JK転生~莉愛さんと俺のスクールライフ

RINFAM

第1話

「莉愛さん……ッ!!」

 突然、襲い掛かられて押し倒され、開きかけた唇を塞がれた。キスされたのだとすぐに気付いたけど、別に嫌とも何とも思わなかった。ただ、そんな自分に少し驚いただけ。

 ソファに仰向けで倒されたまま抵抗しないでいると、その後も貴由は何度も何度も口付けして来た。キスの上手い下手なんて私には解んないけど、ちょっと息苦しいくらいで痛くはない。

「……………ッッ!!!」

「す、すんません…!」

 今の無し。訂正。馬鹿貴由。調子に乗って、がっつき過ぎ。

 どこか非現実的な展開に思考が追い付かず放置していたら、貴由の勢いが良すぎて互いの歯がぶつかり、私はツーンとした痛みに顔をしかめることとなった。

 おかげで暴走してた貴由が我に返り、慌てて私の上から飛び退いたのだけれど。その時すでに彼は、私の部屋着の前ボタンを全部開いて、裸の乳房をやお腹を露わにしてしまっていた。いつの間に。ていうか、私への介助の経験値がモノを言ったのか、手際良すぎでしょ。

「俺、あの……そんなつもりじゃ」

「別に良いよ。キスくらい」

 琢磨と子供の頃から挨拶の度にキスしてたから。とは内心密かに思ったりしたが、何となくそれを言っては駄目な気がして、この時私はあえて黙ったまま口にしなかった。理由は解んないけど、たぶん、正解。

「次やったら、保留にした件は反故にするから」

「す……すんません」

 ジロリと睨み付けて身を起こした私は、何でもない振りを装って前ボタンを留めた。でも、実を言うと内心動揺していて、ボタンを留める指先が少し震えていた。貴由には気付かれていないと、思うけど。

「制服、乾いたら今日は帰って」

「………はい。帰ります」

 なんとなく居たたまれなくて、私はリビングに貴由を一人残してベッドルームへ入った。そうして内側から掛けたこともない鍵を掛け、朝起きた状態で乱れたままのベッドの上に身を投げる。

「………ビックリした」

 思わず本音が漏れた。無意識に触れられた唇へ手を当てる。まさか貴由がこんな行動に出るだなんて。いや、そもそも彼が私のことを、あんな風に思っていただなんて、私は今の今まで、まったくこれっぽっちも気付かなかった。

「私、アイツのこと……」

 どう思ってるんだろ。どうしたいと…どうなりたいと、思ってるんだろう。

 改めて今日の事態を思い返して、我ながら不思議に感じてるんだけど、貴由からの告白(というか、あれって求婚だよね??)を、私は、いったいどうする気でいたんだろう。

 ついつい考えるのが面倒になって、彼からの求婚(だよね?)を『保留』ってことにして先延ばしにしたけど、即断らなかったってことは、受けるかどうか悩んでるってこと?

「頭ん中、ぐちゃぐちゃだ」

 うう。訳わかんない。頭痛い。なんか胸が苦しい。

 ドアの向こうで貴由が部屋を出て行く気配と、オートロックの鍵が掛かる音を耳にしながら、私は、ひたすら悶々と答えの出ない想いについて考え続けた。けど、いくら考えても、何ひとつ答えなんか出て来なくて。


 ふと気付いた時には、夜の9時を回っていた。

「………風呂入って寝よ…」

 前世の頃の私は1週間入らなくっても気にならなかったが、転生してからはさすがにそうもいかなかった。なにしろ私、女に生まれちゃってたし。『面倒だから入らない』という我儘を、琢磨が許してくれなかったから。

 けど、お風呂の気持ち良さが少し解って来たし、なんとなく習慣づいてしまったので、今ではだいたいほぼ毎日入るようになっていた。

 琢磨は『女の子なんだから当然!!』と言うけど、そんなもんなんだろうか?と今でも思うことはある。だって、疲れて面倒な時は、女だって入らないよね??男と違って生理だってある訳だし。まあ、他の女にそんなこと聞いたことないから、たぶん、だけど。

「はあ………」

 素っ裸になって湯船に浸かった私は、改めて自分の身体をマジマジと見直した。

 うーん…我ながらオッパイ大きい。私がそうなるよう望んだ訳じゃないが、正直、重いんだよね。肩凝る。それと、今まであんまり気にしたことなかったけど、男からしたらコレってどうなんだろう。魅力的だったりするのかな。私にはそれも良く解んないんだけど。

「貴由も………ッ!?」

 名を口にした途端、顔が急激に熱くなった。えっ、え、なんで??どうして??意味不明な己の反応。その原因を何かと考えた私は、それによって唐突に甦ってきた光景に、ますます顔が熱くなってきてしまった。


「ん、ん、貴由…ソコ、くすぐったい」

「もう少し我慢して下さい。綺麗にしますから」

 全裸になって貴由と一緒に風呂へ入って、身体の隅々まで洗って貰っていた自分。泡の付いた小さなスポンジで彼は、いつも丁寧に私の身体を綺麗にしてくれていた。手足や背中、胴体はもちろんのこと、おっぱいや足の間の割れ目まで、何もかも全部。

「―――――――ッッ」

 そうだ。私、貴由に、あんなこと。


 生肌を触らせたばかりか、オッパイや、あ、アソコまで。


「……………ッッッッ!!!!!!!」

 今の今まで全然なんとも思ってなかったことが、急激に恥ずかしく思えてきた。まるで今になって私の中の『女の子』が、長い眠りから目を覚ましたと言わんばかりに。


 ううん。そうじゃない。


 気が付いた。思い出したんだ。


 15年ぶりに再会した彼が、あまりにも懐かしくて。あんまりにも『昔』のまま過ぎて。うっかり忘れていたことを思い出した。


 貴由は男で、


 今の私は、女だってことを。

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