第169話―サファイア姉妹と使用人ケルンの観光二の巻―

紅茶も仮想で作製された物。

サファイア姉妹の前に置いて感謝の言葉を送られた。ただ用意したのは俺で変わりはないが操作して作ったのは開発者であり運んだといったに過ぎないと感じた。

度をすぎる言動が目立っているペネお嬢様ことペネロペ・レードル・サファイアの所作は洗礼されていて気品に富んでいた。


「こうして飲む一杯は格別ですな。

開発スピードの進捗は風の如くとは聞き及んでいたけど、よもやここまで完成度が高いとは。

日本の夜明けは近いぜよ」


「あ、あはは……えーと。

ペネお嬢様ご満足でなりよりです」


敷いて設置されたシートの上で正座する姿勢は美だけを追求してきた芸術的ではある反面その言葉に苦笑をこぼさずにはいられない。

頬に汗が垂れていると感じながら俺は、改めて世界遺産としてのケルン大聖堂の内部を見渡す。

身廊……入口から祭壇まで続くのが中央通路。どこまでも延べるスケール感に圧巻させられた。そもそも俺には他の大聖堂と比較するほど訪れて見てきたことが無いから

他とは凄いのかよく分からなかった。

ピクニックみたいなお茶会でしばし歓談に楽しんでいた。


「ねぇ、お兄さまケルン大聖堂でデートいたしましょう!ひと時の時間も素敵ですけど中を回ってみたいです」


派手やかなドレスで覆っていたペネお嬢様の妹が優雅に茶を楽しむのはまだ早かったようだ。

高貴な身分であっても内側にあふれんばかりな活力を存分に開放したい年齢だろう。

グレイスさんとペネお嬢様に目を見てアイコンタクトを取る。意見は一致してグレイスと二人で茶会をこの辺にしようと片付けるのであった。

片付け終えるとサファイア姉妹の楽しみを頼まれるとき以外には邪魔しないよう随行ずいこうする。

それが我々の役目なのですと指導してくれた隣に立つグレイスの教え。

静かに付いて歩こうとしたがペネお嬢様の妹君に手をつかまれ引っ張られた。


「お兄さま!あそこをご覧ください、ご覧ください。とてもキレイです!

ひときわ目をひくとはこの事ですね」


手を引かれ連れてこられたのは身廊から区分される両端にある廊下である側廊そくろうだ。

ケルン大聖堂の入口から右側に進むとステンドガラスが飾られてある。壁面を装飾として取り付けられたステンドガラスは五枚で色鮮やかな絵で大々的に人物が多くを収まるほど描かれていた。

たしかに一際目を引かれる色彩を前にして大きく感嘆の息を吐く。どうやら先程まで言葉を失っていたことに悟った。


「ひとかどの武士として忠告しておこう。

お兄様よろしいですか?あまり小さな子に欲情を持たないように。伊藤博文や桂小五郎のようにはならずに願います」


ケルン大聖堂のステンドガラスを見上げて感動していた俺の隣にと知らずに立って忠告をささやくペネお嬢様……………。


「いえ、そんなこと恐れ多いこと考えていませんよ。それに偉人に失礼ですよペネお嬢様ッ!?

たしかに挙げた偉人はロリコンだけど、そんな邪な心はありませんから信じてください」


激しく違いますと応えるが、どこか弁明めいて説得力が欠けていると感じた。

それと彼女が囁いた言葉には、いつもの時代的な口調でないのが本当に忠告されたみたいで焦りや困惑があった。

ペネお嬢様は楽しげにクスクスと笑い、

妹君はよく分からずに首を傾げて会話を見つめ、

背後から刺すような視線を送るグレイスさん。

――精神的に摩耗したような疲れが襲い、サファイア姉妹たちの後を続く。ペネお嬢様は身廊に戻って進んでいくと不意に足を止めて見上げる。


「なんと精緻せいちなことで」


なにを心に打たれたのか視線を追おうとして仰いでみたが天井。

圧巻するアーチ状の構造、高くて厳かな纏っていたけど素直に言うならペネお嬢様は、どのへんに感動したのか読めなかった。

グレイスさんなら何か分かるかと隣に振り向いて目で尋ねたが彼女は首を横に振る。


「「?」」


いったい何に感動していらしゃっるのですか?と疑問を解消するためだけに尋ねるのはわずらわしく受けるものなので決して口にしないようにとグレイスさんが以前そう言っていた。

指導の言葉を守るなら訊くのを諦めて徹底するのみ。彼女が満足するまで待機、とはいえ妹君の方は退屈か疑問からなのか姉の裾を引っ張る。


「お姉さま、どうされましたの?」


「少々と難儀な御仁だと捉えてしまうものでしょうが致し方ない。

仮想の中とはいえ、あの交差するはりをここまで違和感なく制作されているのを感動していたのでござるよ」


純粋な問いに純粋な応えで返していた。

しきりに見上げていたのは交差した梁や装飾品などかと納得した。同じく腑に落ちたと顔をするグレイスさんは小さく言葉を発そうとする。


「そうですかリブ・ヴォールトを」


「リブ、ヴォールト?」


また難しい言葉が出てきたと、ここに入ってから何回目だろうかと数えたくなる。

そんな心を読んだわけではないけどグレイスさんは疑問の言葉を耳にして応えようと振り向く。


「まったく、そんなことも……いえ難しいから今回は仕方ないですか。

省いた説明になりますがリブ・ヴォールトとはゴシック様式でのアーチを平行にして押し出した建築の形状です」

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