エピローグ
第36話 真の目的
オレがやって来たのは王都にある
リースの窮地を救ったオレを表彰してくれるらしい。
目立つのは好きじゃないが、個人的な理由で受けることにした。
魔法が発達しているこのリメリア王国で最も盛んなスポーツは何だと思う?
魔法による決闘や、魔法を使った競技が思い浮かぶかもしれない。
そういう類のものももちろんポピュラーではある。
だが正解はサッカーだ。
奇妙かもしれない。だが、サッカーには、金持ちも貧乏人も、魔法を使える者も使えない者も、あらゆる人々を引き込む不思議な魔力がある。そんな気がする。
試合開始直前、両チームの選手が入場するが、今日は少し違う。
選手は入場口の両サイドに立ち、国王とリース、オレの3人を拍手で迎え入れる。
しかし凄い熱気だ。
客席は一面赤い服を着た集団で埋め尽くされており、声援がスタジアムに響いている。 向かって右側の上のほうに青いユニフォームの団体が僅かに見える。
国王がリースとともにピッチに立つ。
「今日は皆に報告がある」
国王の一声で、客席が静寂に包まれる。
「先日、王立魔法学園にて、帝国の間者により生徒が襲撃されるという事件が起こった。我が娘リースも危険に晒された」
ブーイングが会場を包む。
「しかし、1人の勇敢な生徒によって、帝国の闇は打ち砕かれた。紹介しよう。ゲートポート出身のローランドだ」
オレはリースの前に跪く
「我、汝を守る盾となりて、全ての敵を打ち砕かん。リメリア王国に光あれ!」
リースはオレに勲章を授与する。
「彼は王国の未来を明るく照らす光だ。もう1度彼に拍手を」
ライバル同士が拍手する、実に奇妙な光景だ。
オレはピッチを去り、客席へ戻る。
* * *
試合終了の笛がピッチに鳴り響くと同時に、自分の体の前で小さくガッツポーズをする。
試合は0-3で青いユニフォームのクラブ・ゲートポートの完勝。次の試合、引き分け以上で優勝が決まる。
赤いユニフォームのレアル・リメリアの選手たちはピッチに倒れこみ、サポーター達は葬式のときのような暗い表情で静まり返る。
スタジアムには、敵チームの
肩を落とし、帰っていくサポーターを尻目に、オレはある人物の元へ向かう。
スタジアム内の個室にその人物はいた。
「失礼します」
「来たか、座ってくれ。
その人物はキント・リブラ。ギルド・ゲートポートの代表であり、クラブ・ゲートポートのオーナーでもある。
ギルド・ゲートポートの代表という肩書は少々複雑だが、簡単に言えば市長と会長を兼任しているようなものである。
「君の噂は聞いてるよ。僕としてもゲートポート出身の君が活躍してくれて嬉しいさ」
「それはどうも」
「そんな冗談は置いておいて、本題に入ろうか」
この人とは初対面ではない。むしろ何度も会ったことがある。
「今日の試合を見てどう思った?」
「確かに我々は強いですが、お世辞にもいいとは言えない守備陣にクリーンシートを献上するのは、レアル・リメリアの今シーズンの勝負弱さを表している。そんなところでしょうか」
2-3で負けるなら、こちらが1枚上手だったと言えるが、今日の試合は1枚どころではなかった。
「何故世界中の金持ちが、こんなお遊びに大金を突っ込むと思う?」
「所有欲……でしょうか?」
金持ちの気持ちなど、オレにはわからない。
「それもなくはないだろう。だが本質は違う。サッカーは世界を表している」
その表現は飛躍し過ぎな気がするが、オレなりの解釈をぶつけてみる。
「クラブの強さは即ち、オーナーの強さであると?」
「そうさ。レアル・リメリアの弱体化は、王室の、王国の弱体化を意味している」
「なるほど」
確かに、学園内に帝国のスパイの侵入を許すなんて前代未聞だ。綻びが様々な場所に表れている気がする。
「あの小娘と1か月過ごしてみてどうだった?」
「お飾りの王としては100点満点です。ですが、この国の頂点に立つ者としては、少々優しすぎる気がします」
リースを王としての器と見たときの、率直な感想を伝える。
「国王については?」
「少ししか話していないので何とも言えませんが、温厚な人物といった印象ですかね?
「だが、君を地獄に追いやった張本人に変わりはない」
「ええ、あの日、あの瞬間から、貴族も王族も敵ですから」
この国を
「では君に、改めて命じよう」
固唾を呑んで、彼の言葉に耳を傾ける。
どんな言葉が発せられるのかわかっている。
わかっているからこそ、注視せざるを得ない。
たった数秒のはずの間が、とても長い時間のように感じる。
「リメリア王国第一王女リース・リメリア・レオーネ・ベリアールを暗殺せよ」
「はい」
代表の目をこれでもかと睨み付けながら言葉を発する。
命令だから従うのではない。
それはオレの意志であり望みだ。
オレの平穏を揺るがす存在は、何者であろうと消し去る。
「ゆっくりでいい、こちらにも色々と準備がある。今は姫の信頼を得ることに注力して欲しい」
「はい。帝国のスパイの1人を懐柔することに成功しました。彼女に協力させれば、我々の繋がりも発覚することはないでしょう」
「流石だ。では頼んだぞ」
オレがすべきことはただ1つ。リースを暗殺するだけだ。
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