第43話 騒動の終焉
マールブレンが拘束されたことによって事態は急速に沈静した。
地上に漂っていた魔瘴はポチによってすっかり取り払われていた。
「これ、死んでいるのか?」
外套を目深にかぶった魔法使いは地面に伏していてぴくりとも動かない。ダレルが彼の側へ近付いた。
「いや。一時的に仮死状態にしているだけだ。起こすか?」
ポチはお行儀よくお座りをしており、クレイドに対して指示を仰ぐ。
「その前に、拘束魔法をかけておこう」
クレイドは集まってきた魔法使いに支持をする。幾人かが協力して魔法を紡ぎ、魔力封じと手足の自由を奪う。ポチが魔法を解いても簡単には解けないように幾重にも魔法をかけた。
クレイドが目で合図をすると、ポチが魔法を解いた。
その途端、マールブレンの体が一度大きく跳ねた。まるで陸にあがった魚である。その拍子にフードが取れ、彼の顔が露わになる。薄い銀色の髪の毛は光の加減で緑色にも見えた。見開いた目の色は明るい茶色。黄色味がやや強く、おそらくは三十後半から四十代と思しき見た目をしている。
「おまえはすでにグランヴィル騎士団によって拘束された。観念しろ」
クレイドが告げると、彼は自身に起こったことを理解するかのように顔を動かした。拘束されていることを認識し、薄ら笑いを浮かべた。
「年老いた黒竜だと聞いていたのですがねえ」
「悪いが、だからといって人間一人に遅れは取らぬ」
マールブレンの声が届いたのか、ポチが吐き捨てるように言った。
「黒竜の秘宝……。ああ、目の前に存在するというのに、口惜しい」
藍華は一瞬ドキリとした。命の結晶の在処を知られたのかと心臓の鼓動が早くなったが、マールブレンが視線を向けるのはポチに対してだ。彼の欲しがっているものはおそらくポチが生み出した命の結晶なのだが、それがどのようなものであるかまでは知らないのだろう。
「取り調べはツェーリエに戻ってからだ」
今は忙しく彼にばかり時間をかけているわけにはいかない。クレイドが別の方向へ顔を向けた。藍華もつられる。リウハルド伯爵は無事なのだろうか。魔物の姿はないため、おそらく沈静化したのだろうが、彼は一体どのような状態なのだろう。
一人で勝手に動き回ることが憚られ、藍華はそわそわした。
やがて騎士たちが説明のためにクレイドの元へ集まってくる。
「リウハルド伯爵は人の姿に戻っていました」
「本当⁉」
「ええ。聖女殿のお力のおかげです」
思わず口を挟むと、騎士が目じりを下げた。
藍華は嬉しくて、そしてホッとして長々と息を吐いた。よかった。ありったけの願いを込めたチョコレートは役に立ったのだ。
「他の魔物たちも対峙しました」
「村への被害は特にありません」
「傷を負った騎士たちの手当てを開始しております」
それぞれが慌ただしく動き、藍華も戦った騎士たちのためにホットチョコレートを作ろうと、村へ戻ることにした。
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