13−7
クリストファーが従業員専用の裏口の通路からひょっこり入ると…
「おやぁまあ〜!」
「今晩はーーーッッ!」
クスッと照れ笑いをしつつ顔なじみの話のわかる〜大好きな料理長に今ここに来た『事情』をザックリ……
掻い摘まんで短く話した
というのも彼は口が堅くーーー
絶対的に信用出来る 数少ない大人だとクリストファーは信じていた
それに彼は、気難しい性分の侍従長とも何故か阿吽の呼吸だった
という訳で、料理長を味方につければ他は何とかなる気がしていた
『きっとさり気なく…僕達の味方になってくれるだろうっ!』
「……なる程ねぇ〜」
「お願い助けて!」
クリストファーの予想した通りだった
大の『子ども好き』の彼はプリプリ怒りまくり
「ふてえ野郎だ!!これ持ってけ、若様」
そう言うなり、丈夫な密閉袋と、この袋一杯にカクテル用に細かく砕いた粒氷を、快くジャラジャラキンキンと入れてくれた
作りたての、機械で削ったのではない繊細な氷は今夜のパーティーに大切に使うはずだった品だ
「いいの?!」
「また作ればいいさぁ」
冷えた凍える冷蔵室にて大切なーーー料理人の命の手を冷やしてアイスピックで一生懸命造った料理長に心から申し訳なく思った
……だけども
彼しか出来ない、こんな柔らかにフワフワ泡雪の様に砕いた氷でも、直接患部を冷やしたら痛そうだ
〜今朝からの酷い様子では、女子が騒ぐ、清楚で端正な彼の顔に今からしようとする事は、かえって逆効果
ーーー何か嫌なダメージが出そうだった
確かに〜そういう事はちょっと避けたい気もした
……〜困り果てて
丁寧に理由を言って、「なる程そりゃ心配だねぇ」とウムウム頷く料理長から
小型の密閉袋及び、キッチンにある高級ディッシュ用の薄地の消毒済みリネンも分けて貰った
「ごめんなさい」
「?!……はっはっはっ〜 若様、ちぃっさい事気にするねぃ!」
料理長はガッシリした体を揺すり豪快に笑った
クリストファーにとって、彼はずっと父親に次ぐ憧れの人物像だった
病弱ですぐに熱を出すひ弱すぎる肉体の自分
子ども好きで優しくて
どんな時も…どんな王宮の大がかりなパーティーも快刀乱麻
命令一下ーーー……!!
巧にキビキビ……!!
大勢有能なシェフ達を指揮する格好いい豪傑の料理長
彼がテーブルに送り出す、センスがいい目にも美しい、舌が蕩けそうな美味しい料理の数々
本当に何を食べてもクラクラするほど超美味しい
しかし
「仕事以外、皆の手を煩わすのは苦手でサァ……!」
自分はレタス丸ごとむしって、何かを挟んでサッサと食べる事と
炊きたてライスに新鮮エッグを割り入れ、有機ソイソースをシュパッとかけて、ぱっぱとムシャムシャ食べるのが大のお気に入り
ーーー料理長の様な、心が優しく強く豪気な男性になりたいな……と、クリストファーはいつも心から思っていた
彼が友人のピンチをしのぐ為の思い描いた品々を携えて、プライベートゾーンにある自らの寝室に戻ると
ぽつねんと、うつろな表情で
〜ぼんやり中空を見つめてウィンストンがダラリと床に直に座っていた
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