体育祭
「……暑すぎだろ」
炎天下……とまでは行かなくてもかなりの暑さに俺は嫌気が差す。夏休みが終わって新学期が始まり、まず最初のイベントとして体育祭が幕を開けた。
俺の通う高校はそれなりに大きく生徒数もかなりの数が居る。なので今グラウンドに用意されているテントの数も凄まじく、更に言えば保護者の数も相当なものだった。まあ俺は二年で去年にも経験したことではあるが、それを抜きにしてもこの多さは……あぁ歓声がうるさい。
「あはは、斗和参ってるなぁ」
「修か……おっとさんきゅ」
赤色のテントの下、今年は三色の内赤色に振り分けられた俺と修だ。基本的に小学校も中学校も、言ってしまえば去年も俺は修と同じ色だった。どんな幸運なのかは分からないが、本当に俺たちはほとんど一緒に居るなと実感する。
暑さにやられている俺を見て苦笑する空からスポーツドリンクを受け取り、渇いた喉を潤すようにゴクゴクと勢いよく飲んでいく。
「……ぷはぁ!」
こんな暑い日には冷たい飲み物に限る。
「良い飲みっぷりだね」
「まあな。つうかまだ昼にもなってないんだよな……早く終わらんかね」
どの学校でも基本的に体育祭というものは一日を使ってやるものだろう。こうして既に満身創痍とは言わないまでも疲れてしまっている俺だが、まだまだ始まって二時間くらいしか経過していない。全学年が参加する一大イベントでかなり盛り上がって楽しいは楽しいんだけどやっぱり疲れる。
「三年生は今年が最後だし……ま、それに付き合うのも下級生の務めってね」
「それもそうだな」
三年生は来年で卒業だし、大学に行くか就職するかで道は変わる。それもあって学生で最後に羽目を外すことが出来るイベントの一つとしては思いっきり楽しみたいところか。現に今やっているのは定番とも言えるパン喰い競争である。三年生が参加している競技だが……確かに競技に掛ける意気込みが違う気がする。
「頑張ってください先輩!!」
「うおおおおおおおおお!!」
「後少し! 違うもう少し!!」
「やったそのまま走ってくださ~い!!」
やっぱりかなり盛り上がっているな。
パン喰い競争って高校生でもやるんだなと驚いたものだが、こうして見ていると盛り上がりはもちろんのこと結構白熱しているし、見ている側としてもかなり楽しいとは思う。
スムーズに取れる人、何度も何度も挑戦しては失敗する人……そもそも背が足りなくて泣きそうになっている先輩女子が居るけどあれは可哀想じゃないか?
「あれはどうなんだ?」
「……可哀想だよね」
必死にジャンプするのに届かない様子に素直に助けたいと思う。そんな先輩女子だったが、たぶんお父さんと思わしき人が飛び出して来た。その男性は先輩を抱き上げてパンを取れる位置まで持ち上げ、その甲斐もあって先輩はパンを取ることが出来た。
「ありがとパパ!」
「ああ!」
お、やっぱりお父さんだったみたいだな。
明らかに部外者の登場ではあったけれど、今のやり取りにほっこりしたのか会場のほぼ全ての人が親子に対して拍手をしていた。お父さんも照れくさそうに笑いながら頭を下げ……あ、戻った瞬間に顔を真っ赤にしたのはお母さんかな? その人にぶたれていた。
「まああんな風に自分の娘が困ってたらなぁ……」
「お母さんの方も分かってはいるんだろうけど……」
それからも競技は進んでいき、修にとっては待ち人来るみたいな感じだろう。スタート地点に伊織が立った。さっきまではあまり興味が無さそうだったのに、伊織の姿を見つけた瞬間少し前のめりになるのは面白かった。伊織の方も修に気づいたのか、可愛らしくウインクをしてきた。
「もう少し前出て応援するか」
「うん」
生徒たちの波をかき分けるように俺たちは前に出た。
そうして高らかにパンと音が響き、伊織を含めた他の面子も走り出した。そうしてパンが吊るされている場所に来たのだが伊織さん、かなり苦戦してらっしゃる。背丈は特に問題はないが微妙に届かないので少しだけジャンプするも上手く噛むことが出来ない。
「伊織さん頑張れ!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
「すげええええええええ!!」
「あそこだけ地震でも起きてるのか!?」
さて、そんな風にジャンプしまくっていると……その、何だ。伊織の胸がそれは凄まじいくらいにぶるんぶるんと揺れるわけだ。伊織のサイズはおそらく学校一と言ってもいいくらいのもので、そんな大きなものをぶら下げていたらそりゃそうなるよってやつだ。
男子高校生として女子のそういうところが気になる気持ちは分からないでもないが、あまり大声で言わない方がいいぞ。後ろで同じ色の女子がゴミを見るような目をしているから。ったく、修みたいに純粋に応援を――
「……おぉ」
「……………」
いや、修も普通に見ていた。
相変わらず噛むことが出来ずにその凶器を揺らしている伊織だが、まさかの他の面子までもがそれに気を取られているのか上手く噛むことが出来ていない。案外伊織って策士かとも思ったが、上手く行かないことにイライラしてるっぽいしあれは素だろう完全に。
「……まあでも、あれは凄いなぁ」
男子だけでなく、女子の目線すら釘付けにする素晴らしい存在感……っと、そんな風にジッと見ていたその時だった。ツンツンと頬を突かれ、反射的にそちらに視線を向けた。
「何をそんなに熱心に見てるんですか? 斗和君?」
少しだけ圧を感じさせるように、いつの間にか傍に居た絢奈がそう問いかけてきた。
修だけでなく絢奈とも同じ色なので傍に居ることは変ではない、さっきまで傍に居なかったのは他の女子と運営の手伝いに行っていたからである。さて、愛おしい彼女に他の女の胸をガン見していたことがバレた時、何を言えば許してもらえるだろうか。
なんて、そんな心配は杞憂だった。
「まああれは仕方ないですけどね。私もちょっと見てしまいますし」
そう言って苦笑した絢奈は苦戦している伊織……あ、ようやく取れたみたいだ。かなりの時間が掛かっていたはずなのに、一番でゴールしたのが伊織なあたり他の面子どれだけ夢中で見てたんだって話である。あぁそうそう、伊織は学年の違いはあるものの赤で同じ色だ。
「凄い光景だなとは思ったけど、絢奈っていう彼女が居るんだからそこまで夢中にはならないよ」
「分かってますよ。斗和君が私にどうしようもないくらいに夢中なんて知ってますぅ!」
唇を尖らせながらも、可愛らしく笑うその姿はやっぱり愛おしいなと思う。この憎たらしいほどの暑さでなければ抱きしめているんだろうけど、流石に俺も絢奈もこの暑さの中では抱き着いたりはしなかった。
「あ、絢奈帰って来たんだ」
「はい。二人がおっぱいに夢中になっているのはしかと見ましたよ~?」
「いやそれは……」
「まあ、あの人は嬉しがりそうですけどね」
確かに修が夢中になっていたと知ったら伊織は嬉しがりそうだな。それくらいに態度は分かり切っているのに修はまだ気づいてないっぽい鈍感さ……その内伊織に既成事実でも作られそうだけど大丈夫なんだろうか。
「修君にはあれくらい手を引いてくれる人の方が合ってると思いますよ? 修君は誰かを引っ張るようなタイプじゃないですからね」
「ハッキリ言うね……」
「幼馴染ですもの」
「……そうか」
夏休みの終わる直前の出来事が上手く作用してくれたのか、こうして絢奈と修も軽口を叩き合えるくらいには関係が修復した。この光景を見ていると……何だろうな、凄く嬉しいんだ。色々あったけれど俺たちはどこまでも繋がっている、そう感じることが出来るからだ。
「あ、次は私たちの番ですね。行きましょう斗和君!」
「頑張れよ二人とも!」
「おう!」
次は俺と絢奈が出る二人三脚障害物リレーだ。
この競技を見た時に思ったんだけど、二人三脚か障害物競走か分けた方がいいんじゃないかって思うのは俺だけかな?
【あとがき】
ストックなくなりましたので不定期です申し訳ない。
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