第5話 異端の証明

 エリックから受けたダメージは思っていたより大きく、医務室に着いてすぐ深い眠りに落ちてしまった。かなり長い時間眠りについていたようだ。

 眠りから覚めると、隣にリースが座っていた。


「お目覚めのようですね。怪我は大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

「そうですか。保健の先生も特に問題はないと仰っていましたし、何事もなくてよかったです」


 体を少し動かす。特に痛む場所はない。十分に回復したようだ。

 ふと、窓の外に目が行く。夕日だ。


「え!?」


 そんな長い時間眠っていたのか。

 だとすれば、少なくとも時計の短針が反対を向くくらいの時間、ずっとここにいたことになる。


「もしかして、リースはずっとオレのそばに居てくれたのか?」

「はい、ローランドがここに来てからずっとここにいました」


 心配してくれるのは嬉しいが、たまたま隣の席になっただけのオレに6時間も寄り添うのはやり過ぎな気がする。


「悪かったな、見ず知らずのオレのために長い時間つき合わせてしまって」


 それでも感謝の念は一応述べておく。


「そ、そんなことはありません。あなたは……」


 リースが一瞬だけ下を向く。


「あなたが悪いわけではありません。困ったときはお互い様です。だから、いつでもわたしを頼ってください。わたしはいつでもローランドの味方です」

「ありがとう、助かる」


 まあ、過保護な性格なんだということで今のところは納得しておこう。


「そういえば先生から職員室に来るようにとの伝言を預かっています」

「そうか、ありがとう。オレはこのまま職員室に向かうよ」

「はい、ではわたしもここで失礼します」


 リースと共に医務室を出る。廊下で佇んでいる生徒と一瞬目が合う。


「気を付けてな」

「はい。また明日」


 オレはここでリースとは別れる。


「お待たせしました」

「用事はお済みですか」


 その生徒はリースと共に去っていく。声と服装から察するに女子生徒のようだ。一体何者なのだろうか?

 だが、今の優先事項は先生に会いに行くことだ。






 *  *  *






「失礼します」


 そう言って職員室に入る。中には何人もの教員がいて、カイル先生を見つけられないでいる。


「ローランド、こっちだ」


 カイル先生に呼ばれたので、そちらへ向かう。


「怪我の様子はどうだ?」

「特に問題はないです」

「そうか。それはよかった」


 万が一問題があったらこの人はどう責任を取ったのだろうか? 文句を言いたい気持ちもあるが、ここはその気持ちを抑える。


「ところで、要件は何ですか?」

「色々あるんだが、何から話そうかな」


 そう言いながら、カイル先生は資料のようなものに目を通す。


「うーんと、勉強のほうはまあまあってところか」


 先生が見ているのはどうやらオレの成績表のようなものらしい。


「どういう理由かは知らねぇが、毎年1人か2人、魔法がまるっきりできねぇ奴が入学して来る」

「それは妙ですね」


 その対象であるオレが言えたことではないが。


「この学園の入学試験の採点基準が適当だなんて言われることもあるが、教師である俺もさっぱり分からねぇ。そもそも、入学試験の要項に点数がいい奴を取るとは一言も書いてねぇしな」


 確か入学試験では魔法の実技試験と筆記試験があったはずだが、テストしておいて点数いい生徒を入学させないのはそうとう問題ではなかろうか。

 しかし点数が関係ないとしたら、一体どうやって入学者を決めているのだろう。


「くじ引きでもしてるんですか?」

「俺が生徒だった時にはそういう噂が流れたな」

「カイル先生ってここの卒業生なんですか?」

「まあな」


 それは少し驚きだ。


「ま、学校のテストってのは優秀な奴を炙り出すモンじゃあねぇ。都合のいい奴を炙り出すモンだ。それに、さっきの試合を見ればお前に才能があることくらいは分かる。だからそう気にするな」

「それならオレは都合の悪い人間ということになりますね」

「まあ、そーゆー事だろう。それが学園にとってなのか、王国にとってなのかは知らねぇが」


 担任なら少しは否定して欲しかったというのが本音だ。


「そんな優等生の烙印を押されなかったお前には世話役としてリース姫は別に、もう1人上級生をつけることとなった。」

「世話役ですか!? というかリースってオレの世話役だったんですか?」


 お姫様を世話役にするのはいいのか。さらにもう1人いるのは面倒だな。


「正確には師弟制度とか言った気がするが、そこんところは何でもいいや。とにかく、俺が去年教えてた面倒見のいい奴を選んどいたから安心しろ」

「はぁ」


 これも運命だと受け入れるしかない。


「あと、これを渡しておく」


 先生は引き出しから鍵を取り出し、オレに手渡す。


「これは?」

「そいつはお前の寮の鍵だ。1人に1部屋ずつ分け与えられてる」

「ありがとうございます」

「要件は以上だ。何か質問は?」

「特にありません」

「じゃ、行っていいぞ」

「それでは失礼します」


 そしてオレは職員室を出る。

 オレは都合の悪い奴……か。案外間違いではないかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る