後輩のファインダーを覗く理由。
春の入学式、夏の体育祭が終わり。秋の文化祭がやって来た。部員数が少なかろうと、写真部展をしなくてはいけない。去年までは俺一人の写真しかなかったが、今年は後輩の写真も混ざっている。
風景写真の中に混じる人間の写った写真。
去年まではありえなかった光景で、夏までの俺なら見ることすら苦痛だった写真だが。
今は嫌な気分にはなるものの普通に見ることができていた。後輩に、
「それは先輩が人間の醜い部分しか見ようとしてないからなんじゃないですか?」
と、言われてから。嫌々ながらもファインダー越しに人間を見るようにしていた。
ファインダー越しに見える景色は、感情の機微によって多少彩られ見られるようにはなった。
が、やはり人間は醜くく見えて仕方がなかった。
「お昼はステージ発表がありますし、今のうちにご飯食べちゃいませんか?」
「そうだな。今なら空いてるだろうし」
体育館の屋台、教室でやってる喫茶店。後輩が落ち着いて食事をしたいというので、喫茶店に足を運んだ。
「ナポリタン二つに、ケーキ二つお願いします」
後輩に注文を任せ、俺は窓の外の景色を眺める。
「先輩、何見てるんですか?」
「空だ」
「目の保養ですか」
「そんな感じだ」
後輩と会話が長く続いたことはない。部活動中は無言で写真を撮るだけだからな。行事でもなければ、一緒に行動して話すことはない。
後輩は撮った写真の確認をし、俺は窓の外を眺める。
ふと、後輩はなぜ写真を撮るのか気になった。体育祭の時は聞きそびれてしまったからな。
「後輩」
「はい、なんですか先輩」
「お前、なんで写真を撮るんだ。聞いてなかったと思ってな」
「私の理由ですか。単純ですよ、写真なら思い出は消えないからです」
「思い出?」
「はい。写真を見返せば、その時の思い出が蘇ることってよくあるじゃないですか」
「そうだな」
「もし忘れてしまっても、もし今失ってるものでも。写真だけは思い出を記憶し続けて、写真の中の物は失われません」
「写真があれば私は一人じゃないんです」
その瞬間、後輩の顔が悲しみの色を見せた。
人間の感情の機微を見るようになったから、気づいたものだろう。
「それに、悲しい時でも。楽しかったときの写真を見れば、思い出して楽しくなりますから。思い出を残すために私は写真を撮るんです。なので人物写真が多めですね」
「そうなんだな」
「そうなんです。ってどうしたんですか、先輩暗い顔して」
「何?」
俺が暗い顔をしているだと。窓に映る俺の顔は確かに暗い表情をしていた。だが何故だ?
「自分でもわからないんですか?」
「ああ、わからない。もしかしたら、人を見すぎたかもな」
「なんですかその理由」
クスクスと笑う後輩の姿は、窓の外の景色と同じくらい綺麗だった。
文化祭で撮った写真の中で、一番綺麗だったのは。風景写真ではなく遠くで友人と笑いあう後輩を写した写真だった。
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