ぼっち美少女は変態猫や先輩Vtuber達にセンシティブにイジられるそうです

アンビシャス

堕天使デビュー編!

第1話 Vtuberオーディション!(本人は知りません)

「それでは姫宮紗夜さん。あなたの志望動機を教えてください」

 私は首を傾げて思った。

 あれ、予防接種に志望動機いるっけ? と。

 

 雑居ビルの二階の一室。

 注射待ちの列に並んで、ようやく入れたと思ったらソファに座らされ……向かい側にはきれいな女の人とうさんくさい男の人が横並びになって座っていた。


 女医さんとその助手……なのかな? 

 もしこの女医さんの副業がモデルだって言われても、ちっとも驚かない。

 そのくらい、その人はきれいだった。


 通った鼻筋、シャープなフェイスラインにぱっちりお目目。

 私なんかとは大違いだ。


「姫宮さん?」

「あっ! あわっ、わっ、ごごごめんなさい。えっとえっと」

「落ち着いて姫宮さん。まだ一問目よ?」


 女医さんの心配する声が飛んできて、私は更にテンパってしまう。だってこんな美人さんと話す機会無いから……えっと志望動機、だよ、ね?


 多分、予防接種の前のアンケートみたいなものかな。だったら、私が予防接種を必要な理由を言わないと。


「えっと。私の家、隕石で潰れたんですけど」

「ちょっと待って姫宮さん」


「幸い、家族は全員出掛けてたし、ご近所さんにも被害はないんですけども」

「そんなことある? 姫宮さん」


「それで家計苦しくなって……私も稼がなきゃいけないんです!」

「止まってくれない姫宮さん」


「だから今、病気で休むわけにはいかないんです!」


 届け私の想い! 伝われ我が家の経済状況!


 労働バイトのために、私は絶対に予防接種を受けねばならないのだ!


 気付けば私はテーブルに手をついて、女医さんに向かって身を乗り出していた。

 

「な、なるほど。これ以上ない志望動機だわ姫宮さん。それじゃあ、次の質問に……」


 すると女医さんは身をのけ反らせて、私の目から視線を外した。

 ――――勝った……っ!


 数多のバイト面接を受けてきた私だから、分かる。

 これは受かる手応え! 

 私は女医さんに見えないよう、小さくガッツポーズした。

 やったよ、お母さん、伽夜かやちゃん。私の志望動機想いちゃんと届い……


「――君の志望動機、たしかにすごいねェ」


 安心・油断・刹那の隙。

 流れ出した勝利確定BGMを遮るように、女医さんの隣に座っていた男がテーブルに足を乗っけて――宣言する。


「ただし、日本じゃあー2番目だァ」

「なん、ですって……っ⁉」


 それはつまり……私以上に予防接種を求める人がいた……ってコト⁉ 


 にわかに信じられない。でも、この人の目を見ていく内に分かってしまう。


 一見うさんくさく見える、この男の人こそ――――主治医。

 私が女医さんだと思っていた人は女医さんではなく……看護師ナースだったのだ。


「くっ!」

「いや、『くっ!』じゃないから姫宮さん。悔しがらなくていいから」


「お願いします! もう一度、私にチャンスをください!」

「それは落ちた人のセリフよ姫宮さん? 貴女まだ落ちてないから安心して……」


「良かろう。では、ここからは俺が相手してやろう」

「ちょっ⁉ 駄目よ、あんたロクなこと聞かな」


「お願いします!」と、私は看護師さんの言葉を遮って頭を下げた。

 私はフンスと鼻を鳴らし、今度こそと気を引き締める。


 組んだ両手に顎を乗せて、主治医さんが問いかけてきた!


「君は……今日これ(Vの面接)が終わったら何をするんだ?」

「はい! (予防接種が)終わったら、店長パパに報告に行きます!」


 勢いよく言ってから、「あっ」と後悔する。しまった。

 店長のこと――――パパって言っちゃったよ⁉


 いつもバイトの時は店長から『パパ』呼びを強制されていたから、つい癖で言ってしまった‼ 


 まずい、早く訂正しないと……。

 そう思ってたら、看護師さんが「へぇ~」と目を丸くして尋ねてきた。


「なんだか羨ましいです。家族仲が良いんですね」

「は、はい! アットホームさを売りにしてるので!」

「一気に不穏な気配が増したのですが?」

「そんなことないですよぉおおーーーー⁉」 


 私の馬鹿ぁああああああ‼ 

 後悔先に立たず、もう二人とも納得した感じの雰囲気で先に進もうとしている。


――――押し通すっきゃない‼ 


「じゃあ、もし受かったらお父さんがどんなリアクションするか言ってみてくれ」


「もっと早く受けてこい、このノロマって言います!」


「お父さん厳し過ぎない⁉」


「いやでも娘への期待値半端ねーな⁉ え、受からなかったら何て言うんだ?」


 私は思わず想像した。

 もし予防接種受けられなかったら…………あの店長だったら…………。


「――(シフト)入れさせて、くれないかもです」

「(家に)入れさせないの⁉ やっぱりあなたのお父さん厳しすぎでしょ⁉」


「獅子は子を谷に落とす、か……子も逸材なら親も逸材だなッ!」

「だなじゃないわ、このちゃらんぽらん! イヤよ私⁉ こんな話聞いて落とせないわよ!」


 そう叫んで、看護師さんが主治医さんの肩に掴みかかった。

 良いのそんなことして⁉ 


 看護師さんの態度にびっくりしたけど、何もなかったかのように、主治医さんが咳払いして、次の質問に移った。


「では仮に受かったとして。週に何回(配信)やれそう? ぶっちゃけ(配信)何時間までやれる?」


 私は少し考えて、質問の意味に思い当たる。


 これは……予防接種の後どんな生活をするか聞いてる、のかな? いやそうだ! ここまでの流れ的に絶対そうだ!


 だから私は今後のシフトについて答えた。


「そうですね! 週に幾つ入れるかは分かりませんが(他の店員との兼ね合いもあるし)、やったらだいたい十は固いと思います!」

「十時間! 姫宮さん体力ありますね。私も以前やったけれど翌日に響いちゃって」

「へ? いや十日ですよ?」

「死ぬ気かしら姫宮さん⁉」


 看護師さんのオーバーリアクションに、私は「あはは」と穏やかに微笑み返す。


「やだなぁ。大丈夫ですよ、前にもしましたから(十連勤)」

「十日間耐久配信経験者⁉ なるほど、お父さんが期待する理由が分かったぜ!」


 手を叩いて喜ぶ主治医さん。やった! なんか知らないけど好印象! 


 ホッと胸を撫で下ろしていると、主治医さんは「最後の質問だ」と言ってから、眼光をキラリと光らせた。


「君の目標はなんだ?」


 その鋭さに私はごくりと唾を飲み込んだ。

 ここに来てようやく、私は主治医さんの、ひいてはこのアンケートの意義に気付けたかもしれない。


 そう、これは予防接種を受けてから先の人生、あなたはどう生きるのか。


 それを問いかけるためのアンケートだったんだ!

 だったら答えるしかない。

 今の私の、人生の目標は―――――――――――


「(健康寿命を)100年延ばすことです!」

「(チャンネル登録者を)100万伸ばすか! いいぞ、それでこそ逸材だぁ‼」


 ――――やっ……た。 


 受かる手ごたえを再び感じた私は今度こそ! 

 袖をまくって、主治医さんに腕を突き出した!


 すると主治医さんも腕を突き出した!


「合格だ! 君なら出来る! 目指せ金の盾‼ 目指せスパチャ1億! 我が事務所は総出を上げて君を支えるぞぉ‼」


 ガシィッ! と腕を組みかわす私と主治医さん。

 注射してもらえると思った私は…………


「ほわ?」と首を傾げた。


 こうして私は、Vtuber事務所【ヘブンズライブ】に所属するVタレントになった。


 私は合格通知が届いてからようやく、あれが予防接種じゃなくてオーディションだったことに気付き――――私を騙してオーディションを受けさせた妹を正座させた。


 泣かした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る