「太陽よりも眩しい瞳」
『三つ子か…………』
王妃の出産の報告を受けたエルカリナ国王の声に、喜びはなかった。
だが、王国が今までに直面したことのない事実が、国王の心を揺り動かしていた。
王国の
だが、重大な問題があった。
『陛下、この三人の王子のどなたをご
『――――』
国王は
今までに前例がなかったからだ。
双子の場合ならば、前例があった。先に母体から取り出された方が弟で、後から取り出された方が兄。『先に入ったのだから、後から出てくる方が先に生まれた方である』というのがその理屈だ。
その風習は、
だが、三つ子という事態は――。
「どうするべきか」
次男はすぐに決定した。二番目に取り出された王子が次男と定められ、成人した
『問題は――』
残り二人のうち、長兄が誰か、末弟が誰か。
『簡単なことだ。双子の際にも、後に出て来た赤子が兄となる。三つ子の場合も同じ理屈だ。最初に出て来た赤子が三男、最後に出て来た赤子が長男――これで問題はあるまい』
重臣たちの討議では、そんな意見が多く出た。だが、公正を示そうと討議の場、時間を
重ね重ねも、
最初に生まれた王子の守り役となった貴族は、全力で
『いや、それは双子の場合であるに過ぎない。我が国でも『三』という数字は幸運とされている数字である。それはこの王国に栄光あれという、まさに天意である。これは、腰を
近年、勢力の
誰もその主張を
『ここは、国王陛下の祖母であらせられる、
当時、王都から遠く離れた地で
『最初に取り出された王子を、長兄とする』
意外な決定に、重臣の多くたちはどよめいた。最後に取り出された王子が長兄であるという判断が下されるだろう、という予想がほとんどだったからだ。
確認のための使者が派遣されたが、その使者がたどりつく前に太王太后は
最後に取り出された王子には、『ヴォルテール』の名を
かくして、意外な逆転劇を
しかし――。
◇ ◇ ◇
「全て
玉座に座するカデルが
冷静な印象を持つはずの少年がその白い顔に朱の色を垂らし、興奮の口調でいい放っていた。
「使者はその貴族に買収され、太王太后は
言葉が火炎の熱を帯びて
「娘、お前にはそれがわかるだろう。私が
言葉の炎に
「――理解をしたならば、私に従うのだ。賢明なお前ならばわかる話だ。どうせ、
事実は語られた。自分こそが正統であることは示された。
目の前の娘もそれを理解し、自分を真実の王としてその
自分は王なのだ。この国を、この世界の頂点に君臨し、全てのものを遠き高みから
そして、自分は、この娘と――。
「――――はは」
少女の
「――あは、あはは……」
「娘……?」
カデルの胸に、飲むべき清水に
「あはは、あははは……」
違和感が確信に変わる。その肩は恐れのために震えているのではない――
「あははは、あはは、あはははははははは――――!」
少女の笑いが嵐のように
「はははは、はは、はははははは…………」
荒れ狂った波が
「はは、は、は――――」
笑い声が
「――それで……」
音にもならない小さな
――そして、少女の笑みに彩られた
「――
カデルの心に、天が地に
「な……に……」
「――――
カデルが
玉座に座していなければ、その場から後ずさっていたかも知れなかった。
「――たった……たった……」
リルルの顔がわずかに上がる。
のぞいた
「――
少女が、
「――そんな、二百年も前のカビが生えたような話のために、こんなに大勢の人たちが傷つかなければならなかったの!?」
青い光に輝くレイピアが振られる。
「――――冗談じゃないわ!!」
顔を上げる力さえ残っていなかったはずの少女が、自分の脚だけで立ち上がる。自らの闘志の炎で全身を燃え上がらせ、命の
「私に、私たちに、なんの関係のない話じゃない!! ――今を生きる私たちには、国王が正統かどうかなんて、問題じゃない! 今が平和なら、それでいい! そんなことはね、関わりのある人だけで解決すればいい話なのよ!」
誰にも説明をつけられない力に支えられて、リルルがその場に立つ。
それは借り物の力でもなんでもない。少女の
「……コナス様は、王の座なんて全然欲していなかった! あの人は、自分らしく生きたいと思っていただけなのよ! それをみんな、みんな、あなたたちが台無しにした! 許せない――許さないわ! 私は絶対に許さない! 許してなるものですかぁっ!!」
「――――」
カデルが口を開くが、リルルが発する怒りの暴風の前にそれは吹き飛ばされた。絶句する
「私は頭がよくないから、難しい話はわからないわ――でも、わかることが、たったひとつだけある! それはね……あなたが、王の座にはいちばん
言葉のムチがカデルを打ち
「む……娘、いうに、
「謝りなさい! コナス様に、あなたたちが傷つけた全ての人に、心から謝るのよ!! そしてこの竜を停止させなさい! 『赤い瞳』を持っているのでしょう!」
カデルが反射的に左腕を動かし、リルルの目はそれを見逃さなかった。カデルが隠すように腕を乗せた玉座の
ひとつは赤い色、もうひとつは、闇を
「赤い方は本物、黒い方は
「……じ……自分が優位に立っていると思い込んでいるようだが、私とお前、その実力差がどれだけ開いているのか、よく理解していないようだな……」
「力の差がどうだろうと、あなたが勝つなんていうことは絶対にない! 私が正しいからじゃない――あなたはね、あなた自身の
リルルが、腰の
「――失礼いたしました。まだご
すっと片足を引き、リルルは膝を軽く曲げた。上体が傾き、すり切れ、切り裂かれてざんばらに乱れるようになった
「お見知りおきを願います――私の名は、王都の風に聞こえる快傑令嬢リロット! そして!」
両の腕が、鳥の翼のように広げられる。血と汗に汚れた薄桃色のドレスでも、豊かに広げられたそれには美しさしかなかった。少女の心が、信念が、魂が発する美が、
「その真の名は、フォーチュネット伯爵が一人娘、リルル・ヴィン・フォーチュネットでございます!
――ヴォルテール男爵様! あなたの
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