第26話 帝国の闇

 複数の生徒が集まっている所にオレとリースも寄ってみる。


「何かあったのか?」


 オレが話しかけると、ゼオンがこちらを振り向く。


「どうした?」


 ゼオンはただオレとリースのほうを無言で見つめる。


「何とか言えよ」


 ニコ、ジュロードス、フランカ、エリック。彼らも同じように振り向き、こちらを無言で見つめる。


「皆さん、一体どうしましたか?」


 リースの問いかけにも一切応じない。


 5人は無言のまま、ゆっくりと近づいて来る。

 その不気味な様子に、オレとリースは思わず間隔を狭めないように後ずさりする。


「ぐわあっ」


 突如、オレは魔法を受け、弾き飛ばされる。

 飛ばされた方向から察するに、クラスメイトとは別の何物かによるものだ。


「ローランド!」


 リースの呼び声が聞こえた時には、オレは既に背後から何者かに抱えられていた。


「ローランドを放しなさい」

「とりあえず武器を下に置け。話はそれからだ。さもなくばこいつの命はねぇ」


 オレを拘束している男は、リースに語りかける。


「わかりました」


 リースは要求に応じ、長杖スタッフを置く。


「あなたは誰ですか? なぜこんな事を?」


「俺は帝国から来た。目的はあなたを攫うことだ」

「わたしをですか?」

「そうだ」

「クラスメイトのみんなをおかしくしたのもあなたの仕業ですね?」

「俺じゃねぇが、仲間がやったものだ」

「お前……喧嘩吹っ掛けて来た奴……だな」


 オレは人質らしく声を震わせる。


「ご名答だ。褒めてやるよ」

「何故だ?」

「何故かって? そんなの知らん。上の崇高な考えは俺達には分からん。俺達に下された命令はそこにいるお姫様を帝国に連れて来ることだ」


 帝国の考えは理解できない。王国の弱体化が狙いならリースを暗殺するだけで十分だ。 わざわざ誘拐するなんて手間がかかり過ぎる。


「王国の弱体化が目的なら……ここでリースを殺せばいいだろう?」

「お前、王女を売ってまで自分の命が惜しいのか。王国の連中にはガッカリさせられる

「自分の命を懸けてまで帝国のためにこんなことをする狂信者とは違うんでね」

「だがそいつはできぬ相談だ。お姫様は丁重に扱えとの命令だ」

「それも上からか? 少しは自分の頭で考えたらどうだ?」

「うるせぇ、人質は黙ってろ」

「ぐはっ」


 魔法による攻撃を受ける。


「さあ、お姫様。降伏すればこいつは助けてやる。だが、抵抗するならこいつは殺して、あなたにも痛い目にあってもらう」


「……」


 リースの表情には焦りと迷いが見える。

 おそらくリースはオレの命を天秤にかけている。

 反対側が自分の命なら、喜んで差し出す。リースはそういう奴だ。

 だが、今かけられているのは国民の命だ。

 オレを見殺しに国民を守るか、オレを助け国民を危険に晒すのか。その2択が迫られている。


「いいか、リース。オレだけが犠牲になればなんてことない事件で終わる。だがリースが誘拐されれば、それは王国の崩壊に繋がる」


 オレの命とリースの命の価値は違う。王の器なら見誤るな。


「わかりました。要求を飲みましょう。その代わり、ローランドを解放してください」


 オレの言葉は返ってリースの意思を強固にしてしまったようだ。


「ああ、いい答えだ」


「駄目だ。それは最善ではない」

「命の価値は誰しも平等です。わたし1人の犠牲で済むのならそれで構いません。それにローランド……あなたは覚えていないかもしれないですが、わたしはあなたのおかげで、王族という呪縛の中で生きる意味を見つけられたのです。だから、あなたを……助けさせてください」


 オレの考えはリースには届かなかった。


「出てこい」


 黒いマントを被った奴がもう1人出てくる。

 そいつはリースの近くに手錠を落とす。


「それは魔力を封じる特殊な手錠。それを着けたら、彼を放して差し上げましょう」


 もう1人の女はリースに囁く。


「本当に解放してくれますか」

「勿論。魔王様に誓って」


 信用できないな。


「は……はい」


 リースはまだ動揺しているようだ。


「さあ早く、リース姫。さもないとあの男の子がどうなっても知らないですよ」

「わかりました。他ならぬ親友の為です」


 リースは手錠を拾う。

 震えながら手錠を左腕に近づけていく。

 カチッという音とともに、左腕に手錠がはまる。


「右もだ」


 リースの両腕に手錠がはまる。こうしてリースは魔法が使用できなくなる。


「よしご苦労」

「早くみんなを解放してください」


「そうだったな。まずはお前からだ」


 男はオレを解放する。


「さあ、苦しめ」


 男は後ろからオレを斬りつける。


「ハッハッハ、もっとだ」


 倒れたオレの体を何度も何度も斬りつける。


「キャアアアア!! どうして!? 助けるって言ったじゃないですかあぁぁー!」


 リースが悲鳴を上げる。


「無垢な姫君よ、叫べ、苦しめ。リメリア帝国は何万もの憎しみの上に建国された。帝国人は憎しみにより団結する」


「お願い! やめて! わたしを斬って!」

「ならん、ならんぞ! リメリア王家の闇はこんなものではない。綺麗ごとを抜かすな。血塗られた王家の歴史を忘れたとは言わせない」


 男は闇属性に飲まれ、叫びだす。


「お前たちは初代王セバスを英雄だと崇める。

 だが帝国では違う。あいつはただの殺戮者だ。何十という小国を滅ぼし、その犠牲の上にリメリア王国を建国した。

 だが我々帝国は偽善にまみれた偽の国王を追い出した。

 そうしてリメリア帝国は生まれた。


「都を追われ、偽の王座に座る偽善の王を追い出す。

 憎悪と苦痛が、あなたの血を目覚めさせる」


 オレにとどめを刺そうと、剣を振り上げる。

 だが、オレの体は消えていく。


「なんだ!?」

「なんで1人で暴れてるんだ?」


 オレは男の背後から杖を構える。


「なんで? どうしてだ!?」

「オレには影を剣で突き刺しながら、訳の分からないことを叫ぶ変な奴にしか見えないんだが」

「お前、碌に魔法が使えないくせに、勝てると思ってるのか?」


オレが魔法を使えないという情報は、帝国のスパイにも伝わっているようだ。


「やってみなければわからないだろう」

「そこまで言うならやってあげるわ」


 もう1人の女も杖を構え、1対2の状況になる。

 さてどうするか。

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