写真の中の女生徒

「なぜ、俺はあの時シャッターを切ったんだろうか。しかもこうして現像して眺めてる」


 放課後、写真部の部室の椅子に座り俺はひとりごとをもらしていた。

 今日は新入生が入部届を持ってくる日。幽霊部員の多い写真部でまともに活動しているのは俺だけ。新入部員も何人か来たが入部届だけを置いてさっさと帰ってしまった。

 だからこうしてひとりごとを呟いているわけだが。


「失礼します」


 女生徒の声とともに、部室の扉が開いた。どうせ幽霊部員だろう。


「ん、入部届ならそこの机の上に置いてくれ」

「はい」


 入部届を置く場所を伝えて、また写真を眺める。

 部室の扉が開く音がしない。女生徒はまだ帰らず部室にいるらしい。


「あの、他に部員はいないんですか?」

「俺以外はみんな幽霊部員だよ。君もそうなんだろ、帰ってもいいぞ」


 どうせ幽霊部員なんだからと、決めつけ帰るように促した。だが───


「私、ちゃんと写真部に入りたくて来たんです。カメラだってちゃんとあるんですよ」


 そんな女生徒の声が聞こえ、写真を机の上に伏せて女生徒の方を見た。

 自分の目を疑った。目の前にいる女生徒は、今の今まで眺めていた写真の中に移っていた女性徒の姿だったのだから。

 その姿を見間違えるはずがない。なぜ写真に写したのかわからず、ずっと眺めていたのだから。


「写真部に入部するんだな。幽霊部員じゃなくて」


 この女生徒を前にして感じる、感情の名は何だろう。初めて写真に残した人。なぜか目を離せない少女。


「はい。私、写真を撮るのが好きなんです」

「そうか」

「あの、先輩って呼んでもいいですか?」

「ああ、好きに呼んでくれ。俺も、後輩って呼ぶ」

「ありがとうございます。先輩って呼ぶの憧れてて」

「そうか」


 なぜ俺が嫌悪感を抱かず、後輩を写真に写したのか。その理由を俺は知りたい。その過程で、感情の名もはっきりするだろうから。




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