第17話 女子高生(おっさん)と休日とお嬢様②


 白で薄く拡げたような静寂(キャンパス)の中に、水を加え、筆先で少しずつ混ぜ合わせているかのように産み出される水音が、確かに俺の部屋に発生していた。


「んっ……んっ……」


 それは、美少女同士が唇を深く求め合う音。


 目前には美少女お嬢様、鼻に通るは甘い匂い、唇にはマシュマロの感触。

 齢37のおっさんのファーストキスは、僅か17歳の女子高生に奪われたのだ。……いや、奪って戴いた、と言ってもいいかも知れない。

 まるで甘味濃度を限界まで濃縮したようなメラギの唾液が自然とこちらに流れる、それは一滴垂らしただけで25メートルプールに張った水をジュースに変化させるような幻の液体。俺は思考が一周回って冷静に働き、この世の全ての食材に感謝を込めていただきますをした。


「ーーはぁっ……! はぁ……はぁ……っ」


 どれくらい互いを貪(むさぼ)っていただろう、やがて呼吸の限界を迎えた俺達は唇を離す。


「はぁっ……はぁっ……キ……キスとはっ……こんなにも呼吸が乱れるっ……ものなのですねっ……!?」

「はぁっ……はぁっ……そっ……そうですねっ……」


 世の中のカップルはこんな事を毎日していたのかと驚嘆の念を抱く。呼吸元を塞ぎ合っているのに一体どうやって息をしているんだ、流行りの水の呼吸壱の型とか使っているのだろうか。

 注(※二人とも初めてな為、鼻で息をすることを知りません)


「ーーって! それより何でこんなことっ……!?」

「……確かに急ぎ過ぎてしまいました。貴女も同じ境遇だと判り、浮かれてしまったようです……」

「……同じ境遇?」


 聞けば、メラギは百合属性だった。告白や今回の事も本気であるが故ーーそして、俺に同じものを感じ取ったらしい。

 俺の容姿は美少女だが心は未だおっさん、だから、女の子が好き。言われてみれば、確かにメラギの直感は当たっている。女の子が女の子を好きなのとは全く意味が違うけど。


「じゃあ……それでおれ……私の事を……?」

「いえ…………………」


 何かを言い淀んだ様子のメラギは、やがて意を決したように告げる。


「…………あの、私……本当に女性が好きなんですのよ? ですが……ごく稀に……その……………中年男性に……蹂躙されている自分を想像してしまう時がありまして……そ、それが……嫌ではなくて…………それでっ……あっ……貴女の中にその精神をかっ……感じ取ったのですわっ! つまり、貴女は私の理想の完全体なのですっ!!」


 生徒会長は真っ赤になってとんでもない性癖をカミングアウトした。

 メラギはーー百合美少女お嬢様(性癖はおじさん志向マゾヒスト)という欲張りキャラセットだったようだ。


 俺はこの子の将来と、生徒会の行く末が少し心配になった。

 


 

 

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