男子大学生の俺、訳ありゲームソフトの世界に飛ばされました。

翠川える

第1話 俺たちの日常

『……では、人気テレビゲーム機器の最新作のソフトである…』


またか。


俺はテレビ画面を見ながら心の中で呟いた。

毎朝つけているニュース番組の見慣れた女子アナウンサーは、CMで嫌というほど見てきたゲーム会社及びゲーム機器について話している。


きっとまたゲームソフトのランキングで1位だとかそんな内容だろう。

ゲームは好きだが、同じ内容のニュースやCMを見ているとさすがに飽きてくるものがある。

そんなことを考えながらカップをグイッと傾け、のそのそと朝食を食べていたせいですっかりぬるくなってしまったコーヒーを一気に流し込んだ。


それから身支度を済ませて地下鉄に乗り込む。

大学に着いて講義室で座る席を選んでいると、見慣れた黒髪の後ろ姿が目に付いた。


「よ、匠!」


「…なんだ、晴哉か」


「なんだってなんだよ。あ、隣座るぞ」


「どうぞ」


こいつは俺の友人の1人、橋尾匠だ。

物静かで成績も優秀なザ・優等生って感じ。

講義中居眠りしてしまったり試験前に勉強不足で困ってしまったりしている時は、くどくどとお説教をしながらもなんやかんやで助けてくれる。


「あ、そうだ。今日の講義終わったら飯食って帰ろうぜ」


「いや、いい…」


匠が言い終わる前に、誰かが俺の席の隣にリュックを置いた。

視線を移すともう1人の友人と目が合う。


「お、勇生。お疲れ」


「お疲れさーん。2人とも何の話してたんだ?」


そう言ってにっと笑った。

こいつは大村勇生。のんびりしていてノリが良く、大らかな性格だ。

そのため同じ講義の生徒の誰とでも仲がいい。


「今日の講義終わったらさ、飯行こうって匠に誘ってたんだ。勇生も行くだろ?」


「お、行く行く!今日は店定休日だしな」


勇生の実家は饅頭屋だ。

こんな体型になっちまうくらい俺ん家の饅頭は美味いぞ、とよくふざけて言っている。

講義が終わるといつも店の手伝いをしているようで、俺はよく匠と共に冷やかしついでに饅頭を買いに行っていた。


「ちょっと、僕はまだ行くとは言ってないだろ」


「いいじゃんいいじゃん」


笑いながら答えていると教授が入ってきた。

じゃあ続きは後で、と交わしてそれぞれ席に着いた。


やがて講義が終わると受けていた人間たちは帰る準備を始めたり、帰りにどこかに寄って帰ろうと話したりし始めた。

俺たちも大学を出て街路樹に沿って街を歩き出す。

大学があるからか否か、この辺りは飲食店がたくさんあって賑やかだ。


「なあ、どこ入る?俺なんか腹減っちゃったよ」


勇生は、へへ、と笑いながら言った。


「そういや俺は腹減ってきたな。匠は行きたい場所ある?」


「僕はどこでも」


匠はいつものことながら結局一緒に来てくれた。

ぶらぶら歩いていると、ある喫茶店のショーウィンドウにバカでかいサンドウィッチの食品サンプルが飾られてあるのを見つけた。


「おおー!何だこれすっげぇ美味そう!」


立ち止まり思わず声を上げる。

すると隣に来た勇生もほんとだな、と同調した。

ここにするか、と誰からともなく言い出し店内に入った。










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