第15話 女子高生(おっさん)の通学風景②


 満員電車内、目の前には可愛らしい女子高生。後ろには息の荒くなったサラリーマン風中年。中央にはおっさん女子高生の俺。

 これはまさしく、俺に今起きているタイムリープを表す縮図でもあった。


「もしそうなら……えと、こ……怖いですけど……私……叫びますから……お姉さんも勇気を出してください……」


 目の前の少女はどうやら、俺の息遣いが荒くなり紅潮している原因が痴漢されているからと勘違いしているようだ。どちらかというと原因は君である。

 しかし、大人しそうな風貌(黒髪セミロング 眼鏡)にも関わらず、そう言ってくれているのは感謝しかない。それが勘違いであったとしても。


 俺の後ろにいる中年サラリーマンは確かに、俺と同じ状態になり興奮しているように見える。身体のどこにも触れてはいないが、昨今では息を吹きかけたり、匂いを嗅いだりする痴漢もいるというのだから痴漢をしていないという確証はない。

 しかし、もしも冤罪だったらと思うといたたまれない。もしかしたら自分に女子高生が触れないように配慮してくれている優しいおじさんなのかもしれない。


 そう考えた俺は迷わず向き合い、話しかける。


「あの、もしかして苦しいですか? 触れないようにしてくれてるなら配慮ありがとうございます。満員電車だから仕方ありませんよ、楽にして下さい」

「えっ……!? あっ……」


 そう言って、俺は自らサラリーマンの胸に背中を預ける。爪先立ちしていたサラリーマンは思い切り動揺していたが、やがて爪先立ちを止め、楽な姿勢となり苦悶の表情は治まっていった。

 女子高生も周りにいた人達も驚いた顔をしている、俺は諭すように言った。


「心配してくれてありがとう、その勇気に救われる女の子は多い筈だから本当に痴漢されてる子がいたら助けてあげて? でも男の人も全員が全員悪い人ばかりじゃないから……誤解しないであげてね」

「あ……はい……」


 女子高生は唖然とした様子でこくりと頷いた。

 良かった良かった、痴漢疑惑による冤罪も防げたし俺もこれからは冤罪による恐怖に怯えなくて済む。みんな平和で何より。

 おっさんだった時と違って満員でも苦にならない、これなら電車通学も良いものだ。



〈翌日〉


 再度、またも電車気分だった俺はホームで電車待ち時に突然抱き締められた。見てみると、昨日の大人しそうな女子高生だった。そして横には昨日のサラリーマンもいる。


「はぁ……はぁ……お姉さん……昨日あれからお姉さんの事が忘れられなくて……そんなに綺麗なのにおじさんにも冷静に優しく、どちらの気持ちにもなれる人なんて中々いないです……是非わたしと〈痴漢撲滅の義〉を結成して一緒に戦ってください……それと『お姉さま』と呼ばせてください……わたし、隣駅の『君不去(きみさらず)高等学院』に通う【小泉いずみ】って言います……」

「先日はありがとうございます……いやぁ、この子に事情を聞きまして……危うく路頭に迷うところでした。女子高生でありながら中年の立場も考えて頂けるなんて……なんとお礼を申し上げたらいいか……あ、私(わたくし)こう言う者です。是非今度お礼をさせてください」


 サラリーマンのおじさんに名刺を渡される、『英傑出版社勤務【鴻野(こうのや)ヤコウ】』。東京に拠を構える大手出版社。エリート。


 イズミは『君不去高等学院』の生徒。ここらでずば抜けて偏差値も進学率も高いーーエリートたちのお嬢様高校。


 ただ快適に電車に乗っていただけなのに。ヤバい。



 

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