎くんの録音をそのまま文字起こししたものである。
事実のみを淡々と描いた内容であるので少々盛り上がりに欠ける点があるが、そこは資料的価値を優先させた結果ということで、ご了承いただきたい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ええと……あー、あー……聞こえてるかな……ええと……よし。
大丈夫そうだな。
では本日も、お仕事頑張っていこう。
【00:00:00~】
というわけでさっそく、状況を確認。
ぼくは今、途方もなくでかい王国を見渡せる丘陵の、てっぺん付近で突っ立ってる状態。
この絵面は……どこかで見たことがあるな。
なんかのゲーム系のニュースサイトで見た。
たしか、何かの理由で、炎上したんじゃなかったっけ? このゲーム。
ちゃんと情報を保存してあったはず……(タブレットPCをチェック中)……ああ、あったあった。
『アサシンズ・ブラッド』ってタイトルだな。
ほうほう。
ベルギー産のアマチュア・ブランドか。
ただ、かなりマイナーなゲームみたいだ。情報が少ない。
ジャンルは、――『メタルギアソリッド』系。要するにステルス・アクションだ。
敵に見つからず、身を隠しながらミッションを攻略していくタイプのゲームらしい。
ええと、なになに……、
『○○○歴1891年。
ここは、呪われた都市、×××××。
×××××の住民は皆、夜な夜な現れる
ビック・ディックマンは、そんな街のはずれで暮らす、百戦錬磨の
そんな彼の生業は、――「復讐代行」。
ある日、ディックマンが自宅に戻ると、恋人が毒殺されていることに気付く。
部屋の壁には、
――復讐を果たせ。
と書き殴られたメッセージ。
「何故?」
「どうして?」
「彼女が一体、何をした?」
怒れる彼の、望みは一つ。
「これは仕事だ。いつもと変わらない……ただし依頼人は、俺自身……」
ディックマンの旅が始まった。』
あー。このパターンか。
主人公が自己主張してくるタイプのやつ。
一応、解説させてもらうと、我々の救済を必要としている異世界は、大きく三種類に分けられる。
①主人公が存在しないタイプ。
②主人公がほとんど自己主張しないタイプ。
③主人公がしっかり自己主張してくるタイプ。
一つずつ説明していこう。
まず、①。
これは主に、何かのトラブルで主人公役が生まれてこなかった世界だ。
『デモンズボード』の時もそうだったが、キャラクタークリエイトの幅が広いゲーム世界に転移した場合、こうなることが多い。
原因はよくわからないが、――世界そのものが、どういうやつを”主人公”とすべきかわからなくなって、混乱してしまうのではないかと思う。
続いて、②。
『ドラクエ』とか『ポケモン』とか、その辺のゲーム世界に転移した場合はこのタイプだ。
個人的には、②を相棒にした時がもっとも仕事をやりやすい。
この手の「無口系主人公」は、ただひたすらに「世界平和」を目指す。
良く言えば、一途。悪く言うなら、ロボットみたいとも言える。
なお、彼らとの付き合いには、ちょっとした工夫が必要だ。
というのもこのタイプ、どんな頼みごとも断らないのである。
世界が危機に瀕しているというのに、「お腹をすかせたおじさんのスープを作る」ような頼みごとまで黙々と行う。
総じて、彼らとうまくやるには定期的な軌道修正が必要だ。
最後に、③。
『FF』や『テイルズ』などに代表されるゲーム世界に転移した場合がこのタイプ。
誰もが一度は空想したことがあるだろう、――壮大なドラマの登場人物の一人として、異世界の救済に参加することになる。
経験上、このタイプの主人公役を相手にする場合、こちらの指示に従ってくれるかどうかはおよそ、五分五分といったところ。
何せこのタイプの主人公役は、恋に冒険にと、なかなか忙しい。
それぞれの主人公役にそれぞれの目的があるため、「世界平和」に邁進するようなやつは稀なのだ。
とはいえプレイヤーの感情移入の対象である”主人公”が根っからのクズである可能性は低く、最終的には仲良くなっている場合も少なくない。
……と。
暇つぶしがてら、長々と語ってしまった。
んで、いろいろ情報を集めたところ、今回のパターンは多分、③だと思う。
②の可能性もあるが、攻略WIKIを見た感じ、③で間違いないだろう。
【~00:15:16】
▼
【00:28:11~】
はい。
ちょっと街に出て、現在の日付などを確認してきた。
で、いま、再び同じ場所に戻ってきて、アウトドア用の椅子に座ってる。
何をしてるかっていうと、この世界の主人公役、――ディックマン待ちの状態。
ディックマンは現在、愛する人を失って泣きべそかいているタイミングじゃないかな。
できれば助けてやりたかったが、今回は間に合わなかった。
転移した時点で、もうすでに手遅れだったのだ。
やがてディックマンは、復讐を決意してこの丘にやってくるだろう。
奴と合流するのは、そのタイミングにしようと思っている。
ええと、あと語るべきことあるかな……。
一応、『アサシンズ・ブラッド』のあらすじをチェックさせてもらったところ……この作品、あれだな。
復讐モノってやつ。
恋人の死に関わったと思われる容疑者が何人かいて、そいつらを片っ端から殺していくのが、このゲームにおける最初の課題だ。
で、復讐のための殺しを続けていくうち、事件の真相が明らかになっていく、と。
なるほどね。
個人的にぼくは、復讐モノというジャンルについていくつか、思うところがある。
というのも……、おっと!
話の途中だが、――奴が現れた。
ビック・ディックマン。
日本語に訳すと、「ちんちんでか男」とでも言うべきだろうか。
すごい名前だな。
いずれにせよ奴が、――この世界の”主人公役”だ。
見たとこ野郎、……ずいぶん負のオーラをまとってるな。
おお、こわいこわい。
とりあえず挨拶しておこうか。
【~00:34:54】
▼
【00:35:12~】
はーい、どうもどうも。
「……なんだ?」
復讐に燃えているところ、こんにちは。
ちなみにぼくは、事件の真相、ぜんぶ知ってます。協力しよう。
「は?」
びっくりするのも無理はない。だが、このままきみを放っておくわけにはいかない。
いろいろあって、世界が亡びたりするから。
「おまえ……おまえ……。おまえが犯人かっ!?」
なんでそうなる。ぼくは善意の第三者だ。
「し、信じられるわけないだろう!」
ちなみにここまで、テンプレな。
どの世界の連中も、最初絶対、こんな感じのことを言うから。
「ば……馬鹿にしてるのかっ!」
まあ、いきなり信用しろって言われても無理がある、か。
もし、ぼくと連絡を取りたくなったら……これを使ってくれ。
トランシーバー。
これの……、このボタン。
これ押したら、ぼくに通じるようになるから。
ただし連絡するのは、日が出てから夕方までの間で頼む。
その間なら起きてるつもりだ。
あと、これも受け取ってくれ。
「なんだぁ、この……ものすごい量の金貨は!?」
さっき待ってる間、暇だったらな。ちょっと盗んできた。
「う、受け取れるかっ。こんな不気味な金……」
でもそれ一応、きみの恋人の事件の関係者から盗んできたやつだぜ。
「し、知ってるのか!? 犯人を!?」
うん。だからそう言ってるじゃないか。話題ループしてるぞ。酔っ払ってるのか?
「教えろ! いま、すぐに!」
さっき、『信じられるわけないだろ』と言ったくせに。
「し、しかし……」
とりあえずさ、この金はやるから、少し休め。
こっちだって、イライラしてる野郎を相手にするのは面倒だ。経験上、無意味に揉める可能性が高い。
「……飯など……、飯など食ってる暇があるか!」
それは違うぞ。ショック状態で物事を考えてはいけない。
飯食って十分に休んで、なんなら風呂で汗を流して、軽くマッサージなんかも受けて。……それからだよ。
復讐なんて、余暇でやるものさ。
臥薪嘗胆ということわざがあるが、ぼくは反対だな。ありゃ阿呆の発想だ。
「貴様、おれに説教をする気か……ッ」
…………。
そういう物言いをするようじゃあ、やはり犯人については教えてやれん。
ほらっ。金を受け取れ。
「おい、――大金をそんな、ゴミみたいに投げるな……っ」
それじゃ、また明日。
「えっ、ちょ……え……ま、まて! お前、何者なんだ!?」
名乗るほどじゃない。
ただの日雇いバイトだ。
【~00:40:22】
▼
【00:42:23~】
はい、と。
挨拶を済ませたし、仕込みも済ませた。順調だな。
一晩たっぷり時間をやるのは、ぼくの信条に反するやり方だが、今回の場合は仕方がない。
ちょっと調べたところ、――『アサブラ』の”終末因子”を取り除くためには、ディックマンの存在が必要らしい。
むろん、他に手がない訳じゃない、が……。
まあ、今のところは彼と協力する方針で考えよう。
ちょっぴり、嫌な予感がするけど。
いまの発言、フラグにならないことを祈りつつ。
【~00:43:02】
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