「ロシアにて」

ろわぬ

第一話 「流れてロシア」

「お前には、今日からロシアだ。」


「・・・・え?」


東京にある日朝新聞社の本社ビル


「・・・ロシアだ」


「・・・・え?」


本社ビルの38階。


「"ロシア"だ 


 ・・・ロシアを知らんのか?」


「い、いや、それは知ってますが...」


自分の目の前の、スカイツリーが見渡せる


窓の側の机に座っていた編集局次長の上司である


"松坂 保夫(まつざか やすお)"


の口から突然出た言葉に


日朝新聞文芸社のデスクである


"江母井 隆和(えもい たかかず)"は、


目が点になる。


「ろ、ロシアって...


 何で、急に...?」


"パサッ"


「・・・・!」


松坂は部屋の中で自分の机の上に


手にしていた書類を放り投げる


「・・・お前、この会社に入ってから


 何か一度でもウチの会社に


 役立つ記事書いたか?」


「・・・・!」


「お前の仕事はウチの会社の中でも


 かなり低い方だ....」


「・・・・!」


"ドキ"


上司の言葉に思い当たる事が


いくつかあるのか、江母井はかなり


動揺した態度を見せる


「・・・俺もお前と何年かこの会社で


 仕事をしてきて、


 非常~~~に


 お前の能力が低いことが分かった...」


「・・・・!」


確かに江母井には上司の言葉に


思い当たる事があった


【おい、江母井、とりあえず取材の前に


 一杯ひっかけねえか?】


【あ、ああ、いいかもな】


「(気付かれてないと思って、


  取材に行く前とか会社に嘘ついて

 

  よく酒とか飲みに行ってたしなー...


  もしかしたらあれ


  気付かれてたのか...)」


また、別の日。


【今日は、晴れてるな...】


自分の仕事の途中で江母井は


昼食のコンビニ弁当を食べるため立ち寄った公園で


気が付けば三時間程ただ、


通りを歩く人間を見ながら携帯電話で


インターネットサーフィンをしていた...


【よ~し。 またビットコイン上がってるな!】


さらに、別の日、


【おい、これ、今日の就業時間までに終わるか?】


【あ、終わりますよ】


【そうか、頼むぞ】


【・・・はい】


―――数時間後....


【おい、もう仕事終わったろ?】


すでに終業時刻も近づいているが


江母井が自分の部署である文芸部の部屋の中で


自分の机の上を見ると、


先程文芸部の部長から頼まれた


新人記者の校正の書類が目に付く


【ああ、かまわんぞ。


 ・・・何だ? 麻雀か?】


【・・・分かってるねえ】


"キュッ"


江母井の言葉に同僚は寿司をつまむ様な仕草で


麻雀牌をつまむ仕草を見せる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お前にも、思い当たる事があるだろう...」


「・・・・」


"確かに"


「(そりゃ、飛ばされるよな...)」


松坂の言葉に、江母井は


今まで自分がこの社内でしてきた事を思い返す


「そんな訳で、お前には、


 これからこの本社を離れ


 ロシアに栄転してもらう事になった。」


「・・・断ったらどうなるんスか」


「・・・・」


"パサッ"


松坂が江母井の前に一枚の書類を放り投げる


"退職願"


「・・・そう言う事だ」


「(会社辞めても


  今の時代他の職場に移るのも


  色々面倒くせぇしなー...)」


「・・・行くよな? ロシア」


「・・・はい」


「そうか、よろしく頼むぞ!」


「了解です!」


「返事はいいな、お前は」


「・・・・!」


上司の言葉に満面の馬鹿そうな笑みを浮かべると、


江母井は軽い足取りで上司の部屋から出て行く....


「(ロシアかー...)」


だがその軽い足取りとは裏腹に


江母井はこれから先ロシアで起こる事を考え、


精神的に不安定な状態になっていた...

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