「運命の一〇六階へ」
――百五階。
「リルル! 今よ!」
「ええ――サフィーナ!!」
リルルの右脚、サフィーナの左脚、体の側面を合わせて
固い金属の集合体が、一瞬にして乾いた砂の
同類の
「リ……ルル……!」
「わかっ……てる……」
目指すべき百六階への階段は、もう目の前にあった。障害となるものも全て
疲労が骨に
そんな少女たちを天井から冷たく見下ろしている数字の動きもまた、変わらない。一秒につき一秒、一分につき一分――なんの感情もなく
「残り時間……十、十八分……三十、秒……」
もう数字を見るのも
体力などというものはとうに
骨の一本、筋肉の
「サフィーナ……」
「心配はご無用よ。立てる……立つわ。見てて……」
差し
「――リルル、現実をわかってるわね。私たち、この百五階を突破するのに、三十分かかった。つまり……」
「次の階で多分、残り時間が
多分、という言葉を使ったが、それも強がりだ。リルルもサフィーナもそうであることを理解していたが、
もしも、奇跡が起きて次の階ではそうならなかったとしても、そのまた次の階では――。
「もしも……もしもよ。残り時間がなくなって、あのフェレスとか庭師とかいう奴の、ふざけた
階段の段に足を乗せる。片足に体重の全部を任せ、それが耐えてくれている間に、もう片足を先の段に乗せる。そして同じ要領で、次の段を
「どうするのって……サフィーナ、私の性格はもうわかっているでしょう。なら、予想がつくはずよ」
「わかっているけれど、
震える脚を
「時間が切れたから、はい負けました、
ふらり、とサフィーナの体が後ろに
「あ……ありがとう、リルル……」
「時間が切れたって、
燃えるアイスブルーの
「こんな勝負、人質をとって無理矢理参加させられたものよ。
「リルル、気持ちはわかるけれど、女の子が口にする
「私はこの塔を上るのを、やめない。サフィーナ、あなたもでしょう」
「――嬉しいわ、リルル。あなたと意見が
顔が微笑にほころぶのをとめられないサフィーナの足が、進む。一秒前よりそれは明らかに軽かった。
「私、生まれた性別を
「やめてよ……ニコルとあなたに迫られたりなんかしたら、とても身がもたないわ……」
「なにがあっても私の相棒でいて。私の望みよ、リルル」
リルルも微笑みで返す。
階段を上りきり、百六階に二人は足を
「……敵の気配がないわね」
待ち構えているはずの
「どうしたのかしら。迷路が設定されているのに敵がいない、なんてことはなかったと思うけれど――」
『やあ、リルル嬢、サフィーナ嬢』
天井から響く、もう耳に
『二人ともここまでお疲れ様だ。
「高みの見物でしょうが! わざわざなにをいってくれるというの。もう時間に間に合わなくなった私たちをからかうために声を
「リルル、落ち着いて。
『そうそう。それなんだ。キミたちにとてもとても残念なお知らせをしなくてはならなくてね――』
リルルとサフィーナの背骨が音を立てて凍った。その内容は予想がついたからだ――悪いものが。
「……待ちなさい! まだ時間は残っているわ! もう無理だからって、ここで打ち切るわけじゃないでしょうね!!」
『打ち切り? なんでそんな話になるんだい? そもそもキミたちの挑戦には可能性が――あっ』
数瞬の
『いやあ、すまない。ボクの方が言葉を選び
「……どういうこと……?」
『ニコルくんのおかげだよ』
ニコル、という名前を耳にして少女たちは顔を見合わせた――
『キミたちが上がってくるのと
「つまり……」
リルルとサフィーナが同時に天井の表示に視点を合わせた。
――残り時間、十二分十五秒。
『この階では
リルルたちの足元の床が赤く光った。それは入り組んだ迷路に一本の曲がりくねった道を作る。これに
『いやあ、待ったをかけなかったら、それでも百十六階で時間切れになっていたはずなんだけど。
百十八階に着いても、十分は時間がある。その間に百十九階にまで到達できれば。
『ただね、
「……え?」
「百十八階は迷路にはなっていないが、六十階と同じような強敵を用意している。キミたちはそれに勝利しないと、ニコルくんの元にはたどり着けないよ』
「同じようなって……あの
『まあ、
壁と天井の全てが映像を投影する板に変わる。それは無限に連なる気配を見せ、案内の光に従って進みながらでもリルルとサフィーナは確認することができた。
映像の光景は六十階と同じく、昇降機の主軸以外はなにもない
『ここからは見えないか。視点を移すかな』
映し出される景色がぐるりと動き、少し高い位置から遠くを見渡す視点に切り替わる。塔の内壁、壁際に立つ三体の人型が
「私たちが倒したゴーレムじゃないの!」
「それも三体……!」
リルルとサフィーナの心が、冷え切った。六十階でたった一体を相手にした時も、何度ダメになるかと思わせられたかわからない強敵。それが数を増している。
「……リルル、あれに勝てる勝算がある?」
「手元の勝算は在庫切れしているわ……思いつかない」
『ああ、キミたちはちょっと、思い違いをしているよ』
リルルたちの目が
『キミたちが相手をしてもらうのは、こっちの方だ』
その瞬間に少女たちは知った。この映像の視点はどこに置かれているものか、ということを。
数百本の
「くぅぅ……!!」
そんな輝きの嵐、あふれる光の旋風と荒波の中で繰り広げられた光景を二人は、確かに、見ていた。
「――――!!」
言葉を失い、足も止めてしまってその光景を見守っていた二人の少女の視界の中で、画面の光景がひとつ、大きく揺れた。
それは、ほとばしる光を吐き出した
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