第7話
「いや、なわけねーよ。こら俺をビビらせるな!」
「ご~め~ん、兄貴ィ」
ママの背中の闇が動き、山のような大男が進み出た。このバー1番巨大な店員、黒服係のテジオだった。たったいま出勤してきたのだ。
「あんた、テラちゃんが信じられないの? 何か理由があるのよ」
「だってよ。俺もう、どうしようもなくってさ!」
情けなく言う。
「テラ。あんたが呼んだ人、ちゃんと駅で待ってたよ。迎えに行って、ここに連れてきてやったよ」
さきほど店から外に飛び出した、トキの声がした。最初は巨漢のテジオに隠れ、姿が見えない。だがまもなくトキともうひとり、誰も面識ないひとりの女性が、テジオの背後から進み出てきた。
くたびれた表情をしていた。思い悩んだせいで、髪には白いものが混じっている。
彼女は何かを言おうとして口を開いた。しかし居合わせた皆の前に立たされたせいもあるのだろう。喋りだす勇気がなくなり、言いあぐんでしまった。
そんな気持ちを察したトキが、優しく彼女の肩に手を置き、代わりに語り出した。
「テジオ! 店の扉を開けて。テラが出てくるから、優しく迎えてあげな」
一瞬きょとんとしたテジオだったが――彼は頭がまわる方ではないので――素直に『天の岩戸』の前に進んだ。
それを待っていたかのように、ついに店の扉が開いた。
部屋の暗闇から、テラが姿を現した。うつむいて、いまにも泣きそうな表情をしていた。
その腕に抱いている小さな子供の姿を見て、店の前の全員が声を失った。やがて我に返ったスサオが目をむき出して問いただした。
「お、お、お、お前!! そ、そ、その子は?」
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