第44話 レドとバアル

「よくもッ!」


 回避に成功したナディアは、即座にバアル打倒に動き出す。

 レイもそれに続こうとするが――。


「ッ!?」

「させませんよ」


 立ちふがったレドの一撃。

 これをレイは、手にした短剣で受け止めた。


「その剣、自動防御ですね? 遠距離攻撃用のペンデュラムとの構成は面白いですが――――」

「きゃあッ!!」


 早い踏み込みから振るわれた剣に、レイが弾き飛ばされる。


「得意のペンデュラム攻撃は接近戦になれば使い物にならず、その魔剣は力押しに対応できない」


 レドの読み通り、レイの魔剣【ボージュ】は敵の攻撃を自動防御する便利な一品。

 だがあくまで『受ける』だけ。威力を相殺してくれるわけではない。

 起き上がったレイに、レドは再度攻撃を仕掛けてくる。


「ダンジョンで手の内をさらしたのは失敗でしたねぇ! もはやあなたに勝ち目はありません!」

「……勘違いを、しているようね」


 防御に集中し、どうにかつばぜり合いに持ち込んだレイはレドをにらみ付ける。


「確かに近接戦闘となればペンデュラムを飛ばすことは難しい。でも……使えないわけじゃない」

「ッ!!」


 その足元には、黄色のペンデュラムが刺さっていた。


「そして私は、こういう事態を想定した装備を身につけている」

「まさか……っ! 自分ごとッ!?」

「巻き起これ――――雷霆!」


 走る稲妻が、容赦なく二人の身体を駆け抜けていく。

 強烈な衝撃に、ヒザを突くレイ。

 その目が、驚愕に見開かれる。


「どう……して……?」


 レドは大きくよろめいたものの、無傷。


「さすがに今のは焦りましたねぇ。ですが私の武器は【封魔と放出】の魔剣。つまり最初から魔法攻撃は効かないんです……よっとォ!!」


 繰り出された一撃をボージュが自動で受け止める。しかし。


「――――解放」

「きゃあああああああッ!!」


 放たれた電撃に崩れ、倒れ伏す。

 煙を上げながら身体を震わせたレイを見て、レドは思わず舌なめずり。


「レイジングピーク!」


 ナディアは黒い悪魔のやや手前を狙い、地面を隆起させる。

 こうして手前に出てきていたバアルと悪魔を分断したところで――。


「レイズ!」


 さらに足元を突き上げ、せり上がった地盤を踏み台にして跳躍。

 そのまま魔剣で斬り掛かる。

 するとバアルは、飛び掛かって来たナディアの剣をつかんだ。


「魔物を使役するヤツは本体が弱い……か?」

「そういう……ことだよっ!!」


 魔剣イクスプロジアが起こす爆破、爆破、爆破。

 しかしバアルは、イクスプロジアをつかんだまま放さない。

 吹き飛んだ上着に代わってのぞいたのは、全身に幾重にも刻まれた魔法陣だった。


「この程度の攻撃で、オレを倒すことはできない」


 鈍い光を放つ魔法陣。ナディアはイクスプロジアを手放し大慌てで飛び下がる。

 そこに、聞こえてきた声。



「――――こいつは、お返しだ」



 ジュリオが投擲した魔槍は、【風射】によって風すら置き去りにするほどの速度で飛来する。

 しかし、わずかに首を傾げたバアルの頬をかすめるようにして通り抜けていった。

 壁に刺さった魔槍が、盛大な爆発を巻き起こす。


「……ぐ、ああっ!」


 渾身の一撃を放ったジュリオはさらに多量の血をこぼし、再び倒れ伏す。


「気づいていなかったとでも思ったか?」


 つまらなそうに、バアルが息を吐く。


「――――逃げて!!」


 ルカに向け、叫ぶナディア。

 その背後から突き出してくる、巨大な悪魔の手。


「……ッ!?」


 叩きつけられ、動かなくなる。

 こうして三人の騎士は、あっという間に倒された。


「よろしかったのですか? 槍の騎士は戦えばそれなりに楽しめたかと思いますが」

「楽しめる? 勘違いをするな。オレから見れば皆、無様な弱者でしかない」

「なるほど、その通りですね」


 残ったのは悪魔の放った魔力砲に耐えたルカと、その背に守られたユーリのみ。


「……女の方は、私が頂いてもいいでしょうか?」


 レドはいやらしい笑みと共に、唇をなめる。


「貴様は相変わらずだな。女とみれば殺したくなる」

「これはお恥ずかしい」

「騎士の女はどうした?」

「もちろん目が覚めてから……ふふ、たっぷり時間をかけて」

「……勝手にしろ」

「ありがとうございます」


 うやうやしく頭を下げるレド。

 嗜虐的な笑みを浮かべながら、ユーリの方へと向き直る。


「では始めましょうか。ご心配なさらなくとも、あなたもしっかり殺しますよ……ふふふ、できるだけ無残にねぇ」

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