「屋上の決着」
両手で
それに対し手刀だけで立ち向かうニコル。
「――――――――」
「っ!」
「う…………」
剣を大上段に
「な……どうして……」
「この剣……俺が、振り下ろすのを、
「こういうことだよ」
ニコルの右手が手刀の構えを解いて、開いた。床に転がった魔法のレイピアが手招きに呼ばれたように軽快に飛び、その
「そんな……インチキが……」
「だから、返せといったんだ」
ニコルの顔に
「
「……きっと拾うと思っていた。拾わなければ、これをあなたの背中に飛ばすだけだった。そうならなくてよかったよ……その場合は、手加減ができないんだ」
「クソッ、タレ……」
バズが意識を失う。
ニコルは動かなくなったバズの手首に
「――サフィネル!」
魔法のレイピアの
「ええっ!?」
マハが
「あ……あなた、あのバズを倒したの……!?」
「相棒に後で聞いてみるといいよ――サフィネル、大丈夫かい!」
ニコルは叫ぶ。マハの向こう、五十歩は先の遠くに、
「ニ……コル……」
その肌も半ば
「私は……大丈夫、ですわ……」
ドレス姿の少女の体が、ゆらりと揺らいでその場に倒れ伏す。ニコルの姿を見たことで気力が
「――貴様!」
「待って! 降伏するわ!」
ニコルが
「あなた、バズを倒してきたんでしょ。あたしがかなうはずないわ! そ……その子だってまだ死んでない! 息はあるはずよ!」
「――動くな! 少しでも動いたらこの剣は君を
「や、やめて! これを止めて!!」
「君が大人しくしていれば、傷ひとつつけはしない。警告に
「サフィネル……っ!」
「……ニコル、大丈夫ですよ……」
凍り付いて動かないと思えたまぶたが震え、動くような気配がした。紫色に染まった
「ああ、やっぱり来てくれた……約束通り……あなたを信じていてよかった……」
「……ありがとう、今まで
「……このドレスには、
「わかった。すぐ終わらせる」
サフィネルの体をそっと横たえ、ニコルは立ち上がった。
ニコルが手をしならせるように開くと、マハの体を何度も
「色々聞きたいことは山ほどあるが、
「待って! お願い、見逃して!」
マハはその場にひざまずいた。
「逮捕だけは
「そんなことを聞くわけにはいかない。
「心を入れ替えるわ! 本当よ!
――そこからが、問題だった。
「――なんで脱ぎ出すんだ!」
二本目の手錠がない以上、どうやって
「だって、武器を隠し持ってないと
「うわあ」
隠し武器どころか、隠さなければならないものも隠せるかどうか怪しいような下着姿になったマハが立ち上がる。顔を引きつらせたニコルが
「――ね。ただとはいわないわ。今だったら、
「服を着てくれ! あと近づかないで!」
「ふふふふ」
そのニコルの
立とうにも脚がいうことを聞いてくれない少年、その開いた脚の間にひざまずき、マハは大きな宝石が指輪がついた右手で、ニコルの真っ赤に染まった
「や……やめて……」
彼女の体を押しのけようとしても、ニコルには触れてはいけない部分しかない。文字通りに手の出しようがなかった。
「あら、可愛い。――ふふ、
「た、助け、助けて……」
ニコルの両の首筋を、マハの
「さあ、あたしに全て
ニコルの首の後ろに回ったマハの手が、右手の指輪の宝石を外した。石の下から現れた、
「今、天にも
ニコルの首の後ろ、一番上の
――離された手首を、横から
「もしもし?」
「――――え」
手袋の主にマハの視線が向いた時には、マハの顔面に
鼻柱を砕いた打撃に彼女の意識が吹き飛び、続いて半裸の体も吹き飛ぶ。
女魔法使いのあられもない姿が数メルトの距離を飛び、コンクリートの床に叩きつけられる様を、ニコルが息を飲んだまま見守っていた。
「――ニコル!」
「はい!」
振り抜いた拳を納めたサフィネルの声に、尻もちをついたままのニコルが背筋を
「なんですかあなたは! あんなわかりやすい
「そ、そんなことはありません! ただびっくりして!」
「
「わ、わかりました!」
何故自分は敬語を使っているのかニコルにはわからなかったが、そうしなければ許してもらえないという
「まったく……ううっ」
その場で両膝をついたサフィネルが、大きく体を震わせる。魔法のドレスを覆っていた
「だ、大丈夫かい?」
「……このドレスは体を温めてくれますが、ひとつだけ効果が及ばないところがあるのです。さ、寒い……」
「どうしたらいい? 僕にできることなら、なんでもいってほしい」
ニコルが顔を寄せる。実に情けない状況だったが命を救ってもらったのだ。なんでもするつもりだった。
「ええ……実は、凍えているというのは」
認識
「ここなのです」
ニコルの唇に軽く、ぴと、とサフィネルの唇が乗った。
「――――」
乗ってから数秒間その意味を理解せず、確かに少女の凍えて冷たい唇の感触と、その唇の感触を自分の唇が感じているというというのはどういうことなのかをニコルが理解し、
「――うわあぁぁっ!?」
少年の体が
「うふふふ! 実にあったまりました! 身も心も回復です!」
晴れやかな笑顔を振りまき、サフィネルがすっくと立ち上がった。
さっきまで凍えて倒れていたのが冗談かなにかのように、軽やかにその場で一回転し、いつの間にか取り出していた
「なんてことをするんだ、君はぁっ!」
「あら? リロットはいっていましたよ? 快傑令嬢になればあなたの唇を奪える特権が得られると」
「嘘だ!!」
「――ニコル。女は
人ひとりが飛び込める大きさの長方形をサフィネルが描ききったかと思うと、それが突然に光り輝いて一枚の鏡を作る。もう一度微笑したサフィネルはニコルにカーテシーで
「ま、待って――」
ニコルが腕を伸ばすのも無視し、まるでそれが水面であるかのように鏡は紫陽花色の快傑令嬢の体を飲み込み、ほどなくして
「……なんでこう、快傑令嬢は僕の唇を狙うんだ……偽者も
うなだれたニコルは今日最大の難問に直面した。
これをどうリルルに報告したらいいものか――。リルルに報告しないという
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