幕間 WORLD1292 『永遠の記録』
61話 エターナルクエストRTA 5時間59分8秒 part1/2
(※ 筆者による前書き)
今回のお話は、仲道狂太郎くんが自身の一日を録音したものを、そのまま文字起こししたものである。
ちなみにこの文章は、彼の普段の仕事を記録、保存しておきたいというナインくんの依頼によって作成されたものだ。
事実のみを淡々と描いた内容であるので、少々盛り上がりに欠ける点があるが、そこは資料的価値を優先させた結果ということで、ご了承いただきたい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
では……ええと。はじめることにする。
よーいスタート。
【00:00:00~】
……よし。
ではまず、転移された状況を確認する。
周囲、360度。ぐるりと見回すこと。
見るべきポイントは、山ほどある。
雲はあるか。
太陽は一つだけか。
何か、変わった建物はないか。
植物の形状は、動物の姿は、――そして、どのような魔物が生息しているか。
ぱっとみた感じ、今回転移したのは、わりとオーソドックスな世界だと思われる。
特徴らしい特徴はない。
いまいるところも、ごく一般的な原っぱ、といった感じ。
どこまでも続く平原に、スライムやらゴブリンやら、その手の敵キャラクターがぶらついてる。
では次に、周囲の安全を確保してから、この世界にいる魔物のデザインをチェックする。
見たところ、……ご当地系マスコットっぽいデザインのスライムが数匹。
マシュマロみたいな形状に、目玉が二つ。ずいぶんと可愛らしいデザインだ。
これは、このゲームの代表的なデザインっぽく感じるな。
では、スライムのデザインを手がかりに、転移した世界を検索する。
なお、検索にはタブレットPCを利用する。
もちろん、ただのPCじゃない。ゲーム関係のデータを片っ端から入力しておいた特別製だ。
これを使えばほとんどの場合、その世界の”元ネタ”を知ることができる。
ええと……今回の場合は、これだな。
なになに……、
『タイトル:エターナルクエスト
ジャンル:永遠に記憶に残るRPG
対応機種:プレイステーション
発売元:虹色ファンタジア
発売日:1999年11月18日
定価:5800円
評価:悪名高いクソゲーメーカー、虹色ファンタジアのプレステ参入ゲーム。キャッチコピーは、「この世界の秘密を解き明かした時、世界が救われる」。
とはいえその内容は、「クソゲーとしても、良ゲーとしても楽しめない凡作」「初期FFとDQを足して二で割ったような感じ」「ストーリーにほとんど起伏がない」「取り柄はバグが少ないことだけ」という、ゲームマニアにもクソゲーマニアにも愛されなかった、実に半端な出来の作品である。
発売日が話題作『クロノクロス』と同日であったのも手伝ってか売り上げも振るわず、「誰の記憶にも残らないRPG」としては、一部界隈で少しだけ有名……』
…………ふむ。
1999年か。ずいぶん古いゲームだな。
『クロノクロス』は遊んだことがあるが、このゲームは完全スルーしていた。
まあいい。
次に、シナリオをチェックする。
なになに……。
『時は、内乱のさなか。
凶悪なる魔王軍の支配に、光の戦士たちによる必死の抵抗が行われている。
光の戦士たちはある日、とある巻物を盗み出すことに成功した。
”エターナル・フォース”と呼ばれる魔法が記されたその巻物は、大陸を一瞬にして崩壊させる力を持つという。
いま、凶悪なる魔王軍に追われつつ、とある光の戦士が巻物を手に故郷へと逃れてゆく。
人類を救い、世界の平和を取り戻すために……』
なるほど。オーソドックスなやつな。
要するにぼくの目的は、”エターナル・フォース”の巻物を手に入れて、魔王をやっつけることにある、と。
実にわかりやすい。
で、主人公の設定をざっくり読んで……あと、ストーリーの大まかな流れをチェックしておく。
ちなみに、ここら辺の設定周りは、面倒くさがらずにちゃんと把握しておくこと。
物語の中で、当初の目的がひっくり返るような展開はよくある。
善人が悪人だと判明したり、その逆もまた然り。
例えば今回の場合、「じゃあ”エターナル・フォース”の巻物を破って捨てたらよくない?」となりそうだが、案外それが後半の展開で重要なアイテムになるパターンも少なくない。
よくあるだろ? ラスボスと思われた敵の目的が実は世界平和で、真の邪悪は他にいたのだ、――的な展開。
ということなのでストーリーに関しては、最後までしっかり読んでおかなければならない。
……が。
今回の場合はどうやら、杞憂っぽい。
『エターナル・クエスト』のストーリーは実に単純な、勧善懲悪もののようだ。
王道を突き詰めるあまり、物語にほとんど起伏を作れなかったパターンだな。
とはいえ一点、本作にも、シナリオ的なターニングポイントは存在する。
敵側が生み出した邪悪な呪文、”エターナル・フォース”だが、その呪文を宿した魔剣”エターナルフォース・ブレード”でしか魔王を殺すことができない、という展開だ。
敵側の邪悪な呪文が、最終的には正義のために役に立つ、と。
まあまあ、複雑すぎないギミックだな。
うん。……よし。
方針が決まった。
とりあえずぼくは、”エターナル・フォース”の巻物をゲットするところから始めようと思う。
【~00:24:04】
▼
【01:05:54~】
さて。
今回の全体的な方針として、――いわゆる”物語の主人公”ポジションのキャラクターの手は借りない方向で考えている。
というのも、主人公が”光の戦士”から”エターナル・フォース”の巻物を受け取った時点で、魔王軍の手下によって彼の故郷が焼き払われることが確定してしまうためだ。
悪いがそのような悲劇を見逃すわけにはいかない。
というわけで既にぼくは、絶賛魔王軍に追われている”光の戦士”(女性。20代前半)の前に立っている。
「……ええと、……お前……誰に向かって話してる?」
ああ。声を録音してるんだ。
「こえをろくおん……? いやそれより、お前は……何者だ?」
業者だ。”日雇い救世主”ともいう。
世界が滅びそうなので、救済に来た。
「はあ……?」
そういうわけだから、”エターナル・フォース”の巻物はぼくに任せろ。
「は? いや、そんな訳には……そもそも貴様、なぜそれを知ってる」
悪いが話してる暇はない。ぼくに掴まれ。
「ふ、ふざけるな……!」
すぐそこまで、魔王軍が迫ってるぞ。
「え……うわ……勝手に抱っこするな……はなせ!」
はいはい。ちょっとだけ大人しくしててくれ。
【01:07:32~】
▼
【01:08:54~】
はい、移動終了。
一応、起こったことを解説しておくと、例の女戦士を抱っこして《すばやさ》を起動、周囲を取り囲んでいた魔王軍の間を縫うように駆け抜けて、そのまま離脱しましたよ、と。
「はあ……はあ……び、びっくりしたぁ……。っていうか、ど、どこだここ!?」
さっきいたところから、八キロばかり西の地点、かな。
「は、はちきろ……? えええええ……」
うんうん。良い反応だ。救済しがいがある。
さて、ところで、悪いがきみの巻物はもらっておいた。ぼくが持っていた方が安全だからな。
きみは、ここから少し北に進んだところにある小さな村で匿ってもらっていなさい。
そのうちきみの助けが必要になるかもしれないから。
「は、はあ……」
では、さらばだ。
「ちょ、ちょっとまて!」
……まだ、なにか?
「おまえ、たった一人で、大丈夫なのか」
大丈夫だよ。
逃げ足には自信があるからな。
【~01:10:14】
▼
【01:15:12~】
ここで一つ、助言を付け加えておく。
ぼくはさきほど、あの女戦士さんに「助けが必要になるかも」的なことを言っておいたが、これは別に、何かの確信があっての発言ではない。
ただ、何となくこのようなことを言っておけば、あとあと役に立つ場合があるというだけの話だ。
ぼくの友人に言わせるならばこれは、”伏線”というやつである。
伏線というのは、ただばらまくだけで構わない。
あとでたまたま回収できた場合はなんだか賢い人のふりができるし、もし回収しなくてもまあ、気にする奴はいないだろう。なにせ”伏”線というくらいだ。もともと、はっきりそれとはわからないような作りになってるからね。
……なんか、”日雇い救世主”というよりは、小説を書くときの心構えみたいな話になってしまった。
なお、ぼく自身は小説とかぜんぜん書かないので、悪しからず。
うん。
…………。
……………………。
……それにしても、ずーっと独り言ばっかり言ってて、変な気分だな。
ゲーム実況者って、いつもこんな気持ちでやってるんだろうか。
【~01:17:14】
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