即オチ幼馴染は、一緒にお風呂に入り幼馴染が男性であったことを知る。
さばーん。
肩まで湯舟に浸かった僕は、ほっと息を吐き出す。強張っていた体から力が抜けたような心地だ。体の芯から温まる。
「いやぁ、運がなかったなぁ」
月日は流れ、6月も中旬。梅雨入りしたというニュースは聞いていないが、学校帰りに突然の雨に降られて全身がずぶ濡れになってしまった。
肌に張り付いたシャツは重く、歩くたびに靴から鳴るぷぎゅぷぎゅという水音が気持ち悪い。
幸い、気温は20度を超えているので、濡れたままでも即座に風邪をひくなんてことはない。けれども、水で濡れた感触に耐えかねた僕は、早めのお風呂と相成ったのだ。
「たまにはこういうのも――」
いいなぁ、なんて鼻歌を奏でてしまいそうな気分であったのも束の間、
「もー! 今日雨が降るなんて天気予報で仰っていませんでしたよ!?」
「お約束すぎるぅ」
ハンドタオルで申し訳程度に裸体を隠したルコが、浴室に突入してきた。
まさか現実では起こるまいという定番な状況に、もはや焦りもない。慌てて飛び出すなんて間抜けなことはせず、のほほんっと肩まで浸かる。気持ちいいなぁ。
けれども、僕が落ち着いていたところで、侵入者が平静とは限らない。突発の雨に濡れて不機嫌そうなルコは、浴室の扉を閉めるとシャワーを浴びる。
体をあわあわにして体の隅々まできれいきれいしたら、僕が足を伸ばしていた方から湯舟に浸かり――ぱちりと目があった。そして、茹ったように顔を火照らせる。
「な、な、な……!?」
わなわなと震えて言葉も出ないルコに、僕は力なく言う。
「きゃールコちゃんのえっちー」
「私の台詞です……ッ!?」
僕の台詞なんだよなぁ。
■■
「脱衣カゴみなかったの? そもそも電気付いてるじゃん」
「全身ずぶ濡れでそれどころではなかったんですよ……!」
僕が先に入っていたのを知ったルコは、湯舟の中に顔のほとんどを沈めていく。
恥ずかしいのだろう、二重の意味で。
幼馴染とはいえ、年頃の男女だ。高校生にもなって一緒のお風呂に入るというのは、裸を見られる以上の気恥ずかしさがある。
僕も気まずい。けれど、それ以上に気になる物が目の前にあった。おっぱいである。
(浮いてるよ)
ぷかりと、二つのたわわな浮袋が水面から顔を出していた。
巨乳は浮かぶ。それは豊かな妄想力が生んだフィクションだと思っていた。
まさか、現実だったとは。性的興奮以上の感動を覚える。無意識に見つめていると、僕の視線から胸を隠すように腕で抱きしめた。
「そんな見ないでください」
「ごめんね?」
でも、腕で抱えるほうが形を変えて余計エッチだよ?
「そもそも、見られたくないなら出ればいいよ」
「嫌です。ナギサは先に入っていたのですから、十分温まったでしょう? 出るのであればナギサです」
「じゃあおっぱいガン見する」
「なにがじゃあですか!?」
「じー」
「このっ……」
ざばん、と顔にお湯がかけられる。
自ら裸で入ってきたというのに、なんて理不尽な態度だ。
僕は濡れた顔をごしごしと手で拭う。
「出て行く気はないの?」
「ありません」
「しょうがない」
僕は肩まで浸かり直し、はふっと息を吐く。
「諦めよう」
「出てってください!」
再び僕の顔面にお湯が降り注いだ。
■■
出て行けとルコは言うけれど、僕に譲る気はなかった。
最初に入っていたのは僕だし、なんなら自分の家である。むしろ、なんで君は堂々と他人の家でお風呂に入ってるの?
ただ、そんな疑問は今更だし、意固地になってしまったルコは根が張ったかのように動こうとはしなかった。
こうなってくると我慢比べだ。
「意地っ張りめ」
「ナギサに言われたくはありません」
「あ! もー」
近くにあったパネルを操作して、ルコが湯の温度を上げる。
お湯の中からゴゴゴッと鈍い音が鳴った。徐々に水温が上昇し、比例するように僕とルコの顔も赤く色付いていく。
「子供じゃないんだからさぁ」
「ふふん」
得意気に鼻を鳴らす。小さな子供そのものだ。
湯舟が数度上がっただけとはいえ、気分は鍋に詰め込まれた具材。
「うっ……」
ルコも辛そうだ。もちろん、僕も辛い。
雨で濡れた体を温めていただけなのに、気が付けば我慢大会だ。意味がわらかないよ。
(もう出ようかなぁ)
正直、余計に疲れる。粘る理由もない。
頭もぼーっとしてきて、
危険な兆候。噴き出る汗は熱さのせいか、それとも肝が冷えているせいか。
「うん。僕はもう――」
「……昔もこういうことがありましたよね」
「ルコ?」
僕が浴槽から立ち上がろうとすると、ルコは息もたえだえに喋り出した。
どこを見ているかわからならい瑠璃の瞳が、
「子供の頃にも一緒に入って、息止めの我慢対決」
「まるで成長してないよね」
「……あの頃は楽しかったですねぇ」
「峠目指してないよね?」
「うふふぅ」
世を憂うような微笑。怖くなってきた。
僕が出るよりも早く、ルコを強制退場させたほうがいいかもしれない。
「けど、子供のままではありませんよね」
「ルコさん?」
水音を鳴らし、ルコが無防備に近付いてくる。
咄嗟に後ろに下がるけれど、背中は直ぐに壁にぶつかった。
酔ったかのように頬を赤らめ、体を寄せてくる。普段は服の下に隠された柔肌が、僕の胸板で形を変えた。
(っ、これはちょっと)
血が沸騰したように熱くなる。
意識も、思考も、体も。全てが限界に近い。
「中性的な顔」
つぅっと僕の頬を、ルコの濡れた指が伝う。
「けど、男性らしい硬い体」
頬から顎へ。顎から首へ。ルコの人差し指が順番に降りていく。
艶めいた瞳が僕を見上げて瞬いた。
「昔の幼かったナギサではなく……もう男性、なんです、ね?」
「いや……うん。ほんとこれ以上は、ねっ?」
理性という名の最終防衛ラインが突破されてしまう。
長風呂で茹っていた頭はボイコット。まともな思考なんて残されておらず、あわやこのまま大人の階段を上ってしまうかも――と、期待と不安で心がない交ぜになった瞬間、
ボチャン。
と、大きな水しぶきを上げてルコが倒れた。
「ルコ――ッ!?」
「……きゅう」
■■
火照った裸体を晒しベッドで眠る少女――というわけはなく。
ちゃんとパーカーとスウェットを着させて、寝かせている。下着についてはノーコメント。誰がどうやって着せたかとい質問も受け付けてはおりませんのであしからず。
のぼせて気絶したルコは、真っ赤な顔で目をぐるぐる回している。
不意にピクリと体を反応させると、熱い吐息と共に小さな寝言を零した。
「あんっ……ナギサのえっちぃ」
「……今度から鍵かけよう」
絶対に。
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