たった一人きりの文芸部員が語る恋妄想。恋と呼ぶにはあまりにも妄想すぎるんじゃない?
さかき原枝都は(さかきはらえつは)
第1話 妄想と現実の狭間
うっとおしい梅雨が明け、空には青空が広がり雲の白さがはっきりとわかるようになった。
放課後の文芸部の部室には私一人しかいない。
最も部活と言っても部員は私一人きりだから、これから来る人なんか誰もいないのだ。
そしてこのひと時が私の自分の世界に入れる唯一の時間でもある。
窓を開けると、少しひんやりとした風が舞いこんでくる。
ここが海辺であるからだろう。
棚にある本を一冊手に取り、しおりのページを見開くと、またあの世界へと私をいざないてくれる文字たちが目に飛び込んでくる。
ふと、物語に出てくる花の名前に私の思考は固まった。
花言葉は……『あなただけを見つめている』
今朝登校時に見た花壇の向日葵。
その前で私は告白されてしまった。
今思い出すだけでも顔が赤くなってくるのがはっきりとわかる。
「ああ、なんで私なんだろう」と、つぶやくが誰も聞いていない。
告白してきたのは、同じクラスの
そう同姓なのだ。女子なのだ!
なんでだ!
後ろからただ一言耳元で囁かれた。
「好きだよ」
ああああああああ! なんで?
私達女同士だよ。女同士の恋愛ってありなの?
しかも彼女はあの向日葵を意識してわざとあそこで言ったんだと思う。
向日葵の花言葉をかけていたんだよね。……きっと。
でもさ、春香ってどこかつかみどころがないというか、自由っていう言葉がよくあてはまる感じの子なんだよね。
あれはほんのジョークだったのかなぁ。
だよね。
こんな陰キャな私なんかとは、正反対の性格なんだもの。
それにさ、男子の中じゃ、春香人気あるんだよねぇ。
この前だって、別のクラスの男子に告られたって聞いたんだけど。どうしたんだろう。
その時、部室のドアが開いた。
誰も来るはずのない部室のドアが静かに音を立てずに開いた。
そしてそこには彼女。
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